2002年4月4日(木)「しんぶん赤旗」
政府が勝手に「武力攻撃事態」と認定すれば、地方自治体だけでなく放送、電話事業、鉄道・バス、電力・ガス事業など政府が指定した「公共機関」を軒並み動員し、物資保管命令などに違反すれば懲役刑の罰則を科す―三日、政府が与党に提示した有事立法の概要は、「平和と安全」の名で、それを最も脅かす戦争体制づくりに突き進もうとする危険をくっきりと浮かび上がらせました。
包括法案では、「武力攻撃事態」について、「我が国に対する武力攻撃(武力攻撃のおそれのある場合を含む)が発生した事態」と「武力攻撃が予測されるに至った事態」の二つをあげています。
これらは、自衛隊法の「防衛出動」と「防衛出動待機命令」の規定と同じ。武力攻撃が実際起きていなくても「おそれのある場合」や「予測される事態」だとして、有事立法を発動しようというのです。
これらの規定は、米軍がアジア太平洋地域で軍事介入した場合の「周辺事態」とそっくり。「周辺事態」は、「そのまま放置すれば日本への武力攻撃に発展するおそれのある場合」ですから、「武力攻撃事態」と重なり合うことは大いにあり得ます。
しかも、「武力攻撃事態」だと認定をおこなうのは政府。首相が安全保障会議に諮問し閣議決定する「対処基本方針」に盛りこまれるだけです。政府の認定次第で、米軍が戦争を開始した場合の「米軍有事」でも、日本への武力攻撃が「予測される」とか「おそれがある」などとして、有事立法が発動する危険があるのです。
また、自衛隊法改悪では、「予測される事態」の段階から、「展開予定地域」をあらかじめ指定。陣地構築その他の措置を実施することができる仕組みも考えられています。
武力攻撃事態対処法案(仮称)は、首相に強力な権限を集中する一方、「国権の最高機関」である国会はないがしろにするなど超憲法的仕組みを狙っています。
「武力攻撃事態」の認定を含めた対処基本方針は、首相が安全保障会議の答申を受けて閣議決定する仕組み。また、首相は、有事対処を、地方自治体や指定公共機関にたいし、「指示」したり、それに従わなければ強制執行ができるとしています。しかも、この「指示」や強制執行を首相に求めるのは「対策本部長」(首相)。まさに自作自演でなんでもおこなえる独裁的権限です。
首相が自治体に命令したり、自治体になりかわってなんでもできるというのは、憲法が定める地方自治の原則を破壊するもの。まして、「指定公共機関」などとして民間企業の業務にまで指示・強制執行するなどというのは、超法規的な戦時体制そのものです。
一方、国会の関与はどうか。包括法案では、対処基本方針について「閣議決定後、直ちに国会に承認を求めなければならない」としながらも、「実施前に…国会承認を得ることは必要としない」とするなど、事実上の事後承認に。事前承認が原則の「防衛出動」は、「ただし」書き扱いです。
自衛隊など「戦争する側の都合」が全面に出た違憲立法そのものです。
政府が示した包括法案の特徴は、「有事」に地方自治体や「指定公共機関」に、国が決めた方針を実施する広範な責務を負わせたことです。
包括法案では、「有事」対処において、国が「主要な責務」をおい、そのもとで地方自治体や指定公共機関が「適切な役割」を果たす仕組み。それぞれが国の決めた対処基本方針にもとづき、「必要な措置を実施する責務」を負わされ、首相の「指示」まで受けます。それに従わなければ、政府が強制執行までおこないます。戦争協力が義務となるのです。
内閣官房は、この「指定公共機関」について、「災害対策基本法」にもとづく規定に準じるとして、NHK、NTT、JR、電力・ガス会社などを「念頭においている」と説明。
今後検討し、法律や政令で定めるとしています。地方自治体ばかりか、国民生活に密着したありとあらゆる業種が、「指定公共機関」として、政府の対策本部の指示命令下に置かれるのです。
まさに根こそぎの戦争動員です。
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防衛庁は自衛隊法改悪のなかで、民間人への罰則規定を明記する方針です。
具体的には、「防衛出動」の際に、食料や燃料など自衛隊が必要とする物資の保管を命令。その保管命令に違反した者には「六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金」に処する方針です。
それだけではありません。物資の「隠匿」「毀棄(きき)」が疑われる場合や、土地の強制使用の際に、自衛隊の立入検査を拒否したり、妨害したりするだけで「二十万円以下の罰金」という罰則が科されます。
まさに戦争協力を拒否した者を“犯罪者”扱いする法律です。
一方、自衛隊が土地を強制使用する場合には、「家屋の形状」などを勝手に変えたり、立木などは撤去することが可能。
しかも、公用令書という命令書も事後に交付すればよいなど、やりたい放題です。