日本共産党

2002年5月9日(木)「しんぶん赤旗」

衆院特別委 志位委員長の総括質問(大要)

海外での武力行使の歯止めなし
有事3法案の恐るべき本質をつく


 七日の衆院有事法制特別委員会でおこなった日本共産党の志位和夫委員長の質問(大要)を紹介します。


 志位和夫委員長 有事法制三法案について、日本共産党を代表して、小泉首相に質問いたします。

 自衛隊を海外に派兵する法律としては、すでに「周辺事態法」が九九年に強行されたわけであります。しかし、この法律は、できないことが二つあります。この法律というのは、日本にたいする武力攻撃がなくても、アメリカがアジアのどこかで介入戦争をやった場合に、自衛隊がその戦争に参加できる仕組みをつくるものでしたが、できないことが二つあった。

 一つは、自衛隊が米軍の活動を支援するさいに、「武力の行使」をおこなってはならないということが建前とされておりました。

 もう一つは、この戦争に日本の国民を動員するさいに、強制力をもっての動員は許されないと、協力とか依頼であっても強制してはならないと、二つのできないことが「周辺事態法」ではあったわけです。

 いま国会に提出されている有事法制三法案というのは、この二つの点がどうなるのか。私は、法案の条文に即して、この点をただしていきたいと思います。

米国の戦争に参戦

 志位 まず、自衛隊による「武力の行使」は、どうなるのかという問題です。

 「武力攻撃事態法案」の第二条では、法案で使われる用語の「定義」について規定しております。

 その第二条第二号では、「武力攻撃事態」とは何かについて、「武力攻撃が発生した事態」、「武力攻撃のおそれのある場合」、「武力攻撃が予測される事態」――「発生」、「おそれ」、「予測」、この三つのケースを包括した規定だと定義しています。

 それをうけて「定義」の第二条第六号では、そうした「武力攻撃事態」にたいする「対処措置」とは何かについての定義を定めています。この第六号のイでは、「武力攻撃事態を終結させるために実施する措置」というのを定めておりまして、その(1)として、「武力攻撃を排除するために必要な自衛隊が実施する武力の行使、部隊等の展開その他の行動」を規定しています。つまり自衛隊は、この定義によりますと、「武力攻撃事態を終結させる」ために、「武力の行使」ができるという規定になっています。

 そうしますと、ここで規定されている「武力攻撃事態を終結させる」ために自衛隊がおこなう「武力の行使」というのは、「武力攻撃事態」の三つのケース、すなわち「武力攻撃が発生した事態」「武力攻撃のおそれのある場合」「武力攻撃が予測される事態」、このすべての場合で、「武力の行使」ができるということになりますが、これはいかがですか。

 小泉純一郎首相 わが国が武力攻撃を受けた場合は、武力の行使はできますよ。そのために自衛隊はあるんですから。しかし、予測する段階で武力の行使なんかしようがないでしょう。必要な備えはするんだから。どういう部隊を展開するか、どういう予防措置をつくるか、これは武力の行使じゃないんです。

 志位 総理の答弁は、要するに、武力攻撃が「発生」した場合に限られると。「おそれ」や「予測」では、できないということですか。「おそれ」はいいのですか。どっちなのですか。

 首相 「おそれ」がある場合に武力攻撃なんて必要ないじゃないですか。

志位委員長 「『おそれ』『予測』の場合に武力行使を禁止する規定があるか」

中谷防衛庁長官 「条文には書かれていない」

 志位 要するに、「おそれ」や「予測」では武力の行使はしないということをあなたは言われました。

 私は、この法案について聞いているのです。この法案の中身について聞いているのです。この法案では、さきほどいったように「武力攻撃事態」――「発生」「おそれ」「予測」の全部をふくんだ「武力攻撃事態」を「終結」させるために、その全体を「終結」させるために、「対処措置」として「武力の行使」ができると一般的に規定しているのですよ。

 総理のいうように武力攻撃が「発生」した事態にのみにしか「武力の行使」ができないというのであるならば、その根拠になる規定は、この法案の「定義」のなかにありますか。あったら言ってください。

 中谷元・防衛庁長官 わが国の場合、武力の行使ができる組織というと、自衛隊だけでございます。この法律は自衛隊法とこの武力攻撃事態法案の二つが必要でありまして、武力攻撃事態法案にはその手続きを書いてあるわけです。自衛隊の行動につきましては、自衛隊法の七六条のなかに自衛隊の活動できる規定といたしまして、武力攻撃を受けた場合という規定があります。この両方によって自衛隊の行動が律せられるわけです。

 志位 答えてないんですよ。この「武力攻撃事態法案」のなかに「おそれ」や「予測」の場合では、「武力の行使」ができないという規定があるかないか。これを聞いているのです。自衛隊法の問題を聞いているんじゃないんです。この法案のなかにあるかないかを聞いているのです。

 なぜ問題にするかといいますと、この「武力攻撃事態法案」というのは、プログラム法でもあるわけでしょう。つまり、これがもし法律になったとするならば、二年以内に「事態対処法制」としてさまざまな法律を「改正」する必要があるわけですよ。そのとき、自衛隊法だって「改正」する必要がある。自衛隊法の原法にもなるのです。だから、自衛隊法に規定してあるかどうか聞いているんじゃない。この「武力攻撃事態法案」のなかに、「発生」の場合のみしか「武力の行使」ができないというのだったら、根拠になる規定があるかないか。あるんだったら、どこにあるんだと聞いているのです。どうですか、この法案のことを聞いているのですよ。

 防衛庁長官 この法案につきましては、自衛隊のことだけではなくて、国民の避難誘導とか、その他のことを含めまして包括的に決めております。このなかで自衛隊の記述はございますが、その際の国会承認等の手続きを書いておりますし、ご指摘のくだりもございます。しかしながら、自衛隊がからんだ行動につきましては、自衛隊法がございまして、八八条によりますと、出動を命じられた自衛隊は、わが国を防衛するために必要な武力を行使することができるということになっております。

 志位 質問に答えてくださいよ。自衛隊法のことを聞いているのじゃない。この「武力攻撃事態法案」のなかに、「おそれ」や「予測」の場合には「武力の行使」をしてはならないという明確な条文の規定があるかどうか聞いてるのですよ。それを聞いているのです。イエスかノーか。

 防衛庁長官 この条文には書かれておりませんが、自衛隊が防衛出動をして、武力行使をするということは、自衛隊法に書いております。ですから、この法案の手続き等によりましても、そういう予測の場合におきましては、武力の行使ができないということです。

志位委員長 「『国際法規と慣例の遵守』をなぜ落としたのか」

政府は答弁不能に

 志位 それでしたら、私は、自衛隊法の問題を聞きたい。自衛隊法にあるからといって、ここに規定がないことを合理化できないことはさきほどいった通りです。その規定が(「武力攻撃事態法案」のなかに)ないということを防衛庁長官はお認めになりました。しかし、(「武力攻撃事態法案」のなかに)「おそれ」や「予測」の場合には「武力の行使」はしてはならないという規定がなければ、その規定にあわせて、「事態対処法制」として、自衛隊法も変えられてしまう。だから、問題にしてきた。では、自衛隊法との関係を、つぎに私は、聞いてみたいと思うんです。

自衛隊法と「武力攻撃事態法案」では武力行使の要件が大きく違っている

 志位 (パネル=表1=を掲げて)自衛隊法では、武力行使の要件をこのように定めております。「武力行使に際しては、国際の法規及び慣例によるべき場合にあってはこれを遵守し、かつ、事態に応じ合理的に必要と判断される限度をこえてはならない」ものとする。自衛隊法八八条第二項であります。

表1

 こんどの「武力攻撃事態法案」の第三条第三項を見ていただきたい。第三条というのは、「武力攻撃事態法案」のなかで「基本理念」、すなわち武力攻撃がおこったときの行動原則を決めた部分であります。これを見ますと、こういう規定になっています。「武力の行使は、事態に応じ合理的に必要と判断される限度においてなされなければならない」

 これは、重大な違いがあるでしょう。つまり、「国際の法規及び慣例によるべき場合にあってはこれを遵守し」というのが、すっぽり抜け落ちているわけですよ。あなたは、自衛隊法に則してやるとおっしゃったけれど、自衛隊法の規定と、こんどの「武力攻撃事態法案」の規定は違う。「国際の法規及び慣例(の遵守)」が、取り外されている。これは、なんで取り外したのですか。

 防衛庁長官 この武力攻撃事態法案というのは、基本理念を定め、それぞれの事態対処のための手続きを書いております。それによりまして、自衛隊が行動するわけでありますが、実際の自衛隊の行動につきましては、自衛隊法のなかにございまして、その際も七六条のなかにわが国を防衛する必要と認める場合には防衛出動を命じるというふうに、記述を書いておりますし、八八条の条文には、ご指摘の「国際法規を遵守し」という規定がございますので、それにしたがって行動するわけです。

 志位 全然、答弁になってないですよ。なんで落としたか聞いてるのです。「武力攻撃事態法案」のなかで、自衛隊の武力行使の要件を書いたのは、ここだけですね。これは間違いありませんね。(防衛庁長官うなずく)

 うなずいているから、武力行使の要件を書いたのはここだけなんです。ここだけで、なんでわざわざ、これを落とす必要があるのですか。「国際の法規及び慣例の遵守」を、なぜ落としたのかを聞いてるのです。答弁になってません。なぜ落としたのか。

 防衛庁長官 自衛隊法には自衛隊法の根拠を書いております。武力攻撃事態法案には、その理念を書いておりまして、武力攻撃事態に際しては、自衛隊のみならず、いろんな省庁、また公共団体等の行動を決める必要がございますので、その基本的理念を書いているわけです。

 志位 自衛隊法とこんどの「武力攻撃事態法案」は、「武力攻撃事態法案」が基本的な法律になるのですよ。これにもとづいて、二一条、二二条、二三条に定められている「事態対処法制」で、自衛隊法も変えられるんですよ。二年以内にそういう(立法措置をとる)ことになってるじゃありませんか。だから、なぜこれを落としたのかと。こんどの法律で落としたら、自衛隊法だって落とすことになるんですよ。「国際の法規及び慣例の遵守」をなぜ落としたのか。まったく説明になっていない。ちゃんと説明してください。

 防衛庁長官 自衛隊法の七六条の防衛出動の記述も、この自衛隊が出動する際の手続きが、この武力攻撃事態法案によってはじまる記述の変更はございますけども、その他の自衛隊の基本理念につきましては、その根拠として残しているわけでありますし、また八八条につきましても、原文のままでございますので、自衛隊の行動に関して、変化するところはいささかもないわけでございます。

「おそれ」や「予測」で武力行使をすれば、国際法違反の先制攻撃になる

 志位 私がなんでこの問題を、きちんとただしたいかといいますと、さきほど私は「武力攻撃事態法案」の定義の第二条を問題にいたしました。ここでは「武力攻撃事態」というのは、三つケースを包含している。「発生」と「おそれ」と「予測」。これを包含している事態だと規定し、その全体を「終結」させるために自衛隊は「武力の行使」ができるというふうにかかっているのではないかと私は聞きました。それにたいして総理は、これは「発生」だけだと、武力攻撃が「発生」したときじゃないと「武力の行使」はできないとお答えになりました。そこで私は、それはこの法律のなかのどの条文によって規定されているんだと聞きましたら、結局、この法案のなかには「おそれ」や「予測」の段階での「武力の行使」を禁止する規定の条項はないというのが、さっきの答弁だったでしょう。だから、問題にしているのですよ。

 というのは、「おそれ」や「予測」で「武力の行使」をやったら、先制攻撃になるのですよ。これは、国際法違反になるのですよ。そして、「おそれ」や「予測」での対応というのは、「周辺事態法」とも重なり合ってくる。日本にたいする攻撃がなくても、アメリカが軍事行動を起こしたら、自衛隊がその戦争に参加する。これは、まさに、「おそれ」や「予測」という事態と重なり合ってくる。こういう事態でも日本が「武力の行使」ができるというところに道を開いてくるのじゃないか。そういう規定なんじゃないか。だから、「おそれ」や「予測」の問題は、あいまいにできない問題だと聞いているのです。これを禁止する条項はないんですよ。あなたが認めたように。この法案のなかには、禁止する条項がない。一方で「国際法規の遵守」を落としてしまっている。これはいったいどういうことなのかということを聞いている。

 さきほどの自衛隊法八八条二項の「国際の法規及び慣例によるべき場合にあってはこれを遵守し」ということを、歴代の政府がなんというふうに説明してきたのか。歴代の政府が、どういう意味で、これを説明してきたのか、ご存じですか。

 防衛庁長官 自衛隊は防衛出動がかからない限りにおきましては、武力行使をすることもできませんし、また、武力行使をする場合におきましても総理から承認いただいた、自衛隊の活動のできる地域においてのみできるわけでございまして、これまでの審議でのやりとりにおきまして、武力の行使ができるということは防衛出動が起こってから、すなわち、武力攻撃が受けてからでないと武力の行使ができないとお答えいたしておりまして、この基本原則は何ら変わるものではございません。

 志位 また質問に答えていないですね。私が聞いたのは、自衛隊法の八八条二項にある「国際の法規及び慣例の遵守」、これをどういう意味の条項だと、これまで政府は説明してきたのか、ということを聞いているのですよ。(委員長に)ちゃんと質問に答えさせてください。

 防衛庁長官 条項の意味ですけれども、原則として国会の事前承認を得て防衛出動命令が下令されて自衛権の発動の三要件に該当する場合に限られておりますし、この武力行使は国際の法規・慣例によるべき場合であって、これを遵守し、事態に応じこれを合理的に必要と判断される限度をこえてはならない、という要件を課しております。その国際法規及び慣例には、ジュネーブ条約の記述とか、ハーグ陸戦法規とか、毒ガスの禁止に関する議定書とか、対人地雷条約とか、そういうものが含まれるわけでありまして、武力の行使がわが国を防衛するために、必要最小限の範囲内にとどまるべきとの趣旨で、そのような記述がされているというふうに理解しております。

 志位 いまジュネーブ条約などの国際人道法を守る規定だというふうにおっしゃいましたが、そういう意味だけですか。

 防衛庁長官 たとえばジュネーブ条約に関しましては、武力の行使の対象は戦闘員に限られますし、軍事目標に限られる。また民間人や民間施設を攻撃の対象としてはならないこととされておりまして、そのような国際的なルールを守って自衛隊が行動するということでございます。

 志位 そうするとまったく矛盾した説明になるんですよ。この「武力攻撃事態法案」には第二一条「事態対処法制の整備に関する基本方針」というのがありますが、その第二項では、「事態対処法制は、国際的な武力紛争において適用される国際人道法の的確な実施が確保されたものでなければならない」と書いてありますね。つまり、そういうジュネーブ条約などの、国際人道法を守るための「事態対処法制」を二年以内につくるということが書いてあるわけですよ。法案で。それを書いておきながら、「基本理念」のなかでその基本になる「国際法規の遵守」を落とす理由はないじゃないですか。そういう「事態対処法制」をつくるというのだったら、なんでここから落とす必要があるのですか。

 防衛庁長官 自衛隊法にそういう記述がなければ、書く理由がありますが、もうすでに自衛隊法のなかに記述がございますので、書く理由はございません。

歴代政府はこの条項を先制攻撃を禁止する条項と説明してきた

 志位 そういう軽々しいことで落とせるような条文じゃないですよ。政府はこれまで、この八八条二項前段の部分の「国際の法規及び慣例の遵守」という項目の意味について、繰り返し国会で答弁していますよ。この(パネル=表1=のなかで)赤い文字で書かれた条文は、日本の側からの先制的な武力攻撃はできないんだ、ということを保障する条文なんだと繰り返し言っていますよ。

 たとえば一九六〇年三月一日衆議院予算委員会、この場ですけども、林内閣法制局長官は、八八条第二項について、これは「国連憲章第五一条の要件にあたる以外には、武力の行使をしてはならないということを書いているものだ」と説明しています。国連憲章第五一条でのべている武力攻撃に対する自衛反撃以外の武力の行使、すなわち先制的な武力の行使、「おそれ」や「予測」の場合での武力の行使、これはやってはならない規定なんだと繰り返し言っていますよ。つまり、武力行使の三要件のうち、武力攻撃が発生したことをあらわす規定なんだということを、繰り返し言ってますよ。

 これを、今度の法案は取り外してしまった。私は、政府の従来の説明に照らしても、「国際の法規及び慣例の遵守」をわざわざ落としたということは、武力攻撃が「発生」しなくても、武力攻撃の「おそれ」や武力攻撃の「予測」がされる場合でも、「武力の行使」ができるところに道を開いたということになるではありませんか。これまで、先制攻撃ができない最大の担保、保障が、この(パネルをしめす)「国際の法規及び慣例の遵守」と説明してたのですから、それを落としちゃったら、先制攻撃ができるということになっちゃうじゃないですか。「おそれ」や「予測」の場合でも、これはできるということになっちゃうじゃないですか。今回の法案は、そういう重大な条文になっているのではないか。どうですか。

 防衛庁長官 この条文に書かれていなくても、自衛隊出動の許可がなければ、自衛隊は行動できませんし、武力行使もできません。したがいまして、「武力攻撃のおそれ」の場合は、防衛出動はできますけれども、武力攻撃が発生しなければ武力の行使はできないわけでございます。自衛権の発動の三要件については、従来から憲法第九条のもとに認められる自衛権の発動としての武力行使については、三点、わが国に対する急迫不正の侵害があること、これを排除するために他に適当な手段がないこと、必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと、というのが定められております。

 志位 なぜ落としたかの理由を聞いているのですよ。なぜわざわざ落とす必要があったのかの理由なのです。自衛隊法に書いてあったら、そのまま書けばいいじゃないですか。そんなに軽い条文じゃないのです。先制攻撃をやっちゃならないということの保障になる条文だと説明してきた、きわめて重大な条文なのですよ。なぜわざわざ落とす必要があったのかと聞いているのです。自衛隊法に書いてあるからというのは説明にならない。落とした理由を聞いているのです。

 福田康夫官房長官 先制攻撃うんぬんというお話でございますが、その前に申し上げますと、この武力攻撃事態法においては基本理念をのべているわけでございまして、それでは先制攻撃のことをなにも触れてないじゃないかということになりますれば、それは、「事態に応じ合理的に必要と判断される限度」ということをのべて、これはまさに委員のおっしゃっていることを防ぐためにある条文だと考えるべきである、このことは防衛庁長官がのべている通り、ただいまものべた通りです。

 志位 「事態に応じ合理的に必要と判断される限度」というのは、「武力の行使」をやることは前提にあって、これだけの限度でやらなきゃなりませんよということを書いてあるだけなんですよ。「武力の行使」はもう前提になっているのですよ。その限度を書いてあるだけなんですよ。その前にある文章をなぜ落としたのかというのを聞いているのです。前にある文章はあったでしょう。「国際の法規及び慣例の遵守」。どうして落としたんですか。なぜわざわざ落とす必要があったのか。なんでこんなこと答えられないのですか。

(瓦力委員長が中谷防衛庁長官を指名するが、中谷長官は答弁に立たない)

 官房長官 要するに必要最小限度の自衛権の行使と、まあこういうことをのべているわけでございますからね。ですから、赤く書いてあった部分の国際法規うんぬんというようなことについては、そこで十分カバーできるんだというように考えていいのではないかと思います。

 志位 カバーできないんですよ。この「国際法規の遵守」というのは、国連憲章五一条の遵守なんだと、国連憲章五一条では、武力行使は現に発生した場合にのみ自衛の反撃が許されると、これが「国際法規の遵守」の意味なんだと、だからこれがあるから、「おそれ」の場合では武力行使できませんと、もちろん「予測」の場合でもできませんと、こうやって政府はこれまで答弁してきたんですよ。それをなぜわざわざ落としたのかと、落としてしまったら、「おそれ」や「予測」でも、「武力の行使」はできるようになるじゃないかと、少なくともこの法案では、そういう構造になっているじゃないかと、いうことを問題にしているのです。官房長官、あなたが出している法案でしょう。官房長官、官房長官。

 津野修内閣法制局長官 官房長官のご答弁の前に説明をさせていただきます。まず、憲法第九条の下において、許容されております自衛権の発動、これにつきましては政府は従来から、いわゆる自衛権発動の三要件として、わが国に対する急迫不正の侵害があること、すなわち武力攻撃が発生したこと、これがまず第一要件として掲げられているわけです。第二に、この場合にこれを排除するために、他の適当な手段がないこと、および第三として、必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと、に該当する場合に限られているわけです。そして、今回、いわゆる武力攻撃事態法案も提出、提案したわけですけれども、あるいは自衛隊法も現にございますが、これらはいずれも憲法の規定を解釈、そういったものを前提と致しましてできているわけで、決して先制攻撃ができるというようなことで、そういった規定をつくったわけではありません。そして、当然、自衛隊法上、武力を行使する場合にはそのさきほどのご指摘のような文言が自衛隊法上もございますわけですから、ご懸念のような、先制攻撃を許容しているというようなことはさらさらないということです。

武力行使は無限定、「国際法規の遵守」を落とす――先制攻撃への歯止めなし

 志位 私が聞いたことに全然答えてないですよ。「国際法規の遵守」を、なぜ落としたのかということです。「国際法規の遵守」は必要ないから落としたんじゃないですか。するつもりがないから、落としたんじゃないですか。そうとしかいいようがないですよ。

 だってこの法律全体を通して、「武力攻撃事態」というのはひじょうに広く規定されています。武力攻撃が「発生」した事態だけじゃなくて、「おそれ」の事態、「予測」の事態、三つを全部包含している。そのときに「定義」で、それを「終結」させる――「武力攻撃事態」を「終結」させるというのは、「発生」も「終結」させる、「おそれ」も「終結」させる、「予測」される事態も「終結」させるということでしょう。

 この全部を「終結」させるための「対処措置」として、自衛隊ができることとして、「武力の行使」ということが、無規定に入ってるんですよ。無限定に。そして、その「武力の行使」というのは、「おそれ」や「予測」の場合ではやってはならないという規定は、明示的に、法案の条文、「定義」のなかでも、法案の全体を通しても、どこにも一つもないでしょう。一つもないところに、あわせてもってきて「国際法規の遵守」を落とすということになったら、これは、無法な先制攻撃に道を開く法律だというふうにとられたとしてもしょうがない法案に、私はなっていると思います。

 結局、これだけ聞いて、はっきりしたものが、二つあるのですよ。第一は、この法案は、全体を通して「おそれ」や「予測」の事態で「武力の行使」をしてはいけないという規定がないこと、第二に、さきほどいったように、「国際法規の遵守」という項目を武力行使の要件から落とすという重大な、変更をしておきながら、合理的な説明を、だれもできなかった。防衛庁長官も、官房長官も、法制局長官も説明できなかった。私はそういう点で、まさに、国際法を守る保障をもってない法案だと、いわざるを得ません。

志位委員長 「『武力攻撃事態法』が『周辺事態法』と合体したらどうなるか」

 志位 私はつぎに進みたいと思うんですが、こういう極めて危険な内容をもっている「武力攻撃事態法案」が、「周辺事態法」と合体したらどういうことになるか、という問題について、つぎにただしていきたい。

「周辺事態法」では建前だった「武力行使の禁止」の規定がまったくない

 志位 総理は、「周辺事態」と「武力攻撃事態」が重なり合うことを繰り返し認めておられます。これは、一つの事態にたいして「周辺事態法」と「武力攻撃事態法」が、いわば組み合わさって発動されることがあるということになります。「周辺事態法」というのは、日本に対する武力攻撃でなくても、アメリカがアジアのどこかで介入戦争を始めたら、自衛隊がその戦争に参加する法律でした。ただ、「周辺事態」への対応として、自衛隊がたとえば、米軍への補給とか輸送とか修理とか医療とか、いわゆる後方地域支援、これをやれることができるとされていたけれども、自衛隊は「周辺事態法」によりますと、派兵先で決して、武力の行使をしてはならないという縛りがかかっていましたね。これ間違いありませんね。どうですか。

 官房長官 いまの質問にお答えする前に、もう一度申し上げますけれども、委員は第二条、定義の所でいわれているわけですね。しかし、この法律の基本理念、第三条にございます武力攻撃事態への対処に関する基本理念、ここの第二項に、「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態においては、武力攻撃の発生が回避されるようにしなければならない」と書いてるんです。参考に第三項ですが、「武力攻撃が発生した事態においては、武力攻撃を排除しつつ、その速やかな終結を図らなければならない」と。ここにも書いてるわけです。この理念をもってこの法律を施行していくことになるんだろうと思います。

 また、もう一つ、申し上げれば、この第一八条、ここには、わが国が講じた処置について、「直ちに国際連合安全保障理事会に報告しなければならない」、こういうふうに規定されているわけであります。ですから、国際法規を無視するとかそういうことではまったくなく、むしろ積極的に事態の排除というか、戦争の武力の排除とか終結とか、こういうことをもっと重く考えるべきではないかと思っております。

 志位 いまの官房長官の説明は全く成り立たない説明なんですよ。第二条第二号でさっきいったような規定を定義をしたわけです。その定義をうけて、「対処措置」というのが定義されたわけですね。それを全体を受けて第三条の「基本理念」の第一項で、「万全の措置が講じられなければならない」と、あるわけですね。「万全の措置」のなかには、当然「武力の行使」が入るわけですよ。

 それで、その後に、(第三条)第二項のことを説明されましたけれども、「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態においては、武力攻撃の発生が回避されるようにしなければならない」と書いてありますよ。しかし、この回避の手段については書いてないでしょう。武力を行使して、相手側の武力攻撃の発生を回避するという手段だってとりうるんですよ。とっちゃいけないと、どこにも書いてないじゃないですか。それを書いてないということを問題にしているのです。「武力の行使」ができると一般的な規定をして、「万全の措置」をとると、そしてそれを「基本理念」の冒頭においておきながら、この「基本理念」のなかにも、「おそれ」や「予測」の場合では、武力の行使をしてはならない、という規定があるかといえば、どこにも書いていない。書いてないどころか、国際法を守るということも書いてない。ですから、これを問題にしたわけです。

 さっきの質問に答えてください。「周辺事態法」について、これは武力の行使をしてはならないという原則はありますね。いいですか(官房長官うなずく)。じゃあ、首を振っていますから、そういうことでしょう。

 「周辺事態法」では武力の行使をしてはならないという基本原則があるんですよ。これまで、自衛隊を海外に出す法案はいろいろありました。PKO法が九二年。「周辺事態法」が九九年。「テロ特措法」が二〇〇一年。これすべて、武力の行使はしてはならないという規定は入ってますよ。ところが今度の「武力攻撃事態法」には、その規定が全くないということを、私は問題にしているわけです。

「武力攻撃事態法」では米軍支援の自衛隊が危険になったら逃げるのか

 志位 私は先に進みたいんですけれども、「周辺事態法」では米軍を支援する自衛隊の艦船は、戦闘地域に行っちゃならない、という決まりがありましたね。戦闘地域、つまり武力攻撃を受ける可能性のある戦闘地域では「後方支援活動」をやっちゃいけないと。補給とか輸送とか、これをやっちゃいけないと。もっと後ろの方の安全な「後方地域」でのみで許されるんだというのが、「周辺事態法」の建前でしたね。ですから、米軍への支援活動を自衛隊がやっている最中に、武力攻撃がされる危険が生まれたら、その支援活動を中断しなきゃならない。中断してその場から逃げて、攻撃にあわないようにしなきゃならないというのが、「周辺事態法」の定めですね。これは間違いないですね。

 防衛庁長官 おっしゃる通りであります。

 志位 ところが、私は、「武力攻撃事態法」のこの法案の体系でいくと、違ったことになるんじゃないかと。この法律が発動されたら、米軍への支援活動を、たとえば自衛隊の艦船がやっている、補給の活動をやっている、輸送の活動をやっている、こういう活動をやっていたとしますでしょう。その時に自衛隊が武力攻撃をされる危険が生まれても、その場から逃げるわけにはいかなくなるでしょう。「武力攻撃事態を終結」させるために、「武力の行使」もふくめて、「万全の措置」をとるという法律の定めに従うならば、その場にとどまって米軍への支援活動を継続しなければならなくなるというのが、この法律だと思いますが、いかがでしょうか。

 防衛庁長官 日本が武力攻撃をされているときはその通りであります。

 志位 日本が武力攻撃をされているときは、と条件つきで聞いたのじゃないんですよ。米軍への支援活動をやってるさいなんですよ。「武力攻撃事態法」というのは、「武力攻撃事態を終結させる」ための法律でしょう。「武力攻撃事態」には何度もいっているように、三つのケースが入るのですよ。日本が攻撃されている場合、それから、「おそれ」がある場合、「予測」の場合、三つ入るのですよ。この「武力攻撃事態を終結」させるために、米軍が海外で動いたと、その時に、自衛隊が支援活動をやっていると、危なくなってきたと、武力攻撃の「おそれ」がある場合、「予測」がされる場合も「武力攻撃事態」に入るわけですから、そういう場合には逃げるんですか。それともその場にとどまってやるんですか。どうですか。「武力攻撃事態」で、武力攻撃がまだ「発生」していないと、しかし、武力攻撃の「おそれ」がある、あるいは「予測」があると、それで出ていったと。出て行ったときに、海外で自衛隊の艦船が危なくなったと。そのときには逃げるのですか。それとも、その場にとどまって戦うのですか。

 防衛庁長官 米軍が行動できるというのは、わが国が攻撃された後であります。自衛隊も、これも武力攻撃があった後、武力を行使するわけでありますので、そういう際の米軍の行動に際して、支援もおこなう必要がございますし、日本を防衛する米国軍を防衛するというのは当然のことであります。

 志位 私の質問に、また答えないですね。つまり、武力攻撃の「おそれ」がある事態、武力攻撃が「予測」される事態、こういう場合でも、米軍は行動できるでしょう。「武力攻撃事態を終結させるために実施する措置」というのがさっきいった第二条の「定義」の第六号、「対処措置」のところにあるわけですけれども、その(1)は、自衛隊の武力の行使などの活動、(2)は、自衛隊の行動および米軍が安保条約にしたがって武力攻撃を排除するためにおこなう活動、それを支援する活動とあるんですよ。

 だから米軍は、「武力攻撃事態」が発生したら、日本有事でなくたって、日本が攻撃されてなくたって、「武力攻撃事態」というのは「おそれ」や「予測」を含むのですから、行動するのですよ。そうやって行動している米軍に、日本が、自衛隊の艦船が後方支援をやっていた、兵たん支援をやっていた。危なくなった。そのとき逃げるのか、逃げないのかということを聞いているのです。ちゃんと答えてください。武力攻撃があった場合は、それは日本にたいする武力攻撃ということで応戦するのでしょう。あなたがたの論理からいえば。それを聞いているのではない。もうそれはさっき答弁をもらいました。「おそれ」や「予測」の場合ではどうなるのですかと聞いているのです。

 防衛庁長官 わが国にたいして武力攻撃が発生していない段階ですけれども、武力攻撃が予測される場合、または武力攻撃のおそれのある場合におきましては、米国の武力行使と一体化するような支援措置やわが国としての武力行使がおこなえないことは当然でして、一体化するような支援措置がおこなえないということです。

 志位 逃げるか、逃げないか、聞いているんですよ。そうすると、逃げるんですね。一体化する武力攻撃、一体化する活動ができないということは、逃げるということですか。

 防衛庁長官 わが国におきましては、集団的自衛権を行使しないということになっております。

 志位 ちゃんと答えてくださいよ。だからこの場合は、支援活動を中断して、撤退するのですか。

 防衛庁長官 わが国といたしましては、集団的自衛権を行使しえないということでございます。その地域を離脱をするということでございます。

志位委員長 「米国防長官の『先制攻撃も必要』発言は容認できないというべきだ」

小泉首相 「選択肢(の一つ)として理解する」

 志位 これは、一つの事態なのですよ。一つの事態なんだけど、「周辺事態」から、「武力攻撃事態」へと読み替えると、自衛隊の対応が変わってくるんじゃないかということを問題にしている。

 「周辺事態法」では禁止されていた武力の行使を、明示的に禁止する条文がない。この法案には。禁止する条文がまったくない。ですから私は、これは米軍がおこなう戦争に、日本が一体になって戦争をやれる道を開くものではないか。法案上はそうとしか読めない。あなたは否定しました。しかし、法案の構造と矛盾した答弁です。

 「おそれ」や「予測」では、武力行使しないんだと、いうことをおっしゃいました。しかし、「おそれ」や「予測」でどんどん武力行使をやってる国が、世界にはありますよ。アメリカです。私は、総理に、それだけやらないというのだったら、アメリカにたいする基本姿勢を聞きたい。

 アメリカがこの間おこなってきた戦争というのは、たとえば一九八三年のグレナダ侵略、八六年のリビア空爆、八九年のパナマ侵略など、国連総会の決議で国際法違反と糾弾されるような、先制的な軍事力行使を何度も何度もやっています。そのたびに日本政府は残念ながら、情けないことに、「理解」だとか「支持」とか、ただの一度も「ノー」といっていません。

 そのアメリカのブッシュ大統領が、今年の一月二十九日におこなった一般教書演説で、イラン、イラク、北朝鮮を「テロを支援している」と、「大量破壊兵器を開発している」と、「悪の枢軸」と決めつけて、こういいました。「私は危険が高まっているおりに、何かできごとが起きるまで待つことはしないだろう」。これは明らかに先制的な軍事力行使も辞さないと、テロのためだと、大量破壊兵器のためだということになれば、先制攻撃も辞さない戦略をとることを世界に公言しているということになります。

 ラムズフェルド国防長官は、最近、『フォーリン・アフェアーズ』五・六月号で、「変化する任務、変貌(へんぼう)する米軍」という論考を寄せています。これを見ますと、「備えあれば憂いなし」とか、総理とおんなじようなせりふをいってますけれども、これもアメリカ製だったのかなと思いながら読みましたけども、そのなかで、こういうふうに書いています。

 「アメリカを防衛するには、予防戦略、そしてときには先制攻撃も必要になる。すべての脅威を相手に、いつでもどこでも防衛策を講じるのは不可能である。テロやその他の姿をあらわしつつある脅威から国を防衛するには戦争をも辞さない覚悟を持つべきである。攻撃は最大の防御であり、ときにそれが唯一の防御策である場合もある」

 こうはっきりアメリカはのべているわけです。総理にうかがいたい。総理は、ブッシュ大統領のいわゆる「悪の枢軸」発言について「理解する」という発言をされてきましたけれども、ラムズフェルド国防長官のこの発言、これは質問通告をしてありますからお読みになっていると思うのですけれども、はっきり先制攻撃といっています。こういう先制攻撃は絶対に容認できないと、日本政府としてはっきりいうべきだと思いますが、いかがでしょうか。

 首相 ラムズフェルド国防長官の発言は発言として、アメリカの安全保障上戦略として、あらゆる選択肢を残しておく、ということだと私は理解しております。

 志位 あらゆる選択肢(の一つ)として先制攻撃を理解する、ということですね。たいへん重大な発言です。そういうことですね。

 首相 アメリカはアメリカの立場を表明している、と私は理解しております。

 志位 私は、先制的な軍事力行使を、これだけはっきり「理解する」といったのはたいへんな発言だと思いますよ。(場内どよめき)

 ブッシュ大統領の「悪の枢軸」発言にたいしては、ロシアや中国はもとより、ヨーロッパ諸国、EUもこぞって反対している(「そうだ」の声)。東南アジアも、中東も、世界はみんな反対してますよ。

 たとえば、EUの国際担当委員、EUの外務大臣にあたるパッテンさんという方、ご存じだと思うんですが、この方はイギリスの保守党の幹事長を務められていた、イギリスの保守政界の重鎮ですよ。このパッテンさんも、ブッシュ発言については、世界にたいする危険な「絶対主義的で極度に単純化された」立場だと、激しく非難しています。

 世界の主要国の総理のなかで、このブッシュ発言を理解を示したり、ラムズフェルド国防長官の発言まで理解を示すという人は、これはおそらくちょっとほかに見当たらないんじゃないかと思うぐらい、アメリカにたいしてほんとうにいいなりの国だということがよくわかりました。

 この論戦全体を通じて、政府は武力攻撃の「おそれ」の事態や「予測」の事態では武力の行使はしない、と繰り返した。先制攻撃はしない、と繰り返した。それは結構です。しかし、先制攻撃をお家芸としている米国にひとことの批判もできないで、「理解」ということをはっきりいうようなそういう政府では、先制攻撃はいくらしないということを言ったところで、私はなんの保障にもならないと思います(場内騒然)。そして、現に法案はそういう道を開くものになっております。(「そうだ」の声)

 私は、ひじょうに、深刻な法案の本質が浮き彫りになったと思います。

 この法案は、日本の国民の安全を守るものじゃありません。アメリカがおこなう先制攻撃の戦争、ラムズフェルド氏がいうような介入の戦争、これにたいして、武力行使をもって自衛隊が参戦する法案だと思います。

 「武力攻撃が発生」した場合だけではなくて、武力攻撃の「おそれ」の場合、「予測」の場合で、明文上の禁止条項をわざわざ取り外して、先制的な攻撃への道を開いたこと、そして、「国際の法規及び慣例の遵守」を法案からいっさい取り外したこと、さきほどのこれですね(パネルを示す)。この「国際の法規及び慣例の遵守」をいっさい取り外した。これは、国際法無視の米軍の戦争への参戦を想定しているからではないか。そうとしか説明がつかない。

 私は、この法案というのは、そういう本質をもっていると思います。


人権と自由を侵害

 志位 さて、もう一つの大きな問題に進みたいと思います。

 「周辺事態法」では、戦争に国民を動員するさいに、強制力をもって動員はできないという建前があったわけでありますが、これがどう変わるかという問題点です。

「周辺事態」を「武力攻撃事態」と読み替えると強制動員が可能に

 志位 さきほどものべたように、「周辺事態」と「武力攻撃事態」というのは大きく重なり合ってくる。それは一つの事態を、「周辺事態」から「武力攻撃事態」へと読み替えることができるということになります。そういう読み替えをしただけで、米軍の戦争への国民の強制動員が可能になってくる、そういう仕組みではないか。

 政府の法案どおりに、これは整理をしたものです(パネル=表2=を掲げる)。左側が、「周辺事態」の場合です。「周辺事態」の場合は、自治体にたいして、「協力を求めることができる」と。ここまででした。民間にたいしては、「協力を依頼することができる」と。ここまででした。私も「ガイドライン法」のときに、さんざんここで議論をやりましたけれど、(政府は)「自治体には強制できないんです」と、さんざん言ったものでしたよ。「民間には義務づけないんです」とさんざん言ったものでした。

表2

 ところがこんどは、同じ一つの事態なのに、「武力攻撃事態」と読み替えただけで、自治体について、国が「指示」、「実施」できるようになる。

 それから国民については、すべての国民に協力を義務づけることになる。(「武力攻撃事態法案」)第八条です。すべての国民です。なんの制約もありません。

 それから施設管理、土地などの使用、物資の収用、取扱物資の保管命令を出せることになっています。保管命令違反者などに対しては、罰則を科せられるようになっています。

 指定公共機関、たとえばNHKとか、NTTとか、ガスとか、電気とか、これはいくらでも広げられるわけでありますけれども、この指定公共機関に対しても、国が「指示」、その「指示」に従わなければ「実施」ができる。

 それから医療、土木建設工事、または輸送の業務に従事するもの、これにたいしては業務従事命令が出せる。

 これだけ変わってくるわけですね。ただ事態は一つなんです。「周辺事態」と「武力攻撃事態」というのは重なり合ってくるということを認めてるんですから、事態は一つなんですよ。事態は一つなのに、それを「周辺事態」から「武力攻撃事態」に読み替えただけで、これだけ国民を強制動員できる仕掛けになっている。

保管命令に違反すれば罰則、「取扱物資」も無限定

 志位 私は、そういうなかで、いくつかただしたい問題があります。とくに深刻な問題がいくつか出てくるんですが、第一は、自衛隊が防衛出動をしたもとで、「取扱物資の保管命令」に従わなかった国民には、罰則が科されるという問題です。

 自衛隊法改定案一二五条には、こういう規定があります。「取扱物資の保管命令に違反して当該物資を隠匿し、毀棄し、又は搬出した者は、六月以下の懲役又は三十万円以下の罰金に処する」。ここでいう「取扱物資」というのはなんでしょうか。法律で「取扱物資」とはなにかという規定がありますか。

 防衛庁長官 食料とか水とか燃料とか、建設資材等でございます。

 志位 私が聞いているのは、法律に規定があるかどうか、聞いているのです。

 防衛庁長官 法律では物資と規定していますが、自衛隊の行動に必要なものでございます。

 志位 要するに何でも入るということなんですよ。自衛隊が必要だといったら何でも「取扱物資」に入ってくる。自衛隊が燃料が必要といったら、ガソリンスタンドも強制のなかに入ってくる。食料が必要となれば、コンビニエンスストアも入ってくる。おコメが必要になればコメ屋さんもかかってくる。すごい仕掛けでしょう。水が必要だとすれば水道業者もかかってくる。つまり、規定がないということですよ。無規定、無限定ということですよ。

 戦前の一九三八年に「国家総動員法」というのがつくられた。「国家総動員法」では、「総動員物資」というのは法律で規定されていますよ。この「国家総動員法」よりも、法律で物資の規定がないというのは、もっと悪いと思いました。

 つぎの設問に入りたい。政府は、「保管命令に違反して保管物資を隠匿、毀棄、または搬出するという悪質な行為を行う場合に限り罰則を科す」と、答弁されましたね。「悪質な行為」に限るというのですけども、こういう場合はどうなるのか。

 「私は戦争に協力できない」という信念をもっている方が、いるとしますでしょう。そういう戦争には協力できないという信念から、「物資の保管命令」を拒否した国民は、「悪質な行為」となるのでしょうか。たとえば、おコメが「取扱物資」に指定された、そのとき、おコメ屋さんが「この戦争には協力できない」という信念から、みずからの思想・信条から、保管命令を拒否して、通常通りコメの販売をやったとしますでしょう。この場合は、「悪質な行為」になるのですか。

 防衛庁長官 これは本人の内心には関係ございません。事実行為といたしまして、わざと物資を隠匿したり使用できないようにする悪質な行為がおこなわれた、すなわちその行為に、基づいて考えるわけでございます。

 志位 「悪質な行為」とあなたがいったから、「悪質な行為」に入るかどうか聞いたのです。どっちなんですか。

 防衛庁長官 そのものの行為の概要に照らして判断するわけでございます。

 志位 それは、悪質というしか、あなたの答弁からは理解できませんね。「内心の自由」ということをいいましたけど、「私は戦争に協力できない」という信念に基づいて、保管命令を拒否した国民を、犯罪者として罰するということは、戦争への非協力、戦争への反対という思想・信条を、処罰の対象とすることに私はなると思います。憲法一九条の「思想及び良心の自由は、これを侵してはならない」という条文に違反する、基本的人権の侵害行為になると思います。いかがですか。

 防衛庁長官 これは、いつも起こるわけではございません。国家の存亡の危機、究極の段階でですね、まさにわが国に武力攻撃が起こって、目の前でいろんな被害が発生している場合に、国として国民の生命および財産を守る責務に基づいておこなう行為です。同じ日本人、日本に住んでいる方として、こういった事態につきましては、ご協力をいただくと、というのは当然のことです。

志位委員長 「『思想・良心の自由』『沈黙の自由』の侵害になるのではないか」

政府は答弁不能に

 志位 いまの防衛庁長官の答弁で不正確な点があるので訂正しておきたい。日本にたいする武力攻撃がまさに起こって、それにたいする事態だといいましたけど、防衛出動というのは起こらない前から出動できるんですよ。「おそれ」のある場合でも出動できるでしょう。「おそれ」のある場合でもいまの罰則がくるのですから。訂正しておきたい。国民のみなさんに誤解をまねく、そういう発言は慎んでいただきたい。

 さらに聞きたいのですが、いま、きちんと答えなかったけど、思想・良心の自由というのは、これはどなたもお認めになると思うけど、いわば絶対的自由ですよ。内心の自由は、国家権力といえども、絶対に立ち入ることのできない、絶対的自由だということは、これは異論がないことだと思います。

 そして「思想・良心の自由」のなかには「沈黙の自由」もふくまれるでしょう。つまり、自分がある思想をもっている。それをいうときは表現の自由の問題になりますが、いわない自由もふくまれるわけですよ。「沈黙の自由」がふくまれることは間違いないと思うのです。さっきの私の設問にかかわっていいますと、「戦争に協力できない」という信条を、沈黙している自由は絶対的に侵すことができないと思うのです。

 ところが、物資の保管命令が、罰則という強制をもって一律に課せられたらどうなるか。そうしますと、「戦争に協力できない」という信条をもつ国民は、その信条を沈黙している自由を侵害されてしまうのではないでしょうか。つまり、無理やりその信条を行為として表現しなければならない。つまり、保管命令には協力できないという行為として示さなきゃならなくなる。そしてこの行為として示したら、罰則、お縄になるという、そういうところに追いやられることになる。これはまさに「思想・信条の自由」、「内心の自由」、「沈黙の自由」、これを奪っていくということになるんじゃないですか。いかがでしょうか。

 防衛庁長官 それは、わが国にたいする武力攻撃をいかに考えるかということでありまして、放置をしてましたら、被害や損害、死傷者が増えていくわけです。わが国を守るということにつきまして、国民のみなさまがたがこの点をご理解いただいて、そういう際にはご協力をいただかないと国というものも守れないし、また国としても国民を守れないと、お互いに協力をし合って、国としての防衛を果たすということにつきるのではないかというふうに思います。

 志位 あなたは私の聞いた質問に答えないですね。私が聞いたのは、こういうふうに一律に罰則つきで強制を課したら、それは「思想・良心の自由」、「沈黙の自由」を侵害することになるんじゃないですか、と聞いているのですよ。あなたは、日本に対する武力攻撃を排除するためだと繰り返していうけれども、さっき明らかになったように、「周辺事態法」とこの「武力攻撃事態法」というのは重なり合って発動するということがありうるわけですよ。日本に対する武力攻撃がなくたって、「おそれ」のある事態、「予測」のある事態とすればもう発動できるのですよ。アメリカの戦争に協力できるのですよ。アメリカの戦争に協力するとなったら、反対する人がたくさん出るのは当たり前なのです(場内騒然)。その反対する人が、保管命令に違反したら犯罪者とされてしまう。

 私は、ほんとうに、罰則つきで国民に強制するというのは許されないと思います。日本は憲法九条を持つ国ですよ。憲法九条は、戦争をやってはならない、戦争に協力してもならない、戦争をやることが犯罪だというのが憲法九条です。その九条を持つ国で、戦争に協力することを拒否する国民を犯罪者とするというのは、これはこれ以上の違憲立法はない、私はこのように思います。(場内騒然)

国民の自由と権利を無制限に制限できるしくみをつくる

 志位 第二に、「武力攻撃事態」のもとでは、国民の権利と自由を、いわば無制限に制限できる仕組みがつくられるという問題であります。

 「武力攻撃事態法案」の「基本理念」を定めた第三条の第四項では、つぎのような規定があります。「武力攻撃事態への対処においては、日本国憲法の保障する国民の自由と権利が尊重されなければならず、これに制限が加えられる場合は、その制限は武力攻撃事態に対処するため必要最小限のものであり、かつ、公正かつ適正な手続の下に行われなければならない」。この規定がありますね。

 それでうかがいたいのですが、ここで「公正かつ適正な手続」とのべられているのは、個別法を定めることですね。防衛庁長官、そうですね(長官うなずく)。うなずいていますから、もういいです。そういう説明でした。

 それではうかがいますけど、「日本国憲法の保障する国民の自由と権利」に、この三条四項の条項では、「制限が加えられる」と規定されているのですが、その制限はどこまで許容されるのでしょうか。どこまでの制限が許されるのでしょうか。

 憲法には三十条の条文にわたって、国民の基本的自由と基本的権利、これを詳細に規定しているわけでありますけれども、どの範囲まで人権が制限できるのか。私が聞きたいのはあなたがたの解釈じゃありません。法律にそういう規定があるかどうかです。「武力攻撃事態法案」にそういう国民の権利の制限はどこまでできるという、規定があるかどうか。

 官房長官 権利の制限をともなう対処措置につきましては、個別の法制整備においてこの基本理念にのっとり、制限される権利の内容、性質、制限の程度等との、権利を制限することによって達成しようとする公益の内容、程度、緊急性などを総合的に勘案して、その必要性を検討するということを考えております。従いまして制限される権利とか、その内容については、今後、整備する法制において個別具体的に規定することが適切であると考えております。

 志位 ということはつまりこの「武力攻撃事態法案」には、この法案そのものには規定がないということですね。そういうことですね。ちゃんと答えてください。ないかどうか聞いているんですから。

 官房長官 その制限は「武力攻撃事態に対処するため必要最小限のものであり、かつ、公正かつ適正な手続の下に行われなければならない」ということになっているわけです。そして個別の法制整備もこのような基本理念のもとでおこなわれることとなりますから、そういう意味で、国民の基本権利の制限は、すべて個別法にまかせるということにはなりません。

 志位 私は制限が法律に規定されているかどうかを聞いたんで、あなたのいまの答弁だと「武力攻撃事態に対処するため必要最小限」という以外にはないということですね。答えてください。

 官房長官 ご指摘の通り、基本的には、基本的な理念をここにのべております。

 志位 それ以外に制限する条項はないということですね。

 官房長官 ですから、ここでもうす基本的な方向性というものは理念として示されているとこういうように考えてください。

個別法で人権の制約ができれば、大日本帝国憲法とどこが違うのか

 志位 要するに、これ以外にはないということですよ。つまり、「武力攻撃事態に対処するため必要最小限」と政府が認定したら、どんなに個別法を広げてもつくれるわけですよ。「必要最小限」というのは、何の歯止めにもなりはしない。あなたがたは、「必要最小限」「必要最小限」といって、世界第二位の(軍事費を使う)軍隊をつくっちゃったじゃないですか。だから、「必要最小限」というのは何の歯止めにもならない。

 つまり、個別の法律をつくったら、そして「武力攻撃事態に対処」するために「必要」とされるならば、国民の権利と自由が、個別法によって無制限に制限されるということになるんですよ。この法案では。

 私は、これでは、戦前の大日本帝国憲法とどこが違うのか。戦前の大日本帝国憲法の一番の反省は、国民の権利や自由をならべた項目があった。あったけれども、みんなまったく形がいだった。なぜならば、全部「法律の定めに従って」とか「法律のよるところに従って」とか、全部法律で制限されたからです。個別の法律さえつくれば、国民の権利や自由が制限されるとなったら、大日本帝国憲法と変わらなくなるではありませんか。どうでしょうか。そういうことでしょう。この点では。

 (福田官房長官ら政府側はだれも答弁席に立たない)

志位委員長 「米国の介入戦争に参戦し、国民を強制動員する違憲立法は廃案に」

 志位 答弁できないようですね。同じになるんですよ。個別の法律さえつくれば、国民の権利と自由が制限できる。そういうやり方で、最後にやったのは治安維持法ではないですか。暗黒政治ではないですか。この暗黒政治をやったために、侵略戦争への道が開かれて、あんな惨害を生んだんじゃないですか。その反省にたって、新しい憲法では、基本的人権を「侵すことのできない永久の権利」として一一条で明記して、法律の抜け穴さえあれば、基本的人権を制限できるという考え方を排除したんですよ。これがいまの憲法なのです。

 私は、きょうは、有事法制三法案について条文にそくして問題を明らかにしてまいりました。

 そうしますと、結局、アメリカが海外で引き起こす介入戦争に、自衛隊が武力行使をもって参戦する、憲法違反、国際法違反の参戦法案となる。そのために憲法で定められた国民の自由と人権、あるいは地方自治に重大な制約をくわえ、首相に権力を集中させる、戦時体制をつくるという点でも憲法を踏み破るものになる。

 私は冒頭に、「周辺事態法」には二つのしばりがあったといいました。武力の行使ができないというしばり、強制動員はできないというしばり、この二つのしばりを取り外す。ここに今度の「武力攻撃事態法案」を中心とする三法案のおそるべき内容がある。これは廃案にするしかないということを最後に強調して、終わりにいたします。(拍手)

 


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