2002年4月9日(火)「しんぶん赤旗」
小泉首相は、健康保険の患者負担(現在二割)を三割に引き上げたり、保険料の大幅引き上げを強行しようとしています。その言い訳が「国民健康保険(国保)に合わせ」三割負担にするというもの。ところがその国保はいま、高保険料と高負担で「国民の命を奪う」危機的事態です。その実態を札幌市に見ました。(富樫勝彦記者)
三月下旬の朝、その男性(40)は、青い顔、つらそうな表情で豊平区役所に姿を見せました。ソフトタイプの長いコート、緑のネクタイ。長めの髪はオールバック。市内で従業員一人を雇う通信関係会社の社長です。
男性は昨朝、トイレでコップに半分ぐらい血を吐きました。二回続きました。「どうしたのか!」と動揺した男性。とっさに病院が頭をよぎりましたが、「だめだ」と打ち消しました。男性が持っているのは保険証でなく「資格証明書」。医者にいけばいったん窓口で全額(十割)負担しなければなりません。「そんなお金は、ない」
男性の国保料は年間五十一万円。一昨年後半から売り上げが激減し、経営は火の車で借金の連続です。収入は会社の運転資金になり、催促されても国保料が滞りました。区役所に何度事情を訴えても、三カ月期限の「短期証」にされ、今年二月末には資格書にされてしまったのです。
この日区役所に、北海道生活と健康を守る会連合会(道生連)の佐藤宏和事務局長が同席。血を吐いたが医者に行けない、病気など特別の事情がある場合は資格書の除外規定がある、として保険証を出すよう主張しました。区側は本証の発行を認めず、渋々四月末までの一カ月短期証を出しました。
佐藤さんは「道生連にはこの間、保険証を取り上げられ、医者にかかれず手遅れで死亡した事件が二件、かろうじて救われた例が三件持ち込まれている」といいます。
昨年十月、資格書を交付されていた豊平区の男性(55)=季節労働者=は、何度も血を吐いても医者に行けず、勤医協札幌病院に救急搬送され二時間後に死亡しました。
二年前から資格書になっていた北区の男性(53)=トラック運転手=も昨年十一月下旬に胃がんで北区病院に担ぎ込まれましたが、手遅れで今年二月に死亡しました。
全国で保険料が払えず滞納している国保世帯は約三百九十万世帯。札幌市では約六万世帯が滞納。この三年間で資格書の発行は二倍強、短期証は二・五倍です。影響人員は八万人近くに及び、しかも不況下で急増しています。
小泉首相は、厚相時代の九七年、一年以上滞納した場合、この保険証を「返還させる」ことを義務規定に改悪。さらにいま、医療費負担増の追い打ちをかけようとしています。
佐藤事務局長は「困難の原因は、国が国保への補助率を45%から38・5%に削減したこと。国保に合わせて他の医療保険を改悪するんでなく、補助率を引き上げ国民負担を軽減して早期に発見・治療すれば医療費は削減できる。これ以上の犠牲者を出さないよう医療制度を改善すべきだ」。小泉医療改悪の阻止に力が入ります。
道生連や民商、新婦人、勤医協などでつくる連絡会は、一九八七年以来十四年にわたり「国保一一〇番」を実施。市内十区で毎月国保料の納付や減免などを集団申請する運動を展開中です。
北商連(北海道商工団体連合会)の平川敏雄事務局長は「国保医療費の窓口負担を三割から二割、一割へと引き下げることは業者の命と健康を守るゆずれない要求。それを逆に、労働者三割負担にするのは、われわれの願いを断つことにつながる」と批判。「しかも景気回復が不可欠ないま、購買力を冷やす負担の押しつけは二重、三重に許せない」と怒りました。
資格証明書 一年以上保険料を滞納すると保険証が取り上げられ発行されるもの。いったん病院の窓口で治療費の全額を支払わなければならず、国民の生存権を奪うものです。
短期保険証 保険料の滞納があると発行されます。三カ月、六カ月など、有効期限が決められています。