2002年4月6日(土)「しんぶん赤旗」
「ちょっと待った。小泉医療大改悪」と地域ぐるみの運動が広がっているところがあります。都市部とともに、定山渓温泉をはじめ観光地をかかえる札幌市南区。医師会、歯科医師会、自治会、老人会などの役員や宗教者らが立場を超えて区民集会(六日)を準備しています。取材しながら実感したのは、“命を守る運動に壁はない”ということでした。(矢藤 実記者)
勤医協札幌みなみ診療所の待合室。三十人ほどが診察や会計を待っています。話をきいてみると、医療改悪への不安や怒りが次つぎにかえってきました。
糖尿病で治療にきたという女性(62)は話します。「夫は、脳内出血で入退院をくり返しています。昨年の医療費は二人で四十万円にもなりました。夫婦二人の年金収入は年間約百七十万円ほどです。夫は退職者医療なので現在は二割負担ですが、三割になったら本当に困ります」
六十八歳の夫、娘、息子の四人暮らしです。娘は、アルバイト。息子は、旅行会社をリストラされて失業状態です。「家賃は月二万六千円。医療費が、これ以上あがると生活費を切り詰めなくてはなりません。でも、切り詰めるほどの生活費はありません」
娘さんの付き添いでやってきた、という栗栖聰一郎さん(76)は、前立腺(せん)肥大で手術したばかり。「制度が変えられて、先に窓口で多額の医療費を払わなければならなくなるのは、苦痛です。これじゃあ、何かあっても病院にかかれない」
本人負担が二割から三割に引き上げられようとしているサラリーマンの負担も深刻です。事務の仕事をしている男性(53)は、「ひと月入院して十五万円払いました。三割になると二十三万円。これから先、医療費がどれだけ増えるのか不安だ」といいます。
地域の医療を担ってきた国立療養所札幌南病院の統廃合も市民の不安を募らせる原因となっています。
「いのちと健康の要求をもちより、医療・社会保障を守るため、幅広いみなさんとともに考える集会を区民の手で開きましょう」
社会保障推進協議会(みなみ診療所や新日本婦人の会、労働組合などで構成)が出した集会実行委員会結成のよびかけが、心をつなぎました。
集会のよびかけ人には、医師会や歯科医師会の役員、自治会長や老人会代表、キリスト者や弁護士など十七人が名前を連ねました。賛同者も四十人に広がっています。
賛同を寄せた一人ひとりを訪問しました。
自民党を応援してきたという医師(57)は、「立場上、『赤旗』には名前を出せないが」といいながら、診察の手を休めて取材に応じてくれました。集会に賛同したのは、「医療にたいする住民の声を直接聞きたいからだ」といいます。
長年、開業医をつづけている金山尚武医師(67)は、「私も集会の趣旨に賛成です。小泉内閣の『医療改革』は、あまりにもひどい」と物静かに話しだしました。
「こんどの“改革”が実行されたら、患者が医者にかかれなくなる。医者も十分な医療ができなくなる。地域の人たちの健康を守っている医者がつらくなるような状態にさせてはなりません。先に明るい見とおしがあることを改革という。小泉さんがやろうとしていることは、“改革”とは反対に“夢のない暗やみ”をもたらすだけですよ。国民を中心にした大きな反対運動を盛り上げないとねえ」
老人会の女性役員は、「健康のことは本人がしっかりしていればいいという人もいますが、医療のことはみんなで考えていかなくては」と話します。
真駒内連合町内会の佐藤浩氣会長は「六十五歳以上の高齢者は15%を超えています。23%になる地区もあります。最大の不安は病気です。病気になっても安心できる医療制度や社会保障制度を希望しています」。
三月二十九日、実行委員会は真駒内駅前で初めてビラを配り、区民集会の参加を呼びかけました。
六十五歳の男性は、「(医療費の値上げは)そりゃー心配だよ」。「来年四月から値上げされるのでしょう」と負担増がすでに決まったことだと勘違いしていた四十代の女性は、これから国会で審議されることを知って「えっ、まだ決まってないの。だったら、やめさせられるのね」。
区民集会実行委員会の高村信雄代表は、「共同がこれほど広がったのは、初めてです。医療を守りたいという思いは、みんないっしょ。集会を成功させ、医療大改悪を許さない運動をさらに大きく広げていきたい」と話しています。