2002年5月15日(水)「しんぶん赤旗」
日本共産党の松本善明議員は十四日の衆院本会議で、中国・瀋陽総領事館事件について、何が事実なのかをただしました。質問を通じ、現場も外務省も積極的な対応をしていなかったことが浮き彫りになりました。政府答弁とあわせて紹介します。
松本善明議員 瀋陽市は北朝鮮に隣接する省内にあり、中国の朝鮮族社会の拠点といわれており、今までもこのような事件が起こっているところだ。調査報告を読むと、日本総領事館の対応、認識はそういうところの在外公館だという認識が果たしてあったのかどうか、きわめて疑わしいといわざるをえない。今回の事態を踏まえて、総理はどのようにこの実態を受け止めているのか。
小泉純一郎首相 今回のような事態が発生するかもしれないという危機意識が比較的希薄であったことは否めない。各在外公館が緊急事態への対応に関する意識をしっかり持つ必要がある。
松本議員 外務省報告では、中国側への抗議は、北朝鮮から脱出した五人の身柄が中国側に渡ったあと以外にはない。現場での状況報告には、抗議という言葉がまったくない。現場では、日本側は中国の警察官に対して、明確な言葉で抗議の意思表示をしたのか、もし、したとすればそれはいつなのか、その抗議はどういう内容のものだったのか。
川口順子外相 総領事館の館員は、両手を広げて武装警察詰め所の入り口に立ちふさがり、武装警察の動きを制止し、武装警察を詰め所内部に押し戻すなどしており、こうした行為を通じ、抗議の意思を示した。
松本議員 中国側警察の領事館敷地への立ち入りについて、外務省報告では、中国側に同意を与えていないといっているが、明確な言葉での拒否の意思表示はしたのか。したとすれば、その内容はどういうものだったのか。
外相 立ち入りにつき、総領事館関係者の同意がなされたとの事実はない。中国側警察の総領事館立ち入りの際、総領事館員は、十分そのことを明確に認識しておらず、現場での明確な拒否の意思表示をできる状況にはなかった。
松本議員 報告によれば、日本側は、当初、たんなる査証をめぐるトラブルと思っていたが、二時十五分すぎごろ北朝鮮出身者である可能性があることを認識し、査証担当副領事が総領事館事務所に駆け戻ったとある。では、中国側はどう認識していたのか。北朝鮮から脱出した人たちと思っていたのかどうか、日本側は中国の警察部隊に現地でこのことを確認したか。
外相 詳細を承知しておらず、中国の警察部隊には確認していない。
松本議員 調査報告全体を見ると受け身に終始したのは現場だけでなく、外務省自身にも大きな問題があったと指摘せざるを得ない。午後二時二十分ごろ、領事館内に入った五人が詰め所に収容されたあと、総領事が連絡をとったとき外務本省の担当者の指示は「とりあえず国際法上の問題点を指摘しつつ、追って連絡する」というものだった。警備担当副領事が、北朝鮮から脱出した人たちであることを確認したのちにも、指示を求めた査証担当副領事に対して、本省関係者が与えた指示は、「さらなる指示があるまで現状を維持せよ」というものだった。この「追って連絡」や「さらなる指示」はあったのか。あったとすれば、いつ、だれが、だれにたいして行ったのか。
外相 最初の指示がなされた後、外務本省から瀋陽総領事館に対し、累次指示を試みたが、しばらく電話が通じなかった。その後、現地時間午後三時すぎに外務本省関係課から在瀋陽総領事館副領事に対し、武装警察官が同意なく館内に立ち入ったことについての国際法違反に対する行為と、関係者の引き渡しにつき、申し入れを行うよう電話で指示が行われた。
松本議員 報告書には、外務本省から「抗議の上、五名の身柄を総領事館構内に戻すよう指示を試みたが電話が通じなかった」ということが記載されているが、これは一回だけか。結局事件発生中には、外務本省は現場の行動について積極的な指示は出さなかったままに終わったのか。
外相 外務本省で日本時間午後三時五十分ごろから現場の領事館員に対して抗議の指示を出すべく電話連絡を何度も試みてみたが、最終的に五名が武装警察に連行された直後に現場の査証担当副領事と連絡が取れた。その後、こうした指示に基づき警備担当領事が現地公安当局に抗議と申し入れを行った。
松本議員 報告書によると、指示らしきものとして唯一記載されているのは、最後の段階で、公使から査証担当副領事に、また、総領事から警備担当副領事に出されたもので、「無理するな、最終的には連行されても仕方がない」というものだ。外務本省はこの指示に関与しているのかどうか、関与しているのであればいつ、どのような形でだれが関与したのか。
外相 指示はいずれも現地の緊急の状況に応じてそれぞれが自らの判断に基づき出したものであり、その内容につき、外務本省は直接関与していない。
松本議員 日本側が正式に抗議したとして記録されているのは、第一回目は「外務本省の指示」に基づいて午後三時四十分ごろ瀋陽の当局者に、第二回目は「外務本省の訓令」に基づいて午後五時四十分ごろ北京の中国外交部に行ったというものだが、この指示と訓令はいつ、だれがだれに出したのか。
外相 第一回目の抗議に関する指示は現地時間午後三時すぎに、堀之内アジア大洋州局中国課長から馬木在瀋陽総領事館副領事に対してなされた。第二回目の抗議に関する外務大臣発在中国大使あて訓令については、現地時間午後六時半ごろ発出された。
松本議員 現場と本省の消極的な態度の背景には、対処する方針を明確に持っていなかったという問題があるのではないか。日本政府は北朝鮮から脱出した人たちが出先の外交機関に出国の援助を求めてきたときこれを受け入れる方針なのか、この問題で在外公館が根拠とすることのできる何らかの基準があるのかどうか、現在の政府の方針は。
首相 政府としては本年三月以降、北朝鮮から脱出する者の事案が頻発していることも踏まえ、実際にこれらの者が在外公館に侵入した場合を念頭に対処を準備し、関係公館に伝達していた。一般論をいえば、関係者の人権等の事実関係や希望等を確認した上で、当該者の身体の安全確保の人道的観点や関係国との関係等を総合的に考慮し、具体的対応を検討する。
松本議員 一般的に難民問題について、日本が難民の受け入れの門が最も狭い国であることは、世界でも定評がある。難民問題での抜本的な改革を行う考えがあるか。
首相 今後とも難民認定の適正な運用に配慮するとともに、政府としては人道的な観点を踏まえ、細心の配慮を行っていきたい。