2002年4月18日(木)「しんぶん赤旗」
政府が国会に提出した戦争国家法案(有事法制関連三法案)。アメリカの戦争に日本国民を強制動員する法律です。真っ先に動員される自治体、医療、交通・運輸、通信、建築などの職場では「私たちは戦争をする国づくりを拒否します」との声があがっています。
「私たちの仕事は、住民の家族構成までわかるような本当に地域と結びついた仕事です。それだけに、有事法制が発動されれば、住民を管理し、戦争に動員する手先にされてしまうのではないかと心配です」――。名古屋市中区役所で働く栗本順子さん(42)はこう語ります。
栗本さんも加わる名古屋市職員労働組合では、職場から「戦争非協力宣言」をあげようととりくんでいます。宣言運動は、昨年のアフガニスタンへの米軍の軍事攻撃とそれを支援する日本の派兵などで平和が脅かされるなか、「住民の暮らしを守る地方公務員は戦争に協力しない」と始まりました。現在、九十の職場で宣言を決議。さらに市職労の各支部では、有事法制の学習会を開き、署名や宣伝の行動に立ちあがっています。
「戦争協力の遂行者になりたくないというのは自治体の職員なら共通の思い」と、名古屋市職労の嶺村君代副委員長(55)はいいます。
名古屋市も管理組合にかかわる名古屋港では、昨年四月、カナダの軍艦が入港し、し尿処理を市に依頼してきました。八月には、全国の四つの民間港にいっせいに米軍艦船が入港し、名古屋港にも二十四年ぶりに米国の軍艦が着岸しました。名古屋港管理組合の職員が艦船の警備にかりだされました。
また軍民共用の名古屋空港(小牧基地)は、航空自衛隊の輸送機部隊の基地になっています。米軍のアフガニスタン攻撃の際、パキスタンに派遣されたのは、この基地の輸送機です。
「アメリカが戦争を始め、『有事』となれば、空港から負傷兵が市民病院に運ばれてくるのではないでしょうか。すべてが軍事優先となり、市民生活が犠牲にされることになる」と嶺村さんはまゆをひそめます。
今回の戦争国家法案では、日本が実際に武力攻撃を受けなくとも、日本政府が「武力攻撃が予測される」と判断すれば、国会の承認をえずに自衛隊を出動させることができます。その際、土地、家屋、病院、物資などの収用や運輸、医療、土木建築などに携わる労働者を徴用(業務従事命令)できます。これらの収用や徴用は、都道府県知事がおこなうことになっており、自治体労働者が土地取り上げや民間人徴用の「公用令書」を交付することになります。
先の世界大戦で、公務員は「赤紙」(召集令状)を各家庭に届け、市民を戦場にかりたてていきました。そうした役割を再び、担わされようとしているのです。
地方自治体が戦争協力のため、必要な措置をとることを「責務」としているのが、今回の法案です。地方自治体が協力しない場合は、首相が地方自治体の首長にたいし、措置をとるよう指示することができ、それでも従わない場合、首相が直接、執行します。憲法の主要な柱である地方自治そのものが踏みにじられてしまいます。
自治体労働者は、収用や徴用の執行にかりだされるばかりではありません。一九九九年に成立した周辺事態法では、傷病米兵の医療機関受け入れや自治体施設の貸与、給水などの協力が求められていきます。
周辺事態法の成立を受け、秋田県では、ことし三月に「秋田県危機管理計画」を発表しました。「危機」が発生した場合の緊急輸送や医療救護などの対応手順を定めています。「周辺事態法」が発動された場合、全庁をあげて対応することを取り決めているほか、「危機」のなかに、「労働争議に起因する危機」まであげ、対応部局などを決めています。
「自治体労働者は戦争の遂行者にならない」と自治労連では、有事法制に反対する職場決議をあげる運動をすすめています。地方自治を踏みにじる法案を許さないため、すべての自治体首長に働きかけることを決めました。
自治労連の駒場忠親委員長はいいます。「有事法制を阻止する課題は、公務員として二度と加害者にならないという誇りをかけたたたかいです」