2002年4月28日(日)「しんぶん赤旗」
小泉純一郎自公保連立内閣が、二年目に踏み出しました。「構造改革」を旗印に、発足時、八〜九割台という驚異的な高さだった内閣支持率も、今では四割台に急落。「小泉バブル」がはじけて際立つのは、新築の首相官邸とは対照的な、古い自民党政治の“地金”、それもさびて角張った“タカ派”部分ばかりです。 (梁取洋夫・政治部企画委員)
「党内基盤の弱い小泉は、リーダーの条件とされる3P(パワー、パッション、パフォーマンス)のバランスを取り支持率が頼りだった。だが最近は、自転車に乗るだのサッカーの始球式だの、鼻に付くパフォーマンスだけ。落ち目の証拠だ」(自民党長老議員)
それもそのはず。小泉氏は「自民党を変える。日本を変える」と叫び首相になったのに、国民の期待を裏切る事ばかり。
首相にとって最大の“誤算”は、アフガン復興会議への一部NGO(非政府組織)排除問題で、不正を是正した田中真紀子元外相を、深夜に突然、更迭(一月二十九日)したことです。
世論の怒りはすさまじく、支持率低下はマスコミ予測の二倍以上、30ポイントにも及びました。しかもこれがきっかけで、真紀子氏の“仇敵(きゅうてき)”鈴木宗男議員(自民党を離党)のいわゆる「宗男疑惑」に火が付き、情勢は一変しました。
「『告発の速達』も活用し、領土問題から米軍実弾演習まで食い物にする政・官・業癒着の実態をえぐった。佐々木憲昭議員をはじめとした共産党の調査力の、見事な勝利だった」(著名な政治ジャーナリスト)
これには、こんな裏話もあります。
―実は宗男氏は、総裁選出馬の断念以来何かと落ち目の“親分”野中広務元幹事長を見切り、もう一人の橋本派最高実力者・青木幹雄参院幹事長に“宗旨変え”をもくろんでいた。その『野中峠』から『青木山』へのつり橋を渡り始めた矢先、宗男疑惑がさく裂した。
―しかし、証人喚問(三月十一日)で、とくに辻元清美社民党政審会長(その後議員辞職)に激しい言葉で「疑惑の総合商社」などと攻撃されると、前「後見人」野中氏に思わず携帯電話をかけ、「無念さ」を訴えた。
―すると、沈黙していた野中氏が急に外務省を非難。週刊誌が辻元氏の政策秘書給与流用を報じると、すかさず「あれだけ予算委員会の証言台で答えている鈴木さんに向かって、『大ウソつき』と言うた人ですから、よもや自分はウソはつかないでしょう」(同二十日)。そして辻元氏が議員会館の土井たか子社民党党首の部屋で最後の協議をした日(同二十六日夕)。同じ階の野中氏は片目に眼帯をし、エレベーター前まで乗り出し、腰に手を当て仁王立ちで土井室の方向を凝視。つめかけたマスコミに「辻元辞職」の一報が流れるや「ほほう」と声を上げ、満足げに姿を消した……。
辻元氏の政策秘書疑惑は二年前、土井党首秘書にまつわる怪文書が出回った事もあり「内部から撃たれた」との見方が一般的です。が、こうした流れをどう読むか――。
辻元氏の疑惑以来、永田町は、まるでギリシャ神話の「パンドラの箱」を開け「あらゆる邪悪と災い」をぶちまけたかのように金権・腐敗、スキャンダルが続出。
そんな中で、志位和夫共産党委員長が発表した官房機密費資料について、政府は説明不能に陥っています。その上、「三権の長」たる井上裕参院議長が、公共事業口利きに絡む政策秘書の六千万円もの裏金受領疑惑で辞任・交代する事態まで起きています。
ところが、わが小泉首相はまるで他人事。「まず本人が解明を」「出処進退は本人が決めるべき事」と繰り返すばかりです。これでは、「改革」をいうなら企業献金禁止など「まず政治改革をやらないと、他は何も進まない」との真紀子元外相の主張の方が、よほど説得力があります。
政治腐敗を放置する一方で、露骨なのは憲法と平和への挑戦。テロ対策支援を口実に、米軍支援のため自衛隊を戦時に海外派兵する法律を強行成立させ、実行したのはつい半年前のこと。
それなのに今度は、父親・純也氏が防衛庁長官当時暴露された「三矢作戦」研究(六五年)以来、首相の師・福田赳夫元首相の“悲願”でもあった有事法制=米軍と自衛隊協力の国家総動員態勢づくりに平然と乗り出しました。
暮らしと経済でも、熱心なのは大手銀行支援ばかり。企業倒産、失業率などの数値は過去最悪なのに、何ら有効な手だてを取らず、逆にサラリーマン本人三割負担導入などの医療制度改悪に血道を上げるなど消費をさらに冷え込ませようとしています。さらに靖国神社参拝の強行に加えて、民主主義の問題でも、報道・表現の自由を政府が強権的に規制する「個人情報保護」法案などの強行を狙っています。
とりわけ今、小泉首相が「力説」しているのは、郵政事業の公社化に伴い民間企業の参入を認める関連二法案。首相の“持論”郵政民営化に絡むだけに、これに反対するなら「自民党が小泉内閣をつぶすか、小泉内閣が自民党をつぶすかだ」(二十六日の記者会見)と、ことさらにいわゆる「抵抗勢力」との“対決姿勢”を強調。政権浮揚をはかる構えです。
「抵抗勢力」側も負けてはいません。青木、野中両氏や古賀誠元幹事長らが国会会期末を前に衆参補選などの結果もにらみつつ、内閣改造と合わせ党人事、とくに女性スキャンダルを抱える山崎拓幹事長の交代を強く要求。「加藤(紘一元幹事長)の議員辞職などで、いざというとき連携するための『民主党勢力とのパイプ』が細くなった小泉を、揺さぶる作戦」(前出、政治ジャーナリスト)です。
他方、“超タカ派”都知事・石原慎太郎氏の「新党」への動きもとりざたされています。
複雑な情勢下での政治腐敗の深刻化は、小泉政権の終幕の近さを予想させます。それは同時に、政権党・自民党と自公保連立が、国民が見捨てた森喜朗前内閣時代へ逆戻りすることを意味します。今ほど、幅広い国民の結束した力で、醜悪な自民党政治に真にピリオドを打ち、新しい政治へ踏み出すための歩みを広げ、強めることが求められるときはありません。