2002年5月6日(月)「しんぶん赤旗」
「戦争国家法案」の中核である武力攻撃事態法案は、地方自治体や「指定公共機関」に指定された民間企業などに戦争協力の「責務」を負わせています。そのうえ、法的拘束力をもつ首相の「指示」や強制執行を受けることまで定めています。
ところが、四月二十六日の衆院本会議では、地方自治体や「指定公共機関」がどのような役割を負わされるのか、政府は「今後検討していく」というばかりで、具体的なことはなに一つ明らかにしませんでした。
片山虎之助総務相は、「今後、個別法制の整備にあたって、内閣官房をはじめ関係省庁と協力しながら検討していくことになる」というだけ。自治体管理の港湾で、米軍や自衛隊の艦船入港にどのような措置を求められるのか、病院に傷病兵などの受け入れが求められることはないのか、自治体職員の動員はどうなるのかなどといったことには口をふさぎました。
また、どの民間企業が「指定公共機関」とされるのかも「当該機関の意見も聞きつつ総合的に判断する」(首相)というだけでした。
政府が指示・執行の例として示したのは、“ある地方の住民の避難を受け入れる団体間で話し合いがつかない場合に指示する”とか“避難勧告した住民の輸送で当該地方団体と連絡がつかない場合や態度が決まらない場合に国が直接行う”という場合。「国民の理解」が得やすいケースを選んだものでしょうが、災害の場合でも広域的な自治体間の協力関係が結ばれているのに、なぜ首相の指示や強制執行権まで必要なのか、説明にはなっていません。
要するに、政府の姿勢は、強制力をもつ首相の指示権や強制執行権だけはさだめて、あとは首相の自由裁量にまかせるというもの。なんの歯止めもなしに強大な権限を首相に与えることになるのです。
一方で、小泉純一郎首相は、二十六日の衆院本会議で、自治体や指定公共機関にたいする強大な権限について「武力攻撃事態への対処に際しては、国として総合的な意思決定と各種の措置の実施を迅速に行うことが重要だ」などとのべ、“迅速さ”を強調しました。
しかし、同じように“迅速さ”が求められる災害の場合でも、災害対策基本法は、非常事態対策本部長に「指示」権を与えているものの、法的拘束力はないと解釈されています。まして、強制執行権などはありません。
地方自治体や「指定公共機関」などにたいし、強制力をともなう措置をおしつけるのは、戦争協力を拒否される場合を想定しているからです。
日米ガイドライン(軍事協力の指針)策定にかかわったマイケル・グリーン米国家安全保障会議(NSC)日本・韓国部長が「協力に消極的な民間機関や地方公共団体に対し、必要な協力を行うよう強制できる権限を総理大臣に与えるよう、さらに立法措置が必要である」とのべていたとおりです。(おわり)