2002年4月7日(日)「しんぶん赤旗」
「武力攻撃事態への対処においては、日本国憲法の保障する国民の自由と権利を不当に制限してはならない」
政府が三日、与党側に示した有事法制の概要は、もっともらしく書いています。しかし、この文言からは、国民の自由と権利にたいする「正当な制限」はありうる、「有事」の場合がまさにそれだ、という本音が透けて見えます。
実際、自衛隊の作戦遂行に必要な燃料や食料を確保するため民間事業者に対して出される「物資保管命令」に従うことを断った場合、どうなるか――。
自衛隊法改悪案では、「物資保管命令」違反者に「六月以下の懲役または三十万円以下の罰金」を科す方針を明らかにしました。
物資を「隠匿」「毀棄(きき)」「搬出」した場合や、土地の強制使用などのための立ち入り検査を拒んだり、妨げたりしただけでも、「二十万円以下の罰金」を科すとしています。
「命令には従いません」と戦争協力を拒否した民間人を「犯罪者」として処罰するのが、有事立法なのです。こうした罰則は、自衛隊の“要請”による業務従事命令や物資収用などにも強制的色合いを帯びさせるのは間違いありません。
それだけではありません。「今後整備する法制」としている「国民生活及び国民経済に影響を及ぼす場合における措置」には、国民の権利と自由を制限する項目がめじろ押しです。
「警報の発令、避難の指示」「社会秩序の維持」「輸送及び通信に関する措置」…。これまで防衛庁の研究では「第三分類」とされてきた分野です。公明党の冬柴鉄三幹事長は、「ご承知のように第三分類はつまっていない。そういう事態が生じたときに、国民の権利、義務の制限が生じる」(三日)と“予告”しました。
元防衛大学校教授の佐瀬昌盛氏は「民間防衛で重要なことが二つある。非常事態において、善良なる市民は右往左往しない、ということが一つ。…路上を(市民が)うろついていたら、プロの集団がとるべき行動をとれなくなる。もう一つは、国民にある種の役割を強要する権限、これだけは国家がきちんと保持する」(日本戦略研究フォーラムのシンポジウム、九九年十一月)とのべています。
米軍や自衛隊の行動を保障するためには国民を邪魔にならないよう統制する――、ここに「国民生活及び国民経済に影響を及ぼす場合における措置」に込められた狙いがあります。言論、表現、集会の自由も軍事優先の論理のなかでは成り立ちません。
政府はこれまで「憲法の枠内で有事への対応に関する法制について取りまとめを進めております」(小泉純一郎首相、二月八日参院本会議)とのべてきました。しかし、「戦争のために私権を制限されるということは、憲法のどこからも出てこない議論だ」(志位和夫委員長)との批判にはまったく答えられずにいます。
憲法はそもそも、戦争も、戦争への協力も禁止しています。有事立法はそれとは逆に、戦争に協力しないものを“犯罪者”にするものです。まさに憲法の上に立ち、憲法の精神に真っ向から反する法体系が築き上げられようとしているのです。
政府・与党が、憲法無視の「戦争国家体制」づくりを進めようとしていることは明らかです。