2002年5月4日(土)「しんぶん赤旗」
憲法記念日の三日、東京・日比谷公会堂で開かれた2002年5・3憲法集会で、日本共産党の志位和夫委員長、社民党の土井たか子党首、作家の小田実さん、埼玉大学名誉教授の暉峻淑子さんがスピーチを行いました。
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志位委員長は、「有事立法三法案は読めば読むほど恐ろしい内容だ」として、二つの点から本質を明らかにしました。
一つは「国民の安全を守る法律ではなく、アメリカの介入戦争に日本を参加させるむきだしの参戦法案だ」という点です。
志位氏は、法案のいう「武力攻撃事態」とは、「武力攻撃のおそれ」や「予測される場合」にも発動されるものと指摘。外国からの武力攻撃の現実的な可能性のないことを政府自身が認めているもとで「現実性(リアリティー)はどこにあるか」と問いかけ。ラムズフェルド米国防長官の最新論文もひきながら、現実的危険は、イラン、イラク、北朝鮮を「悪の枢軸」と決めつけ、先制攻撃も辞さないアメリカが世界やアジアで介入戦争をひきおこすことにあるとのべました。
そして、「『武力攻撃事態』と『周辺事態』を同時に発動して日米共同で介入戦争をやるのがこの法律の狙いであり、本質だ」と強調しました。
二つ目の本質として、志位氏は、「国民の自由と人権をふみつけにして、戦争に強制動員する、戦時体制をつくるものだ」と指摘。法案は、戦争への「国民の協力」を義務づけ(武力攻撃事態法案第八条)、地方自治体に首相が「指示」し、従わない場合は、首相が「直接執行」できるとしていることをあげ、周辺事態法でさえ「協力の求め」だったのが、武力攻撃事態法案で強制力をもつとのべました。
また、「指定公共機関」として、NHK、NTT、電気、ガスなどあらゆる公共事業、公益事業をおこなう企業が、同じように首相の「指示」「直接執行」のもとにおかれる危険を明らかにしました。この点で、マスコミにも「最悪のメディア規制はこの有事法制だということをとらえてもらいたい」と呼びかけました。
志位氏は、国民の強制動員にかんして、「なかでもひどいのは、罰則つきで物資の保管命令が出せることだ。従わなければ懲役・罰金の脅しで、ガソリンスタンドもコンビニも米屋さんも戦争に動員されるという事態がつくられる」と指摘。
「戦争に協力できないという信念をもって、保管命令を拒否した国民を犯罪者とすることは、戦争への非協力・拒否という『思想・信条』を罰することになる。日本は憲法九条をもつ国。九条は戦争を禁止し、戦争への協力を禁止している。九条の立場からすれば戦争をやること、協力することが犯罪ではないか。戦争に協力しないという信念、思想・信条を、懲役や罰金の刑罰で脅し、戦争への非協力を犯罪者とするのは、これ以上の憲法違反はない」と訴えると、割れるような拍手がおきました。
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さらに、法案が国民の「自由と権利」をなんの歯止めもなく制限しようとしている危険を指摘。「法律で決めれば何の制約もなく人権を制限できるというのは、大日本帝国憲法と変わりない」と訴えました。
志位氏は、最後に「憲法と有事法制は絶対にあいいれない。憲法九条の平和原則を壊し、基本的人権を壊し、地方自治を壊し、首相に絶対権限を与えて議会制民主主義を壊し、そしてアメリカの戦争に日本を参戦させるという意味では国家主権・国民主権も壊す。憲法を総破壊するこの悪法をくいとめるために最後まで力をあわせようではありませんか」と力を込めて呼びかけ、大きな拍手に包まれました。
社民党の土井たか子党首は、「戦争の準備をすれば戦争になる。平和の努力をすれば平和がやってくる」という言葉を紹介し、平和へのあこがれが平和思想となり、平和憲法へ結実していったと指摘。二〇〇〇年五月の国連ミレニアム・サミットでの国際フォーラムや、一九九九年五月のオランダ・ハーグでの国際市民平和会議で、ともに憲法九条の戦争放棄原則を各国政府に採択させようとの決議があげられたことを紹介しました。
そのうえで、「世界からうらやましがられている憲法九条がいま危ない」として、有事法制の危険性をとりあげました。一つは、「有事」の範囲が際限ないことです。周辺事態法のとき政府が「インド洋までは含まない」とのべていたのに、昨年九月の同時テロ以降、アメリカの報復戦争に同調し、インド洋まで自衛隊がいってしまったと指摘。「有事といったら日本の領土、領空に限るかと思っていたら話が違う」とのべました。
また、「有事法制は自衛隊の行動を円滑にするというのが第一だ」とのべ、「人権より国家」の考えが平時から浸透してしまう危険を指摘。個人情報保護法案がこうした国家統制につながるとのべました。
土井氏は、「有事法制がもし万が一実現したら憲法は消えてなくなる」と警告。憲法改正権をもっているのは国民であり、国民一人一人が有事法制にたいしてどういう行動をとるのかが問われるとして、廃案をめざす考えを強調しました。
そして、鈴木宗男衆院議員の疑惑や不況の問題をとりあげ、「私たちの暮らしこそ有事だ」とのべ、疑惑解明を優先していく考えを示しました。
ベトナムから帰ってきたばかりの作家の小田実さんは、二月につづく訪問でグエン・ティ・ビン国家副主席と世界情勢について話し合い、「アメリカはベトナム戦争を反省していない。日本も侵略戦争を反省せず、一緒に軍事戦略を展開している。そんな恐るべき状況をなんとかしようとなった」と報告しました。
また「世界的視野で日本国憲法を認識する必要がある」と指摘した小田さんは、アメリカを後ろ盾にしてイスラエルがパレスチナに侵攻するなか、ベトナムのあと訪れたギリシャで見た「武力では何も解決しない」と叫ぶ反戦反米の大集会の様子を紹介し、「世界はこういう状況になっている」と強調しました。
さらに、小田さんは「どうすれば憲法の平和主義が実現するのか議論すべきだ」と問題提起し、「議論の中心は、武力を用いないという平和主義の理念。その理念の底には、殺し、焼き、奪うという南京大虐殺や、殺され、焼かれ、奪われた原爆の戦争体験がある」と指摘。「われわれは、体験から、戦争はいけないことを痛感した。その体験に基づく理念は、憲法前文にうたわれ、九条へと具体化したんだ。平和主義という理念から九条をとらえ直す必要がある」のべました。
「昨年のテロ事件以降、戦争主義か平和主義かが問われている」とのべた小田さんは、ドイツで個人の権利として確立している「良心的兵役拒否」の実情を紹介。「いろんな国が、平和主義の道を歩んでいる」とのべて、「市民による軍縮を求めよう」と呼びかけました。
埼玉大学名誉教授の暉峻淑子さんは、「かぜをひき、昨夜は四〇度も発熱した」という体をおして、「国民の生活の中から憲法を考えたい」と、リストラ、雇用不安や若者の就職難、ホームレスの激増などの実情を紹介して小泉政権を批判しました。
新規学卒者の52%しか就職できず、フリーターなどの不安定な職業につかざるをえないうえ、社会保険もほとんどないと指摘。失業者の半分しか雇用保険を受けられない実態を告発しました。
「平和、人権、民主主義は三本をよりあわせた縄のようなもの。なかでも一番大事なのは平和」と強調し、有事立法がいかに人権をないがしろにするかを具体的に指摘。この法案は、人が死んでも医師の死亡証明もなく埋められるとのべ、「私は、ちゃんと死亡証明をとって、火葬してもらいたい」と訴えました。
小泉首相が構造改革といって国民生活をいじめることばかりしていることを批判し、いまや三万人以上といわれるホームレスが、特殊な人ではなく、日本では職を失うと、家もプライドもすべて失っていくと指摘。「経済は人間のためにある。これだけ生きていけない人をつくっておいて、何が有事法制か。ミサイル一発で二億円。これを本当に困っている人に使うべきだ」とのべると「そうだ」の声が上がりました。
「あらゆるところでジリジリ攻められて、人権がどうなっちゃうのかと思うけど、市民の力は大きい」とのべ、国会議員への要請、新聞への投書、国会の傍聴など、「一歩でも動いてください」と訴え、大きな拍手に包まれました。