2002年5月15日(水)「しんぶん赤旗」
〈問い〉 海外渡航者の訴追事件などで「個人通報制度」というのが注目されているようですが、どんな制度なのですか。(埼玉・一読者)
〈答え〉 個人通報制度とは、個人が直接、国際機関に人権侵害の救済を求める制度です。いくつかの人権条約で定められていますが、たいていは、各国政府が条約中の個人通報条項を受諾宣言したか、条約にかかわる選択議定書の批准などをしていることが、この制度を適用できる条件になっています。
国際人権規約B規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約。自由権規約ともいう)は、第一選択議定書で個人通報制度を定めています。生命や身体・精神の自由などの人権侵害で、通報を受けた国連・自由権規約委員会が審議し、見解を当事国の政府に送付します。
この議定書では、各国の司法制度を尊重するため、個人通報の受理は、国内の救済手続きを尽くしても救済されなかった場合などに限っています。委員会の見解も、司法介入を避けるため、司法機関でなく政府に伝え、改善を求めるものです。
同議定書批准国は現在およそ百カ国ですが、日本はいまだ批准していません。残業拒否を理由に解雇され、最高裁もこれを正当化した日立・田中事件など、多くの人権侵害事件が個人通報の道を断たれています。
五人の日本人観光客が現行犯逮捕され、裁判で有期刑となったオーストラリア・メルボルンでは、一九九八年、判決が確定した四人が日本の弁護士の援助もうけ、人権侵害を自由権規約委員会に通報しました。犯行を全面否認したものの、捜査、裁判の段階できちんとした通訳や弁護人の援助が受けられなかったことは、国際人権規約B規約に違反すると訴えたものです。この場合はオーストラリアが議定書を批准していたので通報できました。
政府は「司法権の独立」への懸念を理由に批准していませんが、司法権とは別に、国際規約の状況を規約委員会が審査し政府に改善を求めるもので、成り立たない理由です。
(水)〔2002・5・15(水)〕