2002年4月4日(木)「しんぶん赤旗」
「武力攻撃に対する備えと、テロ発生に対する備え、不審船のような不可解な行動への備え…にどう対応するかが、有事法制の基本的な考え方だ」
三月二十一日、訪問先の韓国で小泉純一郎首相はこうのべました。
「テロ対策などのカテゴリーは、武力攻撃事態に対する法整備の範囲外だ」(公明党の冬柴鉄三幹事長)という前日の与党・国家の緊急事態法整備等協議会での合意と百八十度違う発言でした。
三日の与党緊急事態法制協議会でも、安倍晋三官房副長官が首相「指示」を説明。しかし、「それを入れたことで混乱すると仕分けした。総理はそういうが、どうかという意見もあった」(冬柴氏)と与党側は受け入れませんでした。
有事立法の国会提出に向け「最後の調整段階」(中谷元・防衛庁長官)にあるのに、なぜ法整備の範囲をめぐって重大な異論が残るのか――。
有事立法の建前は「武力攻撃事態」に関する法制です。基本方針や個別法の整備項目を定める包括法以外は、国民への強制的な業務従事命令や土地・物資のとりあげ、国内における陣地構築や野戦病院の設営といった自衛隊への特例措置が中心です。これは防衛庁が四半世紀にわたって法制化の研究を続けてきた中身です。
しかし、政府高官はいいます。「世論も有事法制に同情的になっていると思うが、研究をそのまま出した場合、テロに対処できる中身なのかといった反応を心配している。もっと説得力ある中身にする必要がある」
「説得力」がないのは、想定している日本への武力攻撃という事態が非現実的だからです。
西元徹也・元自衛隊統合幕僚会議議長は、「朝日」のインタビュー(三月八日付)で、「テロ対策や不審船などの方が、起こる蓋然性(がいぜんせい)は有事より高いかもしれない」と認めた上で、こうのべています。
「有事法制の必要論が盛り上がっているなか、もう一回、領域警備の問題や根本的なテロ対策に引き戻すと、また2年、3年とかかってしまう。再び、忘れ去られる危険性が十分にある」
かといって、首相がいうテロや不審船対策を有事立法に含めることには、強い異論があります。
自民党関係者も「テロ・不審船の問題は警察と海上保安庁の問題だ」と認めざるをえません。逆に、「自衛隊に何をさせようというのか。みんな、わかっちゃいない」と批判するほどです。
小泉首相は「備えあれば憂いなし」との言葉を繰り返します。しかし、「なんのための備えか」という根本問題について国民が納得できる説明を欠いたまま政府・与党は制定に向け突き進んでいます。