日本共産党

2002年4月22日(月)「しんぶん赤旗」

有事法制の歴史とねらい

自衛隊法制定3年半後から研究開始

アメリカの戦争に協力する国づくり

内藤功弁護士に聞く


 政府は戦争国家法案を国会に上程しましたが、なぜ今、有事立法なのでしょうか。長年にわたって有事法制を研究している自由法曹団の内藤功弁護士に聞きました。

 有事法制の体系的な研究が初めて行われたのは、自衛隊法制定三年半後の一九五八年二月でした。防衛庁・防衛研修所(現防衛研究所)の研究部長も務めた笹部益弘氏が『自衛隊と基本的法理論』を執筆しました。これは「戦時立法の百科全書」とも呼ばれているものです。戦前、戦中の諸法令をもとにして、現行の憲法で何ができるのか、逆に何ができないかを分析したものです。

 “戦前・戦中のような”徴兵制、戒厳令、国家総動員法はできないが、それ以外はほとんど全部、「公共の福祉」の概念を拡大することによって可能である、という内容です。その後の政府見解は、「公共の福祉」を唯一のよりどころにしています。

「三矢作戦研究」

 次が六三年の自衛隊制服組による「三矢作戦研究」です。その内容は(1)朝鮮半島における武力紛争の発生を想定し、米軍と自衛隊との協力支援ならびに共同作戦(2)日本国内での戦時立法・戦時体制の確立を研究する――二本柱です。これら国家総動員法を想起させる物的・人的動員の研究が「非常事態措置諸法令の研究」の名のもとに行われました。

 「三矢作戦研究」の統裁官で統合幕僚会議事務局長だった田中義男陸将は六五年、札幌地裁で恵庭裁判(注)の弁護人である私の尋問に答えて「三矢作戦研究は、ずっと遠い将来の防衛計画や国家の施策に役立たせるための研究だった」と証言しています。

 六六年には防衛庁内局、法制調査官の研究が行われました。これは「三矢作戦研究」を内局のシビリアン(文民)の立場でチェックし、三十六本の法令に絞ったのです。

 七八年の福田内閣の時代には、防衛庁官房長の竹岡勝美氏が八項目に整理して有事の研究を始めたと発表しました。福田内閣は同年九月、「この研究は近い将来、国会へ法案提出を予定した立法の準備ではない」という見解で世論を沈静化させようとしましたが、国民の反対運動が燃え上がり、十一月には内閣の総辞職で政権もろとも有事立法の提出策動はつぶれました。

長年の強い要求

 「三矢作戦研究」以来三十九年、福田内閣以来二十四年も法案の国会提出ができないまま推移したのは、平和憲法と国民世論の力です。

 その後、防衛庁は問題点を整理。防衛出動を命じられた自衛隊が任務を遂行する上で、自衛隊法に不備はないのか、あるとすればどういう点か、についての研究を行ってきました。これが今日の有事立法提出につながる基礎になります。

 この意味で、有事法制は政府・防衛庁の長年にわたる強い要求です。

 しかし、今度の提出法案は、軍事的には米軍と共同して戦争ができる軍隊をめざすとともに、政治的には戦争ができる国家体制づくり、イデオロギーの重視を執ように追い求めている点を見据える必要があります。とくに、軍事的背景には国際情勢の変化があります。ソ連崩壊後、日米安保体制は、対ソ軍事対決から米国の一国覇権体制を支える日米安保へ、さらに今日ではアジアにとどまらず、地球規模の安保へと変質しつつあります。

 九五年十一月の新防衛計画大綱、九六年四月の日米安保共同宣言、九七年九月の新ガイドライン、九九年の周辺事態法、二〇〇一年十一月のテロ対策特措法、そして有事法制へとつながっていきます。

米国の特別報告

 さらに、有事法制が研究の段階から大きく動き出したきっかけになったのは、二〇〇〇年十月にアーミテージ氏(現米国務副長官)らが米国防大学国家戦略研究所での特別報告です。この報告はブッシュ政権の中核に位置づけられています。

 報告書では(1)日米同盟関係が米英関係のようになること(2)集団的自衛権の行使ができないことが最大の障害である(3)有事立法、機密保護法を含むガイドラインの誠実な実行――等に言及しています。

 この報告の三カ月後には、当時の森首相が有事法制の検討を施政方針演説で明らかにし、小泉首相がこれを引き継ぎ、いっそう拡大したのです。有事法制は、文字通り「戦争動員態勢法」「戦争国家法」であり、絶対許してはなりません。


 恵庭事件 陸上自衛隊の北海道・島松演習場(恵庭市)に隣接する酪農業の野崎健美氏らが自衛隊の砲撃演習に抗議し、通信線を切断して自衛隊法違反で起訴された事件。自衛隊の違憲性をめぐって法廷でたたかわれ、一九六七年に札幌地裁が無罪判決を下しましたが、違憲性には触れませんでした。

 


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