2002年4月23日(火)「しんぶん赤旗」
「国家権限保持者」である内閣総理大臣に「緊急権」を与えること――自衛隊制服組のトップ、統合幕僚会議議長を務めた西元徹也氏は二月七日、自民党国防部会防衛政策検討小委員会で講演し、有事法制の基本的問題の第一としてこう強調しました。
首相の「緊急権」――緊急事態には国会にも諮らず、首相が権限行使をできるようにしようというのです。
西元氏は「有事」とは「平常時のシステムでは対応できない事態」と考えるべきであり、平常時を基盤とした現行法制の趣旨を満足するという観点、つまり「現行法体系の枠内」という考え方からの法整備では対応困難と主張。あからさまに憲法体系から外れた有事法制の必要性を力説しています。
首相が全権掌握
日本に有事法制整備を迫ってきた米国家安全保障会議のマイケル・グリーン日本・韓国部長は昨年四月の共同論文で次のように書いています。
「民間機関や地方公共団体に対し、必要な協力を行うよう強制できる権限を総理大臣に与えるよう、さらに立法措置が必要である」
「戦争国家法案」は、この二人が描いたような強力な戦争遂行の権限を首相に与えようとしています。有事法制発動を判断・決定する「武力攻撃事態」の認定も、自治体や民間をどのように動員するかという「対処方針」の実施も、自治体・民間に対する強制力をもつ指示と強制執行、自衛隊への出動命令も――首相が全権を掌握する仕組みです。
同法案は災害対策基本法をモデルとしていますが、これほどの権限集中は同法にもありません。
その一方でカヤの外におかれるのが、憲法で「国権の最高機関」と明記されている国会です。法案に「国会承認」の規定はありますが、内閣官房は「原則的には事後承認であり、閣議決定すれば対処措置は実施できる」と明言しています。
「リスク冒せるか」
「首相にこれだけの権限を与えて大丈夫かという議論は残る。それだけのリスク(危険)を冒せる政治家がいるのか」――「戦争国家法案」を推進する政府高官は、“首相の独裁”とは逆の面から心配します。首相に権限を集中したのはいいが、いざというとき決断できるのか、というのです。
しかし、“首相独裁”の仕組みがいったんできあがったらどうなるのか――
世界最大の軍事大国である米国では、“戦争を決断できるか”が軍の最高司令官である大統領の“資質”として問われてきました。
「偉大な大統領になるためには、戦争をやらねばならない。偉大な大統領はみな、戦争をやった」――湾岸危機で米国が対イラク武力行使の決断を迫られていた一九九〇年十一月、統合参謀本部議長だったコリン・パウエル氏(現米国務長官)に、前任者が伝えた言葉です。
戦争がいちばん大事という考え方に立つ戦争国家体制のもとでは、戦争を平然と決断する首相こそ「最適任の首相」ということになりかねません。(つづく)