2002年2月28日(木)「しんぶん赤旗」
金融庁が実態に合わない検査マニュアルをふりかざして、昨年から五十三もの信用金庫、信用組合を破たんに追い込んでいます。日本共産党の塩川鉄也議員は、二十六日の衆院予算委員会で、その典型例として今年一月二十五日に破たんに追い込まれた船橋信用金庫(千葉県船橋市)への異常な検査を追及。金融庁主導による信金・信組つぶしの実態を明るみにだしました。
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地元住民からは「ふなしん」の愛称で親しまれている船橋信用金庫は、創業七十年。不正や投機にも手を染めることもなく、不況に苦しむ地元の中小企業を支え、地域経済に根づいた営業をつづけてきました。
その「ふなしん」の突然の破たんに、「三十年間『ふなしん』一本でやってきた。これまでやってこれたのは『ふなしん』があったから。それをつぶしてしまうなんておかしい」(建築会社社長)と怒りの声があがっています。
「ふなしん」がなぜ破たんしなければならなかったのか――。
問題は、金融庁が検査の基準をねじまげ「破たん」に追い込んでいったことです。
「ふなしん」にたいする二〇〇〇年六月の検査では、融資先が赤字でも返済を延滞していない場合は「正常先債権」と認めていました。ところが、昨年十二月から今年一月にかけての今回の検査ではこれを認めませんでした。
不動産の担保評価についても、これまで不動産鑑定士の評価を100%認めていたにもかかわらず、急に80%しか認めないといいだし、結局90%しか認めませんでした。
しかし、同じ時期、同じ地域の東京ベイ信金の検査では100%を認めています。
こうした検査結果が直接の原因となって、「ふなしん」は新たに貸倒引当金など二十二億円の積み増しをしいられ、十四億円余りの債務超過に陥り、検査終了後、わずか一週間余りで破たんに追い込まれたのです。
基準の変更について「試合の途中でルールを変えることが行われている」と詰め寄る塩川氏。柳沢伯夫金融担当相は、いろいろ弁明しながらも、結局、「基本的にはその(不動産鑑定士の)鑑定の価格を100%認める」と、塩川氏の指摘を認めざるを得ませんでした。
検査官の態度も極めて異常でした。
通常の検査の場合五、六人。それが今回の検査では十二人もきました。
検査官は最初から、「信金には正常先(債権)などまずないだろう」と公然と語り、「ここの何が正常先なのか」と机をたたきながら検査をおこないました。信金側がいくら「取引先の長年の実績や経営者の人柄、商売の可能性などを総合的に判断しているんだ」と説明しても、検査官は聞く耳を持たず、「(検査)マニュアルにそって検証する」の一点張りでした。
塩川氏は、この実態を示し、「財務諸表だけみるマニュアルで、中小企業の『人』をみた判断ができるのか」とただしました。柳沢金融担当相も「金融検査官が金融機関の貸出先の『人』(の要素)を見るのは難しい」と認めました。
なぜ、「ふなしん」にこれほど異常な検査が入ったのか――。塩川氏は、金融庁が巧妙に主導した“破たん劇”だったと追及しました。
塩川氏が示したのが「ふなしん」が破たんする三日前、金融庁が与党幹部のために作成した内部文書です。そこには「いくつかの信金・信組については、破綻処理を実施。その際(中略)早急な受け皿確保に努力」と書かれています。
これを裏付けるように、金融庁が選定した「ふなしん」の金融整理管財人の補佐人(四人)のなかに“受け皿金融機関”となった東京東信用金庫の職員二人が入っていました。
本来、管財人は、「ふなしん」、いわば“売り手”の側に立って、土地、建物、貸付金を管理して、少しでも利益が多く出るよう保全するのが役割です。そのなかに“買い手”の東京東信金の職員が送り込まれていたのです。
塩川氏は追及しました。「本来、高く買ってもらおうという人間の中に、安く買いたい、いいとこ取りをしたい側の人間が入っている。根本的なルールに反する」
柳沢金融担当相は、管財人団を選定したのは、買い手が東京東信金になるとは分かっていない段階だと、答弁。ところが、一月二十五日の「ふなしん」破たん会見の席に東京東信金の理事長が同席していました。
それだけでも異例のことなのに、この日、東京東信金は、すでに譲り受けの名乗りを上げていたのです。
結局、柳沢金融担当相は、「いま少し時間をいただいて、調査の上、答弁させていただきたい」といわざるを得ませんでした。
あまりにも異常な“破たん劇”に小泉純一郎首相も「疑惑を持たれないよう、よく調査して報告する必要がある」と答弁。塩川氏は、検査マニュアルの見直しを求めるとともに、破たんした五十三すべての信金・信組「全部の疑惑の話になってくると」と指摘。管財人団の名簿提出を要求しました。
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塩川議員の質問はインターネットを通じて聞きました。突然の破たんによってお客様、職員が、不安と怒りで夜も眠れずいる、その思いをすべて代弁していただきました。それにくらべ、柳沢金融担当大臣の、およそ現場の実態を知らない答弁にあ然としました。“国家権力による信金つぶし”にあらためて憤りを感じます。
職員としてつらいのは、「ふなしん」をつぶすまいと、出資者のみなさんに増資までお願いしながら、それが制度が変えられて戻らなくなることです。
私たち労組として、今後、出資金を戻す、受け皿となる金融機関に顧客の債権をきちんと引き継ぐこと、店舗は残すこと、などを求めて運動していきたい。
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船橋信金 一九三一年に船橋信用組合として設立。五一年に船橋信用金庫に改組。千葉県船橋市に本店、県内に十六支店。「地域の皆様とともに地域社会の発展に貢献する」という理念で業務をすすめてきましたが、昨年十二月十二日から金融庁の検査をうけ、一月二十五日に破たんしました。二〇〇一年三月末現在で、会員数は約二万人(うち、法人は三千三百)、預金積金残高二千百四億円、貸出金残高千三百億円。
信金・信組を破たんに追いこんでいる背景には、小泉内閣が「構造改革」と称して、不良債権の「早期最終処理」を強引にすすめていることがあります。
そのために金融庁は、都市銀行にあてはめる「金融検査マニュアル」を、国民や中小・零細企業の経営のために融資する信金・信組にも適用し、きびしい検査をおこなっています。
信金・信組の自己査定では、「正常な取引先」と判定しても、検査では、経営が赤字などの理由で「破たん懸念先」などと判定され、信金・信組がそれに見合った引当金の積み増しなどを求められ、破たんに追いこまれているのです。
これは、中小業者の命綱となっている中小の信金・信組を国策としてつぶし、大銀行に資金を集中させようとするものです。
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