2002年5月18日(土)「しんぶん赤旗」
政府は十七日の閣議で、テロ対策特別措置法(報復戦争参加法)にもとづき、「テロ対策」を口実にした米軍などの軍事作戦に自衛隊がおこなう「支援」を半年間延長することを決定しました。米軍の軍事作戦への協力を継続することは、いまの有事法制の審議とからんで、自衛隊が海外での武力行使に踏み切る危険もはらんだものです。
(山崎伸治記者)
インド洋では現在、海上自衛隊の護衛艦二隻、補給艦一隻が米・英両軍への燃料補給を実施しています。防衛庁によると、昨年十二月から五月十六日までに合計七十五回、十二万九千キロリットルにのぼっています。
ところが政府は、無償提供したこの燃料に四十五億円もの国民の税金を使いながら、「米軍の作戦に影響を与える」(防衛庁)として、自衛艦の寄港地、燃料の買い付け先など、詳細をまったく明らかにしていません。
中谷元・防衛庁長官は十七日の国会答弁で、三月末までの支出が燃料費を含め九十一億円だったことを明らかにし、延長に伴う今後の費用について、それを上回る「百数十億円を見込んでいる」とのべました。どこでどのように使われているのか国民にまったく知らせないまま、さらにばく大な税金を投入しようとしているのです。
「自衛隊の支援活動はテロの脅威の削減に貢献し、強固な日米同盟のあかしと考えている」――自衛隊派兵の延長を日米で確認した十日の「調整委員会」で、防衛庁の守屋武昌防衛局長はこう強調しました。
政府は派兵延長の理由として、(1)アルカイダの追跡、掃討の活動が継続している(2)国際テロの脅威の拡散防止の活動が行われている(3)現時点で撤収した国はない――ことをあげています。
しかし「テロ根絶」を口実にした米軍によるアフガニスタンでの軍事作戦は、一時のような大規模な空爆もなく、大幅に縮小されています。作戦を指揮する米中央軍のホームページに掲載されている「軍事作戦の現況」も「公衆衛生チームが献血」「女子学校を再建」といった人道支援にかかわるものがほとんどです。
そうしたなかで自衛隊派兵は、もはや軍事的な必要性というよりも、「強固な日米同盟のあかし」を示そうというものでしかありません。
そもそも今回の自衛隊派兵が、米側からの具体的な支援要請もないまま、一刻も早く戦場近くに自衛隊の旗を立てて米国への“忠誠”をアピールしたいという思惑にかられてあたふたと出かけたものでした。そんな派兵を継続する必要はまったくありません。
いま重大なことは、米国がイラクに対する軍事力行使の機会を狙っており、自衛隊の「支援」が、米軍の対イラク作戦にもおよびかねないということです。
ブッシュ政権は、イラクを「悪の枢軸」の一つとして非難するとともに、「われわれのコミットメント(関与)はアフガニスタンにとどまらない」として、対テロ報復戦争を拡大する意思も表明してきました。
しかし対イラク武力攻撃には、アフガニスタンへの軍事作戦を容認、協力してきた欧州の同盟国からも批判の声があがっています。
ところが日本政府は、こうしたブッシュ政権の戦略に“理解”を示すことで、世界から孤立を深めています。
政府は、米国のイラク攻撃への「支援」のためには「基本計画」を変更する必要があるとしており、「(支援は)その時の状況により決定する」(福田康夫官房長官)とのべ、対イラク武力攻撃への「支援」の可能性を示唆しています。
さらに今回の派兵延長が、海外での武力行使に道を開く有事法制の審議のさなかに決定されたことは、特別に重大です。
これまで政府は、周辺事態法やPKO(国連平和維持活動)協力法、テロ特措法の三法にもとづいて海外に派兵される自衛隊部隊について、「武力の行使はしない」ことを建前としてきました。テロ特措法には「対応措置の実施は、武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない」と明記されています。
ところが現在審議されている有事法制の一つ、「武力攻撃事態法案」では、海外で活動する自衛隊が攻撃を受ければ、「武力攻撃事態」となり、自衛隊が武力行使をすることも可能な仕組みになっています。武力攻撃を直接受けなくても、「おそれ」「予測」の段階で武力行使をする道も開かれています。
しかも米国がイラク攻撃を準備する中での自衛隊の海外派兵継続でありこれほど危険きわまりないものはありません。