2002年3月17日(日)「しんぶん赤旗」
中小企業の労働者が加入する政府管掌健康保険の保険料収入が減ったら、保険料の値上げができる――医療改悪法案にこんな“弾力条項”が盛り込まれていたことが十六日までに明らかになりました。不況、リストラによる加入者減、賃金低下が政管健保財政を悪化させるなか、保険料減収を料率値上げへ連動させ、中小労使の負担増で収支を「均衡」させるねらいです。
健康保険法は、政管健保を運営している社会保険庁の長官が厚労相に保険料変更の申し出をおこない、厚労相が国会への報告だけで保険料を値上げできる“弾力条項”を定めています。それには、値上げ申し出の理由として(1)患者への医療サービス内容の改善(2)病院を利用した労働者への給付費のもとになる診療報酬の改定(3)老人保健および退職者給付への拠出金増――にともなう場合が認められています。
改悪法案は、これに「保険料額の総額の減少を補う必要がある場合」を追加しました。
政管健保の加入者(本人、二〇〇〇年度約千九百万人)は、九八年度から三年連続で前年比マイナス。賃金低下で保険料収入(医療分)が悪化し、九九、二〇〇〇年度と連続して前年比減収となりました。
厚労省は今後も「マイナスの可能性がある」(保険局)と見込み、「保険料減少」を理由に値上げできる規定を改悪案に盛り込みました。
小泉内閣は、今回の医療改悪案に来年四月からの政府管掌健保の保険料値上げをもりこんでいます。いまは特別に低くされているボーナスへの保険料率を大幅に上げて月給と同率にする総報酬制を導入し、年収ベースで現行7・5%の料率を8・2%に引き上げるものです。
これに加えて、厚生労働相の専決で保険料率を値上げできる現行法の“弾力条項”に、値上げ理由の一つとして「保険料減収」を追加する改悪がもりこまれました。国会での法「改正」手続きを省略する“弾力条項”を拡大することで、保険財政の「収支均衡」を理由にした保険料値上げをやりやすくするためです。
「減収」があれば、ただちに値上げができるレールをしくことになります。
不況による中小企業の経営悪化を受けて政管健保財政は二期連続で保険料「減収」となっています。今回の改悪による保険料値上げ(来年四月実施)で増収に転じたとしても、不況のなかでは一時的なものです。小泉内閣は「不良債権処理」で中小企業の倒産と失業を増やす政策をすすめ、今回の医療改悪による負担増は家計、消費を冷やし、景気悪化に拍車をかけます。政管健保の8・2%への保険料値上げ自体、二〇〇七年度までの五年間で中小労使全体に二兆九千億円の負担増を求めるものです。
負担増で中小労使の経営と暮らしに打撃を与えながら、「保険料減収」に連動した保険料値上げ制度を導入する姿勢は、冷酷そのもの。
経済が困難なときこそ暮らしの安心を支える社会保障が求められるのに、小泉内閣は社会保障を財政の主役にすることをまったく考えていません。
政管健保財政の悪化をいうなら、国庫負担を削減した政府の責任が改めて問われなければなりません。現行は医療費の13%を国として負担しています。一九九二年度、それまでの16・4%から13%に削減されました。政管健保財政の「黒字」が理由でした。
「3・4%の補助率を引き下げても十分やっていけるということで、暫定措置の形でお願い」(九二年三月、衆院厚生委員会、黒木武弘厚生省保険局長、当時)するといって強行。「万一、財政状況が悪化した場合の措置については、必要に応じまして国庫補助の復元について検討させていただく」(同)とのべていました。ところが、健保二割負担を導入した九七年改悪で、財政の悪化を理由に労働者には保険料率を8・2%から8・5%に値上げする負担増を求めながら、「暫定措置」だった国庫補助率引き下げの「復元」は先送り、据え置いたままです。
国庫補助率を元に戻した場合、単年度で約千四百億円(来年度予算ベース)も保険財政にプラスとなります。九九、二〇〇〇両年度の保険料減収幅を超える額に相当します。「保険料減収」を理由にした値上げ制度を考える前に、まず補助率を「復元」すべきです。(斉藤亜津紫記者)
機能しない場合は、ブラウザの「戻る」ボタンを利用してください。
著作権:日本共産党中央委員会
151-8586 東京都渋谷区千駄ヶ谷4-26-7 Mail:info@jcp.or.jp