2002年1月23日(水)「しんぶん赤旗」
内閣官房が自民党国防関係合同部会で提示した「有事法制の整備について」と題する文書は、今後の政府・与党の有事法制論議のたたき台になるものです。自民、公明、保守の与党三党はすでに「国家の緊急事態に関する法整備協議会」を立ち上げ、本格的検討を開始しようとしています。日米共同の戦争体制をつくる有事法制の動きは急ピッチです。
今回の内閣官房文書の特徴は、有事法制の必要性を「日米安保体制の信頼性を一層強化」していくためだとあからさまにのべていることです。
これまで政府は、有事法制について、「わが国に対する外部からの武力攻撃が発生した場合に必要な法制」(「防衛白書」)と説明してきました。ところが、今回はこの理由と並んで安保体制の強化をあげているのです。
この間の有事法制論議の出発点となったのも、アーミテージ現米国務副長官らが一昨年十月にまとめた特別報告でした。同報告では「有事立法の制定を含む米日防衛協力のための新指針の勤勉な履行」を明記。同報告の作成者の一人であるマイケル・グリーン米国家安全保障会議(NSC)日本・韓国部長は、別の共同論文(昨年四月)で「協力に消極的な民間機関や地方公共団体に対し、必要な協力を行うよう強制できる権限を総理大臣に与えるよう、さらに立法措置が必要」としています。
つまり、アメリカがアジア太平洋地域でおこなう戦争に日本が参戦するガイドライン(日米軍事協力の指針)の具体化として、国民を総動員する有事法制を求めているのです。今回の文書で「国際協調の下でわが国の安全を確保していく」と強調していることも、テロ対策特別措置法で自衛隊の報復戦争参戦を強行したのと同じ理屈です。
内閣官房文書では、「武力攻撃に至らない段階」でも、「有事」として対応ができるようにしています。これまで「日本が武力攻撃を受けた事態」やその「おそれがある場合」を対象にしていたことから一歩踏みこんで、「有事」の間口を広げています。
これは、「有事」以前の段階であっても、政府が必要と判断しさえすれば、国民の基本的人権を制限する措置に道を開こうという危険をはらんだものです。
政府は、その根拠としてテロや「不審船」事件を口実に使っていますが、テロや不審船への対応は第一義的には警察権の行使の問題であり、戦争のさいの非常時体制をつくる有事体制とはまったく次元の違う話です。
なぜ「武力攻撃に至らない段階から適切な措置」をとることが必要なのか、内閣官房文書は「冷戦終結後の我が国を取り巻く安全保障環境の変化を踏まえ、新たな事態への対応を図ることが重要」とのべるだけで、根拠をまったく説明していません。
二十二日の自民党合同部会で政府から説明を受けた同党中堅議員さえ「そもそも有事法制は、『治安出動』で対応できない部分を『防衛出動』でやるもの。その境界があいまいになっている。何でも対象になるというのでは、『どうしてこれが有事なんだ』と攻められるのがオチだ」と語りました。
政府はこれまで有事立法の制定にともなう国民の基本的人権の制約など、法や政令の未整備の問題点を、第一分類(防衛庁所管のもの)、第二分類(他省庁所管のもの)、第三分類(区分が不明確なもの)の三つにわけて検討し、一九八一年には第一分類、八四年には第二分類の検討結果を公表しています。
今回の文書で報告された第三分類の詳しい検討状況は、初めて発表されたものです。(1)有事の際の住民保護・避難・誘導、(2)民間船舶や航空機の航行の安全確保、(3)電波の使用制限、(4)相手国の捕虜・傷病者の待遇――を柱としています。
それによると、住民の保護、避難、誘導措置については第一に、「関係行政機関等による総合的な対応」があげられ、地方自治体を含む行政の総動員がねらわれています。ガイドライン法(九九年制定)では、地方自治体には「協力を求めることができる」というだけで強制措置でなかったものを、有事法制で盛り込もうとしていることは重大です。
民間船舶や航空機の航行の安全確保についても、「安全確保」を口実にしながら、実は「船舶・航空機の航行する航路・航空路・海域・空域の指定」が目的です。自衛隊・米軍の作戦行動を優先し、民間船舶・航空機の排除につながります。
また、通信分野でも、「不必要な電波の発射の制限」も盛り込まれており、国民生活への影響は避けられません。
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