2002年4月29日(月)「しんぶん赤旗」
「機密費の上納はやめた方がいい」――山崎拓自民党幹事長がマスコミに漏らした言葉です。「上納」の事実を問わず語りに認めたものです(本紙二十六日付一面参照)。機密費「上納」疑惑とは、外務省機密費の一部が官邸機密費に上乗せされ、「どんぶり勘定」で使われているというものです。機密費の党略的・私的流用の問題と合わせて、その実態の解明は、政治腐敗根絶のために避けて通れません。
「上納」構造の一端を白日の下にさらした文書があります。「報償費について」と題する内閣官房文書です。日本共産党は、昨年二月、この文書を公表するとともに、筆跡鑑定を専門家に依頼し、筆者が現内閣官房副長官の古川貞二郎氏であることをつきとめました。以来、「古川ペーパー」と通称されています。
「古川ペーパー」の記載日付は八九年五月。「官房長官が取り扱う報償費は、予算上、内閣官房と外務省に計上されており、形式的には外務省計上分を内閣官房に交付する形をとっている」と、外務省機密費の首相官邸への「上納」の実態を記載しています。
文書は、「官房長官の取り扱う報償費の額は次のとおり」として、「内閣分」「外務省分」に分けて、過去七年間の機密費の推移まで記載されています。
当時、福田康夫官房長官は、日本共産党の追及に、「文書の出処が不明」「上納はない」とコメント、その後も同じ姿勢です。
ところが、日本共産党の志位和夫委員長は四月十二日、議員辞職した加藤紘一氏が宮沢内閣で官房長官を務めていた時期の機密費使途の一端を示す会計記録を公表しました。この文書は会計帳簿と集計表とからなっていますが、この集計表に使われた便せんが、「内閣官房」と記された独特の便せん。実は「古川ペーパー」が書かれた便せんと同じものだったのです。
「古川ペーパー」は機密費の使途に「国会対策費」を挙げていますが、会計帳簿でも、国会対策のための支出が最大部分を占めています。
外形的にも内容的にも「(古川)文書の真実性をいよいよ決定的に裏付けるものとなった」(志位委員長)といえます。
「古川ペーパー」作成時の八九年五月は、竹下内閣から宇野内閣への変わり目。前内閣からの引き継ぎのために作成されたとみられます。宇野内閣の官房長官は、現内閣の財務相である塩川正十郎氏です。
塩川氏は、「上納」の実態について立ち入って証言しています。「総理が外遊で海外出張でいくから、その費用は……官邸の報償費ではございませんから、外務省のある枠内からもってこいよ」(昨年一月二十八日民放テレビ)
さらに、細川内閣で官房長官を務めた武村正義氏も「少なくとも外交報償費が官房長官室の金庫を通ったという記憶はありません」(昨年二月一日)と証言しています。
両氏の発言からうかがえるのは、外務省機密費には官邸用の「枠」があり、それは官邸の金庫とは無関係に使えるという構造です。
外務省サイドからも、田中真紀子元外相が「上納」について示唆しています。
二月十八日、衆院予算委員会に参考人として招致された田中氏は、「上納はないと、歴代の官房長官、首相が言っているので、ないと言わざるをえない」と微妙な表現を使いました。「会計検査院が昨年九月二十八日に紙を出した。ここにすべてがあるんじゃないですか」――。
田中氏のいう会計検査院の報告書には、内閣官房、外務省ともに「それぞれが所管する予算を自らの責任において執行する体制となっていない」と、両省の機密費のどんぶり勘定ぶりを暗に指摘する記載があります。
しかし、歴代内閣が固く口を閉ざしているため、真相は依然としてヤミの中です。
機密費自体、使途を明らかにする必要のない、文字通りの「つかみ金」。一九五〇年から二〇〇〇年までに計上された官房機密費は総額四百八十二億三千六百十一万円。外務省本省機密費は六百二十億千百七万円にのぼります。そのうえ、歴代官邸が「上納」という形で、他省庁に計上された予算まで勝手に流用していたとなると、国会と国民をあざむく血税の流用です。
「上納はない」と調査すら拒否する小泉内閣に、「改革」を口にする資格はありません。