2002年5月17日(金)「しんぶん赤旗」
瀋陽の総領事館事件をめぐって、外務省の調査結果に対する中国側の反論で対立と食い違いが明らかになっています。同時に調査報告では隠されていた新事実も浮かび上がり、日本外交のいいかげんさが改めて浮き彫りになっています。(鎌塚由美記者)
日本の外務省は、総領事館内への中国武装警官の立ち入りや、北朝鮮出身の五人の連行について、「同意はなかった」と繰り返します。
一方、中国側は次のように説明しています。「『五人の身元不審者』を発見し、身分証明の提示を求めたが、男性らが突入した。正門に駆け付けた副領事に、『男二人を連れ出してかまわないか』と尋ねた。副領事がうなずきながら通訳を通して『かまわない』と述べた」
日本政府の主張は具体性を欠き、「同意していない」というなら、なぜ断固として阻止しなかったのか、その説明があいまいです。中国武装警官が、同意なく館内に入り男性二人を連行していったにもかかわらず、なぜ抗議をしなかったのか。
外務省の調査結果では、副領事が査証待合室で男性二人を確認した瞬間に「副領事の横をすり抜け」「副領事が言葉を発する間もなく」連行していったと説明するだけ。しかも、館内に侵入した男性二人が北朝鮮出身者の可能性があることを、副領事が認識していたことも調査結果から明らかです。
川口外相は十四日の衆院本会議で松本善明議員に「(立ち入りに際して)わが方総領事館員は、いずれもそのことを明確に認識しておらず、したがって、現場での明確な拒否の意思表示を行う状況にはありませんでした」と、釈明しました。ウィーン条約を取り上げ国際法違反と主張しながら、これでは、国際的には通用しません。
後手の対応が指摘されるなか、新たに外務省の隠ぺいが指摘されたのが、手紙をめぐる対応です。十四日の中国側の発表で、日本側の警備担当副領事が武装警官詰め所で男性一人から亡命を求める英文の手紙を受け取りながら、返却していた事実が明らかになりました。
外務省は、手紙の受け渡しの事実を現地調査で把握しておきながら、中国への反論で不利に働く可能性があるとして報告書では公表しなかったといいます。これでは、外交交渉の現場にさらされることが明らかな報告書としては落第です。川口外相は、手紙をつき返した理由について「(英文の)内容が理解不能だったため」(十五日の参院本会議、小泉親司議員への答弁)と弁明するのみでした。少なくともこの時点では、五人が北朝鮮からの亡命者であることが分かっていたにもかかわらず、本省および駐北京大使館の指示があいまいなため、こうした対応にとどまったことは失態といわれて当然でしょう。
日本政府の対応の根本には、亡命者をどう扱うのかという明確な方針がないことがあります。小泉首相は、北朝鮮からの脱出者について、「在外公館に侵入した場合を念頭に対処を準備し、関係公館に伝達していた」(十四日、松本議員への答弁)と述べましたが、これは、阿南駐中国大使が、事実上、亡命者は館外へ押し返せなどと指示していた姿勢と一致しています。
志位委員長は十五日行った記者会見で、サミット諸国のなかでも難民受け入れの門戸が狭い日本の政策の抜本的な見直しが必要と指摘しています。
日本政府の対応が後手に回っているのは、難民問題に関して受け入れを拒否するだけで、なんら具体策を持っていなかったためです。中国で北朝鮮からの難民問題が頻発していることを認識していながら、対策を取らず、事件に関して積極的な事実説明も行わない――小泉外交のあり方が厳しく問われています。