2002年3月2日(土)「しんぶん赤旗」
予定を繰り上げ、一日の夕方に臨時閣議を開いて医療改悪法案の内容を最終決定した小泉内閣。急落する支持率のなか「改革断行」の姿勢をアピールするねらいですが、国民にとっては医療費の負担増の「断行」にほかなりません。法案が通れば、サラリーマンから公務員、官民問わずすべての労働者、その家族にたいし、来年四月から三割負担がかぶさってきます。さらに三割負担について「将来にわたり維持する」と明記。現役の労働者だけでなく孫子の世代まで押しつけることがもりこまれました。(秋野幸子、斉藤亜津紫記者)
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サラリーマンや公務員本人の窓口負担は、来年四月から三割に引き上げられます。家族が入院したときの負担も現行の二割から三割に上がります。二割負担にくらべて一・五倍の負担増です。
たとえば、慢性疾患の高血圧症で月二回通院している人の場合(グラフ参照)――。現行の二割負担では三千五百三十円です。これが三割になると支払い額は五千二百九十円に。一カ月あたり千七百六十円、一年では二万一千百二十円の負担増となります。
厚生労働省の試算では、三割負担の導入による負担増は年間四千億円にのぼります。さらに、改悪による受診抑制が四千五百億円におよび、保険から給付される医療費があわせて八千五百億円も削減されると見込んでいます。
病気で苦しむ人にたいし、患者負担を重くして病院への足を遠のかせることをねらった、非常に冷酷な改悪です。
七十歳以上のお年寄りに対しては、多くの診療所で実施されている一回八百円の定額制(月四回、三千二百円まで負担)、病院では三千円か五千円という上限制を廃止します。昨年一月から導入された老人医療費一割負担を徹底し、負担を現役世代に近づけるためです。
病気によっては、いまより十三倍以上の負担増になるケースもあります。一定以上の所得がある人(一人暮らしの場合で年収約三百八十万円以上)は、二割負担になります。
一カ月あたりの自己負担限度額(表参照)も大幅に引き上げます。しかも、限度額を超える分もいったんは窓口で全額支払わなければなりません。そのうえで、上限を超えた分の払い戻しを受けますが、そのためには、役所に行って手続きをする必要があります。病気にかかったお年寄りに重い負担をかぶせたうえ、面倒な申請手続きを強いることになるのです。
中小企業の労働者が加入している政府管掌健康保険(本人・家族三千七百万人)の保険料は、来年四月から引き上げられます。保険料は給与から天引きされますが、ボーナスと月収では保険料率が違いました。ボーナスは特別に月収の十分の一程度に抑えられていましたが、今回の改悪でこれを一気に月収と同じ料率に引き上げる仕組み(総報酬制)を導入します。月収が抑えられボーナスを多くしてもらっている人ほど大きな負担増となります。
ボーナスを含めた年収でみると、現行の保険料率は総報酬制に換算すると7・5%の料率。改悪で8・2%(労使折半)に引き上げられます。たとえば、月収三十万円、ボーナス百二十万円(四カ月分)の人の場合、改悪後は年間十九万六千八百円の保険料です。現行に比べ四万円を超える負担増となります。
使用者にも保険料負担が増え、不況に苦しむ中小企業労使に追い打ちをかける改悪です。
総報酬制は、大企業ごとにつくられている各健保組合や、公務員などが加入している各種共済組合にも導入されます。保険料引き上げは各組合の判断となりますが、政管健保の引き上げ実施によって保険料引き上げの圧力が強まります。
国民の批判をかわすため小泉内閣は「抜本改革」なるものを法案の付則にもりこみました。“負担増ばかりではない、将来不安をなくす改革も同時におこなう”との言い分です。
「抜本改革」の柱に据えられたのは、政管健保の「組織形態の在り方の見直し」(五年以内)と、新しい高齢者医療制度の創設です。
政管健保の「見直し」とは、民営化のこと。いったんは政府・自民党の合意(二月二十二日)で、「民営化」の表現が法案要綱にもりこまれました。三割負担の来年四月実施を押し通すため小泉首相が「厚労省も抜本改革を嫌がっている。役人も痛みを分かちあってほしい。『四方一両損』だ」と主張。この主張にそって、政管健保を運営している社会保険庁(厚生労働省)をリストラする民営化案が、突然持ち出されてきました。
しかし民営化となれば国費投入の是非が問題になります。政管健保に投入されている国庫負担(給付費の13%)が削減されれば、いっそうの保険料負担増、患者負担増が求められることになります。与党内からの反対噴出で、「民営化」の表現はなくなりましたが、民営化を想定した見直しを検討し、「所要の措置を講ずる」としています。新たな負担増の火種を残した「抜本改革」です。
新しい高齢者制度は二〇〇二年度中の基本方針策定を義務づけました。策定後、二年をめどに「所要の措置を講ずる」としています。
「所要の措置」とは財源対策です。老人医療費十一兆円の財源として、保守党は消費税をあてることを要求。制度創設をめぐり3%程度の消費税増税が議論になります。
新制度は高齢者全員から保険料を徴収するもので、消費税増税と重なりお年寄りの不安をいっそう大きくする「抜本改革」です。
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