2002年5月5日(日)「しんぶん赤旗」
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国民に一兆円もの負担増を押しつける医療改悪法案の審議が衆院で始まりました。多くの国民が改悪に反対し、怒りの声を上げています。小泉純一郎首相の国会答弁には何の道理もありません。(秋野幸子記者)
「財政が厳しい」 首相「三割負担の導入は、……医療保険財政が厳しい状況にあるなかで、患者、加入者、医療機関といった関係者にひとしく痛みを分かち合っていただくとの観点から行うこととした」(四月十九日、衆院本会議) |
医療保険財政が深刻になった最大の原因は、国が医療保険への国庫負担を減らし続けてきたことにあります。
二十年前とくらべると、老人医療費にたいする国庫負担割合は13ポイントも減っています。国民健康保険では、財政に占める国庫負担の割合は20ポイント以上も減らされました。
この結果、医療費全体に占める国庫負担は、八〇年度の30%から九九年度には25%に低下。年間一兆五千億円に相当する国庫負担が削減されました。逆に家計負担(患者負担と保険料)は40%から45%に増えました。
このため保険財政が圧迫され、お年寄りの患者負担や老人医療を支える現役世代の拠出金などの負担が増え続けました。
「財政が厳しい」というなら、まずは減らし続けてきた国庫負担を元に戻すべきです。“関係者に痛みを分かち合う”というのは責任のがれです。
しかも「関係者」に国は含まれていません。今回の改悪案でも、医療費の国庫負担は二千八百億円も減らしながら、国民には一兆円の負担増を押しつけようとしています。
国庫負担のことをいわれると、小泉首相は“増税しろというのか”と言い返します。しかし、問題になっているのは税金の使い方です。むだな公共事業や軍事費への支出を削ってその一部をまわすだけで、国庫負担を元に戻す財源は十分あります。
「国保は3割負担」 首相「国保に入っている方は三割負担なんですよ。三割というのは適正な負担」(三月二十六日、参院予算委員会) |
あくまでも三割負担が「適正な負担」だという小泉首相。与党のなかには「公平性の観点から三割に統一」(公明新聞、四月十三日付)という主張まで出ています。
これは「三割負担」に苦しむ国民健康保険加入者の痛みなど眼中にない言い分です。国保では、国庫負担削減の影響で保険料が高くなり、滞納が三百九十万世帯にものぼっています。そのうえ、三割という高い窓口負担。加入者から大変な悲鳴があがっています。
政府の国保問題懇談会の報告(八七年)も「給付の公平を図る観点から、国保において八割程度の給付(二割負担程度)への改善を図ることは重要な課題」と指摘していました。「公平」というなら国保の患者負担こそ二割に引き下げるべきです。
「低所得者に配慮」 首相「(七十歳以上の負担の)上限額については、低所得者に配慮するなどの措置を講じており、必要な医療が抑制されることはない」(四月十九日、衆院本会議) |
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小泉首相は“患者負担を引き上げても低所得者には配慮しているから大丈夫”と言います。しかし、それは国民に対するとんでもないごまかしです。
改悪案は、お年寄りの自己負担限度額を表のように引き上げます。低所得者の限度額は、通院の場合、いまの月三千二百円から八千円にはねあがります。
そのうえ、かかった医療費の一割をいったんは全額支払うしくみに改悪します。限度額を超えて払った分は、市町村の窓口に申請してあとから返してもらう「立て替え払い」となります。
いまは限度額を超える分は払わなくていいので、通院の場合、財布のなかに最大で五千三百円(大病院の場合)あれば一カ月の通院は可能です。
ところが一割負担分を全額支払わなければならなくなると、いくら必要になるのかわかりません。その不安から、ますます受診をひかえることになります。
厚生労働省も、一割負担の徹底による受診抑制で年間千四百億円(〇三年度)の医療費が削減できると試算しています。「必要な医療が抑制されることはない」という言い分に、何の根拠もありません。