2002年4月5日(金)「しんぶん赤旗」
「首相に事実上の『非常大権』が認められることになる」
内閣官房が三日、与党に示した有事立法の法案概要で、首相に強大な権限が集中したことについて、時事通信社配信の記事はこう解説しました。
法案概要によれば、「有事」の際、首相は内閣に設置される「武力攻撃事態対策本部」の本部長に就任。国、地方公共団体、指定公共機関に対し、運輸、通信、医療など必要な措置をとるように「総合調整」を実施。それが実施されない場合、「実施を指示する」権利や、緊急を要する場合に直接「措置を実施」する強制執行の権利を明記したのです。
内閣官房によれば、「指定公共機関」は災害対策基本法に準じて検討するとしていますが、同法ではNTT、日本銀行、日本赤十字、NHK、電気・ガス、輸送など約四十の機関を「指定公共機関」と規定しています(注)。全国約三千の地方自治体と、国民生活に密接するこれら「指定公共機関」のすべてが、事実上、首相の統制下におかれるのです。
NHKにしても災害時に災害情報を流すのと、「有事」に協力するのとではわけが違います。戦争の実態などを、事実と国民世論にもとづく報道機関としての判断抜きに、戦前の「大本営」発表さながらの役割を強いられ、戦争協力機関に変えられてしまうのです。
憲法上、内閣の代表である首相は、通常、国の行政機関であっても閣議での決定がなければ直接指揮監督することはできません。それが、「有事」だからという口実で、国は言うに及ばず、対等な関係のはずの地方自治体、それに国からは自由なはずの民間企業にまで「指示」権や強制執行の権利が及ぶというのです。
ガイドライン(日米軍事協力の指針)策定にもかかわった米国家安全保障会議(NSC)日本・韓国部長のマイケル・グリーン氏は、昨年四月に発表した共同論文でつぎのようにのべていました。
「(危機に際して)協力に消極的な民間機関や地方公共団体に対し、必要な協力を強制できる権限を総理大臣に与えるよう、さらに立法措置が必要である」
また、元自衛隊統合幕僚会議議長の西元徹也氏はつぎのようにのべています。
「広範な権限を内閣総理大臣に付与する必要がある。その中には好むと好まざるとにかかわらず国民の権利や自由を制約する点も含まれるであろうが、それは国の独立と国民自らの生命財産を守るためやむを得ないことである」(「有事法制:現状の問題点と今後の在り方」)
首相への強大な権限集中は、米国が求める戦争体制に不可欠なものと位置付けられているのです。
(注)災害対策基本法…第二条5「指定公共機関 日本電信電話株式会社、日本銀行、日本赤十字、日本放送協会その他の公共的機関及び電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人で、内閣総理大臣が指定するものをいう」