2002年4月26日(金)「しんぶん赤旗」
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有事三法案=戦争国家法案の国会審議が二十六日からはじまります。日本共産党は十六日、党声明(「アメリカの戦争に国民を強制動員する『戦争国家法案』を断固阻止しよう」)を発表し、有事立法反対闘争本部も設置してたたかいの方向、体制を明確にしています。審議入りを前に、闘争本部長でもある筆坂秀世書記局長代行に、同法案反対の世論を国民のなかでどうひろげていくのかなどについて、聞きました。
――党声明への反響はどうでしょうか。
筆坂 私たちも驚くほどの素早い反響が党の内外からありました。新宿駅頭で声明にそって宣伝しながら署名活動をすると行列ができたとか、大阪ではすでに六十七行政区のうち三十以上の行政区で首長との懇談をおこなうなど、声明をもっての行動が各地でひろがっています。特徴的なことは、「心に響いた」「これは大変な問題だ。いまたたかわなければ」「読んでいて震えてきた」など、平和への熱い思いがふつふつとわきあがっていることです。
私たちは、今回の法案を「戦争国家法案」と名づけました。日本という国を戦争を最優先にする国にしていく、そのために国の仕組みをつくりかえていく、そこに法案の本質があるからです。この点をわかりやすくしめしたものとして、声明が歓迎されているのだと思います。
――政府・与党は、いざというときに自衛隊が超法規的に行動しないようにする、暴走をおさえる仕組みを平時からつくっておくのが有事法制の目的だ、法治国家として当然だといっています。
筆坂 今回の法案は、日本が戦争することを前提にしている点でも、戦争を優先させるため、国民の基本的人権や議会制民主主義、地方自治などを踏みにじっている点でも、二重三重に憲法をじゅうりんしています。いざというときに超法規どころか、それこそ超憲法の国の仕組みをつくるのが、今回の法案です。
たとえば、国民の強制動員の仕組みです。すべての国民に戦争協力を義務づけるとともに、医療や輸送、建築、言論、通信など多くの分野で、まさに強制的な協力を押しつけようとしています。
もう一つは、首相に戦争の権限を集中することです。戦争か平和かという国民にとっての一大事態であるにもかかわらず、あらゆる決定は首相がおこない、国民、自治体はそれに従うだけの仕組みができます。国会が関与しないまま有事法制が発動できるようになっている。いずれも、きわめて重大だといわざるを得ません。
――法案では、自衛隊が必要とする物資の保管命令に従わないとか、自衛隊による土地・施設の立ち入り検査に応じない国民にたいし、罰則が科せられることになっていますね。
筆坂 罰則というのは、結局、戦争に反対することは許さないということです。しかし、どんな性格の戦争であれ、戦争に疑問をもったり、反対する国民はいます。政府の命令に従いたくないという国民もでてきます。ところが、今回の法案は、そんな国民の思想、信条、良心の自由を許さないというわけですから、これほど憲法をじゅうりんするものはありません。
怖いのは、そうなれば、国民が戦争に反対しないように、平時から戦争への協力義務が学校教育などにも持ち込まれるようになることです。有事だけではないのです。
――政府・与党は、国が侵略されているのだから、ある程度の制約は仕方がないじゃないかと決まり文句のようにいいますが、この点は…。
筆坂 まったく歴史への無反省と無知をさらけだすものです。戦前、あの無謀な侵略戦争に、なぜ日本がつき進んでいったのか。人権抑圧こそが、その根底にありました。悪名高い国家総動員法は、中国への全面侵略と軌を一にしてつくられましたが、それだけではありません。なによりも国民主権がなく、思想・信条の自由や言論、表現、報道の自由もありませんでした。それどころか、戦争に反対するという平和の思想を犯罪として裁く治安維持法まであったのです。「自由と人権」の抑圧こそが、無法な侵略戦争への道だったのです。
だからこそ、戦後、いまの憲法前文では「政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうに」「主権が国民に存することを宣言」したのです。
――今回の法案が人権抑圧の国家体制をつくろうとしているのも、不法な戦争をやろうとしているからなんですね。
筆坂 その通りです。それが、党の声明でのべているように、アメリカがアジアでおこなおうとしている介入戦争です。日本が外国の侵略をうける現実の危険などないことは、中谷防衛庁長官もみとめざるをえないことです。
一方、アメリカのアジア介入戦争に日本が参加する危険は、戦後史のなかでかつてないほど高まっています。一つは、三年前に戦争法が成立し、法律にもとづいて日米共同作戦のシナリオができあがっていることです。もう一つは、ブッシュ政権が二十一世紀を「戦争の世紀」だと位置づけ、アメリカの国益のためには、軍事介入も当然だと考え、実行に移していることです。
有事法制は、日米軍事同盟のもとで、憲法をふみにじって自衛隊が創設されて以来、アメリカと日本の政府の一貫した野望でしたが、いまのべたような新しい局面のもとで急浮上し、今国会に提出されたのだといえます。
――現実に日本が攻められるような危険がないことは政府も認めている。しかし、万が一の場合の備えなのだ、そしてそういう備えは、古今東西どの国もやっているというのが、政府・与党の主張ですね。
筆坂 アジアで屈指の軍事大国は日本でしょう。軍事費はアジアでも突出しており、超最新の軍事力を備え、米軍との共同演習で、攻めるための「備え」までしているのが、日本の自衛隊なのです。その日本がアジアの国々を敵視し、いつ日本が攻められるかもしれないというのですから、日本に過酷な侵略をされたアジアの人たちはどう受け止めるでしょう。しかも、アジアでアメリカが介入戦争をやれば、これに国民を強制動員するというのが今回の法案なんです。
――そういう法制であっても、世界の多くの国々が有事法制をもっていることは事実ですね。
筆坂 その問題では、戦後の現実をリアルにみる必要がある。有事法制を世界の国がもっているといっても、自国を防衛するためにそれが発動されたことは、まずないのです。
フランスは、一九五八年に制定された現行憲法のなかに、非常事態の規定を盛りこみました。しかしこの規定は、フランスの防衛のためではなく、植民地であったアルジェリア(六一年)、ニューカレドニア(八五年)の独立運動を弾圧するために発動されたのです。
イギリスも同様で、石炭の生産が落ち込んだストライキなどの際に発動されただけです。イギリスの防衛のためには使われていない。ドイツでも、六八年の憲法改正で非常事態が規定されましたが、その発動は現在まで一度も問題になっていません。
――最後に、こんごの有事法制阻止のたたかいについて。
筆坂 いまでは、自由や人権は、日本国憲法にあるように、「侵すことのできない永久の権利」だと考えられるようになっています。そのうえ、戦争は禁止される時代になっています。国連憲章で、例外的に認められるのも、自衛のためのやむをえない戦争、侵略者にたいして国際社会が一致しておこなう軍事制裁だけです。反対する国民を弾圧してやるような戦争ではないのです。
日本には、戦争を放棄した憲法第九条があります。その国で戦争に反対することが罰せられる、こんなことを絶対に許してはなりません。戦後の原点は、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼」してすすむことでした。この原点を引き継いでいくことは、いまを生きるものの責任ではないでしょうか。
この思いは、広範な国民のみなさんも一緒だと思います。日本弁護士連合会や日本ペンクラブも反対決議をおこない、女優の中原ひとみさんや竹下景子さんら、本当に幅広い人が反対の声をあげています。平和を、憲法九条を大切にしたいと願うすべての人びとに心からの共同をよびかけ、阻止のため力をつくしたいと思います。
また、そのためにも反戦・平和のために一貫してたたかってきた日本共産党とその支部が草の根からの運動の先頭に立つことが必要だと思います。
宣伝、署名、団体訪問と対話、懇談など大きく広げようではありませんか。
前文
日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し、われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。
第9条
(1)日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
(2)前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
第11条
国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。