2002年4月19日(金)「しんぶん赤旗」
【ロンドン17日田中靖宏】ブラウン英蔵相は十七日、政府が全額を負担している国民医療制度(NHS)の予算を今後五年間で実質43%増額することを目玉にした来年度予算(公共支出計画)を発表しました。国民の要望が強い医療サービスの抜本的改善を目指すとしています。
発表によると、NHS予算を毎年実質で7・4%増額。現在の六百五十四億ポンド(約十二兆円)を二〇〇七―八年度予算では千五十六億ポンド(約十九兆円)まで引き上げる計画。これにより現在国内総生産(GDP)比で7・7%の医療支出を三年後に8・4%、五年後に9・4%まで拡大し、欧州連合(EU)諸国の現在の平均8%を上回る水準にするとしています。
この経費増をまかなうため被雇用者と雇用者、自営業者が所得に応じて払っている国民保険料を1%増額するとしました。ブラウン蔵相は財政演説で、「だれもが、いつでも、どこでも必要な医療を無料で受けられるのが英国の理念だ」と強調し、「NHSを世界で最高の医療制度にしていく」と説明しました。
NHSは子どもから高齢者まですべての国民が無料で医療を受けられる制度で、ほぼ全額が政府の一般財源で運営。一九四八年の導入以来、英国社会保障制度の根幹になってきました。
しかし精密検査や手術の待ち時間が長く、希望時に診療が受けられないなど不満が強く、多くの人がプライベート医療と併用しているのが現実。与党の労働党は昨年の総選挙でNHSの質の改善を最大公約にしていました。
NHS後退の大きな要因がサッチャー以来の保守政権による福祉予算の削減にあることは広く指摘されています。保守党や財界は国民保険料値上げを「増税と大きな政府への逆戻り」と批判していますが、NHSの維持と強化は国民的な合意。一定の負担増があっても充実すべしが多数意見です。
国民の支持を得るには実際のサービス改善の成果が課題になります。
財源となる歳入面では所得税や消費税、燃料税などを据え置き、特別措置の整理などで高額所得者に増税、低所得者には減税になる所得再配分が一定程度強化されています。貧困対策に取り組む団体は歓迎しています。(ロンドンで田中靖宏)