日本共産党

2002年4月21日(日)「しんぶん赤旗」

マスコミ時評

もの言うべき時になぜ言わぬ


 「武力攻撃事態法案」など有事法制三法案が小泉内閣によって国会に提出されました。

 法案の最大の眼目は、アメリカが引き起こす戦争に国をあげて協力する国家体制をつくることにあります。

 その内容は、国民を罰則付きで戦争協力に強制動員する点でも、国会を無視して首相に全権を集中する仕組みをつくる点でも、日本の憲法体系をズタズタにする違憲立法です。

法制化必要論が共通の前提に

 自衛隊創設以来のアメリカと自民党政権の宿年の野望を、一気に実現させようという法案です。この重大事態を商業紙はどう論じているか。

 各紙の論説を見ると、「これではあいまい過ぎる」(朝日)「あいまいな法制許されぬ」(毎日)と“国民の納得いく議論”を求めるものから、「安保基本法作りの一歩に」(産経)「これを足場に幅広い備え急げ」(読売)のように罰則強化を含め“なおいっそうの強化”を迫る論調まで、さまざまです。

 しかし、全国紙の論調は重要な点で共通しています。それは、「万一に備える法の整備は基本的に必要」(朝日)「有事法制がなく、国民の権利を守る法制もない状態は、法治国家としてふさわしくない」(毎日)というように、この種の法制化「必要論」を前提にしていることです。

 これは危険な落とし穴です。

 自衛隊の存在を認めず「非常権限を想定していない」(毎日)憲法のもとで、超憲法的措置を定めようというものです。「憲法の範囲内」のものでありえるはずがありません。戦後五十年以上にわたって、有事法制などなくても、なんら不都合はなかったという現実もあります。

新聞もテレビも4・19集会黙殺

 「必要論」にたっていては、せいぜい「法の不備」を指摘できる程度で、憲法や戦後日本のあり方と相いれない根本的な矛盾と危険をきっぱり批判できないのは明らかです。有事法制をつくらなかったことは「政治の怠慢」(読売)だという推進論に、付け入るすきを与えるだけです。

 しかも今日、日本が他国から武力攻撃される事態など想定できないことは、政府自身が認めていることです。にもかかわらず法制化を急ぐのは、この間、米軍事専門家らが公然と要求してきていることが示すように、アメリカの戦争に協力する体制をつくるためにほかなりません。

 有事法制への「批判の目」を失った結果が、二十日付紙面に象徴的にあらわれました。

 十九日夜、東京・日比谷野外音楽堂で「STOP! 有事法制4・19大集会」が開かれました。陸・海・空・港湾関連の二十労組や宗教者らのよびかけで、党派や思想・信条の違いを超え五千人が集い、「有事法制を許さない」という決意と展望に満ちた集会とデモ行進を繰り広げました。

 各紙はこれを一行たりとも報じませんでした。テレビも同様です。

 国の進路と国民の権利にかかわる問題です。政府の意図にたいし、野党や国民、外国はどう見ているのかを幅広く伝え、読者、視聴者の判断に供するのがメディアとしての役目ではないのか。

 「情報」としての一行さえも伝えずに黙殺する「新聞」に伝達手段としてのどれほどの価値があるのか、と首をかしげたくなります。

 最低限の責務さえ投げ捨てるとは、もはや偏向報道としかいいようがありません。

 日本のマスコミが看板にしてきた「中立・公平」「不偏不党」は、たんなる「神話」にすぎないことがここにも明らかです。

いつか来た道へ引き返すのか

 まして、こんどの三法案では、NHKが首相の統制のもとに戦争協力機関として組みこまれ、民放各社もその対象として検討されています。

 マスコミが戦争協力を強制され、言論・報道の自由を奪われかねない現実的危険が迫っているときに、なぜ黙っているのか。

 いうべきときに声をあげようともしないのは、戦争協力と世論誤導のあのいつか来た道にみずから引き返すに等しい行為です。 (近藤正男記者)

 


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