2002年2月15日(金)「しんぶん赤旗」
「安全・安心の医療を守ろう」と十四日、「さいたまスーパーアリーナ」で開かれた国民大集会でおこなった日本共産党の志位和夫委員長のあいさつ(大要)は次の通りです。
みなさん、こんにちは(「こんにちは」、拍手)。ご紹介いただいた志位和夫でございます(拍手)。たいへんな壮大な集まりですね。ここに立っておりますと、国民の命と健康をまもるために日夜がんばっておられるみなさんの怒りの熱気がひしひしと伝わってまいります。私は、日本共産党を代表して、みなさんのたたかいに敬意を申し上げるとともに、心からの連帯のあいさつを送るものです。(拍手)
NGO(非政府組織)排除と田中外相更迭問題をきっかけに、内閣支持率が急降下、手負いとなった小泉内閣が、「改革の手綱を緩めない」と叫んでいま熱中しているのが、国民の医療の大改悪です。政府・与党は十一日、サラリーマン本人三割負担を来年四月一日から実施することで合意し、来週にも国会に法案が提出される動きになっています。
医療は、国民にとって生き死にが直接かかわる文字どおりの命綱です。命綱をたちきる負担増が、どうして「改革」でしょうか(拍手)。こういう問題を、政権延命の道具にしようとは、冷酷非情のきわみではありませんか。
小泉医療改悪を、国民の圧倒的な世論と運動で中止に追い込み、この改悪を持ち出したことを、小泉政権にとって“命取り”となるように、追いつめようではありませんか。(拍手)
ことしから来年にかけて、小泉内閣が強行しようとしている医療改悪は、大不況のもとで苦しめられている国民の暮らしと健康に、追い打ちをかける空前の大改悪です。それは国民のあらゆる層に犠牲をしいるものです。
第一に、お年寄りにたいしては、ことし十月から、一割定率負担の徹底と償還払いという“二重苦”がおしつけられます。診療所では一回八百円、月四回までは定額、病院では月三千円から五千円という上限がなくなり、かかった医療費の一割をそのつど窓口で支払わなければならなくなります。“高額医療費”を超える分も、いったん窓口で支払った上で、申請して二、三カ月後に返ってくる償還払いです。病気にかかったお年寄りに、面倒な申請手続きをしいて、それができなければお金を返さない。よくもこれだけの冷酷なしくみを考えたものであります。
第二に、サラリーマンは、本人自己負担が三割、家族の入院も二割から三割に引き上げられる。さらに保険料もボーナスを含めてとりたてるしくみになります。月収三十万円、ボーナス百二十万円のサラリーマンの場合、現行の年間十五万六千六百円から十九万六千八百円に、四万二百円もの値上げになります。これが、健康悪化だけでなく、消費をさらに冷え込ませ、経済危機もいっそう深刻にすることは明らかではありませんか。(拍手、「そうだ」の声)
第三に、診療報酬引き下げは、長期入院の患者さんの“保険はずし”などの形で、病気に苦しむ患者さんにおしつけられることになります。六カ月をこえる入院患者を、「医療の必要性の低い社会的入院」とみなして、入院費の一部を保険の対象からはずし、患者さんの個人負担におしつける。全国保険医団体連合会の調査によれば、月七万円もの負担増になるということです。一言で「社会的入院」というが、多くは継続的な治療が必要な疾患に苦しむ人々です。小泉首相は、そういう人々に、病院を出ていったいどこへいけというのでしょうか。
小泉首相は「三方一両損」などというが、「損」をおしつけられる「三方」とは、すべて国民―「国民一方損」ではありませんか(拍手)。「損」をのがれてほくそえむのが、国であり、大手製薬会社ではありませんか。いくらごろ合わせのようなスローガンを叫んでも、真実をごまかすことはできないのであります。(拍手)
しかも、これだけの負担増政策を強行しても、五―六年後には医療保険財政は破たんすると、厚生労働省自身が認めています。そこで、いっそうの改悪が必要になってきます。
いま「医療制度の抜本改革」が必要だという大合唱がおこっています。それでは「抜本改革」とは何か。十一日の政府・与党合意で、「将来の抜本改革について」という項目の中心におかれているのは、「新しい高齢者医療制度の創設」ということです。
そのねらいは、すべてのお年寄りから医療保険料を徴収することにあります。もともとその青写真は、一九九七年の橋本内閣、小泉厚生大臣の当時につくられていました。そこには、すべてのお年寄りからの保険料徴収の計画がはっきりと明記されています。
介護保険料の負担の重さに、どれだけのお年寄りが苦しめられているか。医療に携わっているみなさんは、肌身に感じておられることだと思います。そのお年寄りに、さらに医療保険料までとりたて、苦しみの追い打ちをかけるようなことの、どこが「改革」か。むきだしの負担増を、「抜本改革」などとごまかすのはやめよ―この声を小泉政権につきつけていこうではありませんか。(拍手)
そもそも医療保険は、病気という人生の困難なとき、収入も苦しくなるときに、だれもが安心してお医者さんにかかれるために、つくられたものです。
私は、患者さんの窓口負担を増やし、お医者さんの敷居を高くして、医療費の抑制をはかるなどというのは、邪道中の邪道だということを、強く批判したいのであります。
何よりも、窓口負担の引き上げは、必要な受診の抑制をまねきます。私は、昨年十二月の党首討論で、政府の調査結果をもとに、病気の自覚症状を訴えている人は年々増えているのに、病院に通っている人は、九七年に健保自己負担が二割に引き上げられたことを境に急減しているという事実を示しました。病気の自覚症状がある人のうちの13%、約二百八十万人が、お金の心配から病院にいけず我慢しているのです。これが三割負担になったらどうなるかは、火をみるより明らかです。
小泉首相は、これだけ明白な証拠をつきつけられても、「必要な医療は抑制していない」「負担を低くすると、何でもない人がお医者さんに殺到してしまう」と暴言をはいた。何という情けない態度でしょうか。
だいたい、ヨーロッパの主要国では、患者の窓口負担はごく少額で、日本のように重い負担を求めている国はありません。私は、先日の代表質問で、サミット七カ国を、公的医療保険制度のないアメリカを除いて比較すると、医療費の窓口負担を中心とする医療・健康のための費用が、家計消費支出に占める割合は、他の五カ国が3%台から4%台であるのにたいして日本は11・1%であることを示し、首相に「異常と思いませんか」とただしました。
首相は、根拠も示さず「高いということはない」と否定しましたが、私がとりあげた数字は、OECD(経済協力開発機構)という国際機関のデータをもとに日本労働研究機構という政府の特殊法人が分析したものです。小泉さんが、「特殊法人の民営化」をいうのは、こういう政府に都合の悪いデータを出す仕事が邪魔だからでしょうか。
政府の審議会も、かつてはまっとうな方向を示していました。国民皆保険制度の体制が確立した翌年の六二年に出された社会保障制度審議会の勧告では、「医療保険の被保険者や被扶養者が医療を受けやすいようにするためには、医療費の自己負担を軽減することが望ましい」として、国保もふくめて、本人、家族とも、給付を「九割程度にまで引き上げる」と書いてあります。国保の七割給付は、「さしあたって」の目標で、九割給付、窓口一割負担がもともとの目標だったのであります。窓口負担は減らしていく――これがあたりまえの方向なのです。
小泉内閣がいまやっていることは、この出発点にてらしても歴史を逆行させる、ひとかけらの道理もないものではないでしょうか。(拍手)
それでは安心できる医療制度をどうつくるか。国民の暮らしを支える政治へと姿勢をかえれば、道は開けます。
第一に、医療保険への国庫負担をもとにもどすことであります。老人医療費への国庫負担率は、この二十年間で、45%から32%まで引き下げられてきました。国民健康保険への国庫負担率も、八四年の改悪で45%から38・5%に削減されたままになっています。国庫負担の削減こそが、老人医療費の連続値上げと、高すぎる国保料の元凶であることは、明らかであります。
削減されてきた国庫負担を、計画的にもとにもどすことを、強く求めようではありませんか(拍手)。それは公共事業の浪費を削って、社会保障を財政の主役にすえれば十分可能なことであります。
第二は、高すぎる薬剤費を引き下げることです。私は、九七年二月の予算委員会で小泉厚生大臣(当時)と薬価についての論戦をしたことがあります。ここで私は、いわゆる「新薬シフト」―新薬の値段が異常に高く、使用比率も異常に高いことが、日本の薬剤費をつりあげており、これをただせば二兆円から三兆円の財源が生まれることを示しました。私は、先日の代表質問で、この「新薬シフト」の構造にメスを入れたのかと、あらためてたずねました。首相は、「薬剤費は着実に減少している」と答弁しました。
しかし、厚生労働省から資料をとりよせてその根拠をただしてみましたら、この五年間で薬剤費が一兆二千億円減少していますが、そのうち一兆円が「薬価差益」の減少分なのです。つまり、高すぎる薬価の「本体」、それをつくりだしている「新薬シフト」、大手製薬メーカーのぼろもうけ構造には、まともなメスは入っていないのであります。そうでなかったら、この不況のなかで、大手製薬会社だけが、過去最高の利益をあげるなど、考えられないことではありませんか。「改革」というなら、ここにこそメスを入れるべきであります。(「そうだ」の声、拍手)
第三は、窓口負担の引き上げを中止させるとともに、国民の力でこれを引き下げさせ、早期発見・早期治療を保障する態勢をつくることです。
長野県では、一人当たり医療費は全国平均より三万円も低く、老人医療費は全国最低で一人当たり約二十万円も低くなっています。保健婦さんが多いなど予防医療に力を入れていることとともに、十七町村で国保の三割自己負担を軽減する助成制度を実施していることなどが、医療費の節減につながっていると、多くの専門家が指摘しています。「もしほかの県が長野のようになれば全国で二兆円以上の医療費節約となる」(医事評論家・水野肇氏)という指摘もあります。
保健予防、早期発見・早期治療こそ、国民の健康と、医療保険を真に両立させる道です。この立場からも、窓口負担増による医療費抑制政策の転換をせまる国民的なたたかいを、おおいに意気高く広げようではありませんか。(拍手)
最後に、私は、リストラの横暴とたたかう国民的たたかいとの連帯を訴えたいと思います。
医療保険財政を圧迫しているのは、国庫負担を減らしたことだけではありません。大企業の横暴勝手なリストラが、医療保険制度にも大きな打撃をあたえています。
九七年以降、サラリーマンなどの医療保険加入者は九十万人以上も減少しました。九七年からの五年間で勤労者の年収は約五十三万円も下がりました。人減らしと賃下げの両面で健保財政が圧迫されています。リストラは地域経済も破壊しています。地域経済の破壊が、国保財政にも打撃をあたえています。
ですからみなさん、国民の雇用と所得をまもるたたかいは、社会保障をまもるたたかいと一体のものではないでしょうか。リストラの横暴をゆるさない広い国民的たたかいと連帯・合流してがんばりぬこうではありませんか。(拍手)
ともに、最後まで奮闘する決意をのべて連帯のあいさつといたします。(「よし」の声、大きな拍手)
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