日本共産党

2002年4月27日(土)「しんぶん赤旗」

有事法制三法案への石井郁子副委員長の代表質問

衆院本会議


 二十六日の衆院本会議で、日本共産党の石井郁子副委員長がおこなった有事法制三法案(戦争国家法案)への代表質問(全文)は次の通りです。


 私は、日本共産党を代表して有事法制三法案に対して、質問いたします。

 私たち日本国民は、日本を二度と戦争を起こす国にしてはならないと、固く誓ってきました。二千数百万のアジアの人々と三百万の日本国民の尊い命を奪った、戦前の痛苦の教訓にたち、平和で国民一人ひとりの人権、自由が大切にされる社会をつくることを、共通の理念として、この半世紀を歩んできました。

 この国民の努力を励まし、支えてきたのが、「戦争の放棄」を高らかにうたい、基本的人権を「侵すことのできない永久の権利」と宣言した日本国憲法であることはいうまでもありません。

 ところが今回の有事法制三法案は、この憲法の平和原則や基本的人権などの民主的な諸原則を真っ向から踏みにじって、アメリカがひきおこす戦争に国民を総動員するという、まさに「戦争国家法案」というべきものであり、断じて認められません。

アメリカの戦争にいっそう加担・協力

 第一に、なんのための有事法制かということです。

 小泉総理は、「もしかしたら、どこかの国が日本を攻めてくるかもしれない」、だから有事法制が必要だといいます。しかし、いったいどこの国が日本に攻めてくるというのですか。これまで防衛庁長官自身が「当面は、日本が本格的な武力攻撃をうけることは想定できない」と明言してきたのではありませんか。

 では何のためか。重大なことは、法案が発動される「武力攻撃事態」とは、日本への武力攻撃が起きた場合だけではないということです。武力攻撃の「おそれ」のある場合でも、武力攻撃が「予測」されるだけの場合であっても、国民動員条項が発動されることになっています。この「武力攻撃事態」について、中谷防衛庁長官は「周辺事態のケースもその一つ」と答弁しました。

 つまり、有事法制が発動される事態は、「周辺事態法」が発動される事態と重なり合っているということであります。総理もこのことは、お認めになりますね。

 アメリカがアジア太平洋地域で介入戦争をおこし、「周辺事態法」が発動され、自衛隊が米軍の戦争に参戦するとき、有事法制を発動して国民を強制的に総動員する、これが、有事法制をつくる真のねらいではありませんか。

 三年前に、「周辺事態法」がつくられて以来、米軍のアジア介入戦争を日本が支援し、日米共同作戦をおこなう態勢づくりがすすめられていますが、日米政府間ではつぎの課題として、日米共同作戦への国民の動員が重要な課題となってきたのではありませんか。現に、ブッシュ政権の対日政策責任者であるアーミテージ現国務副長官らが、日本が集団的自衛権を認めること、新ガイドライン実施のための有事法制をつくることを公然と要求しています。このアメリカの要求に全面的にこたえようというのが、本法案提出の最大の理由ではありませんか。総理の答弁をもとめます。

 アメリカのブッシュ政権は、イラクや北朝鮮などを「悪の枢軸国」と名指し、そこへの軍事攻撃を公言し、無法な戦争と軍事介入の政策をすすめています。そして日本は、インド洋に自衛隊艦船を出動させ、アメリカの戦争を支援しているのであります。こうしたもとで有事法制をつくり、アメリカの戦争にいっそう加担・協力しようとしていることを厳しく指摘しなければなりません。

権利と自由を制限し国民を強制動員

 第二に、国民の総動員、権利と自由の制限の問題です。

 政府が「武力攻撃が予測される事態」と認定すれば、自衛隊は準備のための軍事行動を開始し、武力行使をおこなう米軍と自衛隊の軍事作戦行動にとって必要となる、土地、人、物の提供、すなわち国民の総動員体制づくりが、この法案の核心をなしています。

 法案は、「国民は、対処措置を実施する際は、必要な協力をするよう努める」と明記していますが、これは、国民に戦争への「協力」を義務づけるものではありませんか。

 また法案は、「武力攻撃事態」の「予測」段階から、「国民の自由と権利」に「制限が加えられる」ことも明記しています。総理、どのような国民の権利を制限するというのですか。国民の自由と権利を包括的に制限するなどということが、憲法のいかなる条項を根拠にしてできるというのですか。憲法上の根拠がどこにあるのか、条文を示して明確にお答えいただきたい。

 次に国民の動員について具体的にお聞きします。

 自衛隊法一〇三条では、自衛隊が必要とすれば、国民の土地や家屋等の使用が強制されます。自衛隊は、「予測」段階から、陣地施設の構築として、指揮所、大砲やミサイルの発射台、野戦病院、航空機の発着施設をつくることができます。そのために必要な私有地を、政府が必要だといえば、予定展開地域に指定され、土地の所有者が反対しても、地方自治体を使って強制使用することができるのです。きわめて重大な国民の権利制限ではありませんか。

 自衛隊が必要とする、あらゆる物資には、保管命令がくだされます。しかも自衛隊が必要とする物資の保管命令に民間人が従わない場合、さらに自衛隊による立ち入り検査を民間人が拒んだ場合には、罰金とともに懲役刑まで定めています。また自衛隊が必要とする、医療・輸送・土木工事などの従事者は、業務従事命令で強制されます。

 罰則までつけて協力を強制していることはきわめて重大です。憲法が明示的に否定した戦争遂行にたいして非協力の立場をとることを国家が犯罪だとみなすということではありませんか。これがどうして戦争を放棄した憲法から説明できますか。答弁をもとめます。

 さらに、法案は「指定公共機関」にたいし戦争協力の「責務」を定めています。

 指定公共機関として「日本銀行、日本赤十字社、NHKその他の公共的機関」「電気、ガス、輸送、通信その他の公益的事業を営む法人」をあげていますが、これはあらゆる分野の公的機関、民間企業が指定対象になり、その範囲に限定はないのではありませんか。

 NHK以外の民間放送会社や新聞社なども指定の対象になりますか。それらのマスコミには緊急警報や情報の提供が義務づけられるのですか。輸送では、陸・海・空のすべてに緊急輸送手段の確保などが義務づけられるのですか。医師会や看護婦会、医療機関も対象になりますか。これら指定公共機関の従業員には業務命令で協力が強制されるのですか。明確にお答えいただきたい。

 政府は、権利の制限は「必要最小限」だといいますが、この基本的人権の制限については何の歯止めもないのであります。日本国憲法が保障する、集会・結社及び言論、出版、表現の自由、学問の自由、思想信条の自由をも制限するものではありませんか。

 それは、まさに包括的かつ無限定に国民の自由と権利を侵害するものではありませんか。

 憲法が侵すことのできない永久の権利として保障した基本的人権を一片の法律で制限することがどうしてできるのか。ことは重大です。明確な答弁を求めます。

 それだけではありません。

 本法案につづいて、「事態対処法制」を「二年以内を目標」として整備するとしています。そのなかに「社会秩序の維持に関する措置」がありますが、これは「治安維持」や「野外外出禁止令」なども入るのですか。言論・表現の自由や移動の自由をも制限するもので、憲法を真っ向からふみにじるものといわなければなりません。

 「国民の生活の安定の措置」もあげていますが、これは、物資統制や価格統制を想定しているとしか考えられません。それは国民生活のすべてを国家の統制下におく、まさに文字通りの戦時体制づくりではありませんか。

 また「事態対処法制」としてどういう「米軍にたいする措置」を検討するというのですか。法案(二条六号)には、「武力攻撃事態を終結させるため」、自衛隊や米軍へ「物品、施設、役務の提供その他の措置」をとることが明記されています。これは、米軍に対しても自衛隊と同様に、土地等の使用や物資の収用を行い、物資の保管命令や輸送などの業務従事命令がだせるということですか。答弁をもとめます。

国会を脇に置き首相に全権集中

 第三に、戦争のためには、首相が全権限を行使し、国会が無視される問題です。

 法案の発動要件となる「武力攻撃事態」の認定や自衛隊の軍事行動、国民動員にかかわる「対処基本方針」が、国権の最高機関である国会にも諮らず、内閣だけの決定で実施できるという問題です。

 「対処基本方針」は、閣議決定後「直ちに」国会にかけ、承認が得られない場合には速やかに解除するとしていますが、閣議決定された「対処基本方針」は決定と同時に実施に移されているのであり、国会は、事後に、承認を求められるだけなのであります。国権の最高機関である国会をも脇に置いて政府が独断専行するものではありませんか。

 しかも、有事法制の発動を決定するのが首相ならば、「対処基本方針」を決定するのも首相です。これらは安全保障会議に諮られますが、その議長も首相です。「対処基本方針」にもとづき国民動員をおこなう「対策本部」の本部長も首相です。首相には、地方自治体などへの「指示権」や「直接執行権」まであたえられており、文字通り首相に全権を集中する体制です。このもとで、地方自治体などが政府の決定と異なる独自の判断をすることができるのですか。まさに、有無をいわさずの強行になるではありませんか。答弁をもとめます。

 最後に、私はこの議論にあたって、「国家総動員法」が成立させられ、本格的な戦時体制、そして太平洋戦争へとつきすすんだ戦前の歴史を想起せざるを得ません。

 「送らじな この身裂くとも 教え子を 理(ことわり)もなき いくさの庭に」と詠った教育者の痛恨の思いを胸に、私は、子どもの命を守り育てる女性として、絶対に歴史の過ちを繰り返すことは許せません。

 日本共産党は、侵略戦争に反対してたたかった唯一の政党として、「戦争国家法案」を断じて許さず、憲法の平和的民主的な原則を守りぬくために、広範な国民のみなさんと共同してたたかう決意を表明し、質問を終わります。


石井副委員長への

小泉首相答弁

 一、(日本への本格的武力攻撃の可能性) 平素から国の備えとして当然に整備すべきものであり、特定の国からの武力攻撃をあらかじめ想定しているものではない。

 一、(「周辺事態」との関係) 「武力攻撃事態」と「周辺事態」とは、それぞれ別個の法律上の判断によるもの。しかし、状況によってはわが国にたいする「武力攻撃事態」が「周辺事態」にもあたる場合もありうる。

 一、(新ガイドライン実施のためのものではないか) 「武力攻撃事態」への対処を中心に国全体としての基本的な危機管理体制の整備をはかろうとするもの。国家存立の基本として整備されているべきものであり、米国の要求にこたえるために整備するものではない。

 一、(国民の協力) 国および国民の安全を確保することの重要性をかんがみ、国民にも協力いただきたいと考えているが、この法案は国民に戦争への協力を義務付けるという指摘は当たらない。

 一、(国民の権利) 武力攻撃が予測されるにいたった事態においても、住民避難等の措置に着手する必要があるが、やむをえず国民の権利を制限する場合も、あくまでも本法案の基本理念にのっとり十分な合理性を有する手続きと手段を個別の法律によって定めるべきと考える。こうした権利の制限は「公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする」との憲法一三条等の趣旨にそったものと理解される。

 一、(罰則) 罰則は事態対応にたいする一般的な非協力の立場を対象とするものではなく、自衛隊の任務遂行を確保するという「公共の福祉」のための必要最小限の制限であり、憲法上許されるものと考える。

 一、(指定公共機関) 具体的にいかなる公共機関を指定公共機関に指定するかについては、当該機関の意見も聞きつつ総合的に判断することになる。指定公共機関の従業員にたいし、国から直接命令を発することは想定していない。

 一、(基本的人権の制限) 「武力攻撃事態」への対処においては、日本国憲法の保障する国民の自由と権利が尊重されなければならず、これに制限が加えられる場合は、必要最小限のものであり、公正かつ適正な手続きのもとにおこなわなければならないと明記している。基本的人権の制限には何の歯止めも生まないという指摘はあたらない。

 一、(社会秩序の維持に関する措置と国民の生活の安定の措置) 「武力攻撃事態」においては社会秩序の維持や国民生活の安定について必要な措置を講ずることは重要。今後、関係機関の意見を十分に聞くとともに、国民的議論の動向にも配慮しつつ、具体的な法整備に全力をあげる。

 一、(「対処基本方針」の国会承認) 現行自衛隊法で国会承認の対象とされていない防衛出動待機命令等について、「対処基本方針」に記載し、国会の承認をうることとすることなど、法案は現行法制に比べて武力攻撃事態対処に関する国会の関与を強化している面もあり、政府の独断専行という指摘は当たらない。

 一、(地方公共団体のおかれる立場) 「武力攻撃事態」においては国、地方公共団体および指定公共機関が連携・協力し、万全の措置が講じられなければならない。地方公共団体等においても連携・協力して対処していただけるものと考える。

中谷防衛庁長官答弁

 一、(日本に対する武力攻撃の可能性) わが国を侵略する能力を持った国が現れることは三年、五年のタームでは、想像できないかもしれないが、不透明、不確実な要素が残されていることにかんがみれば、まったく読めない世界で将来に備えておくことは、必要でもある。このような安全保障体制はわが国の長年の課題だったもので、特定の国からの武力攻撃を具体的に想定して整備するものではない。

 一、(自衛隊法の一〇三条による国民の権利制限) 自衛隊法一〇三条は、防衛出動時において、国民の生命財産を守るために行動する自衛隊の任務遂行に必要な土地などを確保するため、公用令書の交付などの適正手続きのもと、損失補償を行うことにより土地の使用等を行うことを認めるもの。きわめて重大な国民の権利制限であるとの指摘はあたらない。

 一、(物資保管命令及び立ち入り検査に対する罰則) 物資保管命令に対する罰則は保管命令に違反して、保管物資を隠匿、毀棄(きき)、または搬出するという悪質な行為を行う場合に限り、罰則を科すことにしている。

 一、(米軍の行動の円滑化) 米軍の行動の円滑化のための法制としては、例えば、日米安保条約に従って武力攻撃を排除するために必要な行動を実施する米軍に対し、物品、役務、施設の提供、その他の措置を実施するために必要な法的整備を行うことが対象となる。

 


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