2002年5月19日(日)「しんぶん赤旗」
介護保険は、スタートから三年となる来年四月に見直しがおこなわれます。厚生労働省は、七月をめどに骨格をまとめる方針。これまでに、事業者の経営で赤字が目立っている訪問介護とケアプラン(在宅介護サービスの利用計画)作成に対する報酬の見直し案をまとめました。その内容を見てみると――。(秋野幸子記者)
訪問介護は、ホームヘルパーがお年寄りの自宅を訪ねて身の回りの世話をするもの。事業者にはあらかじめ決められた額の介護報酬が支払われます。「身体介護」「家事援助」「複合型」の三つのタイプがあります。(図参照)
見直し案では、報酬額と区分方法の変更が検討されています。
関係者からは「家事援助の報酬が低い」との指摘があり、ヘルパーの労働条件の確保や介護の質向上のためにも、報酬引き上げを求める声が相次いでいます。複合型については、「線引きがあいまいでわかりにくい」との意見が出ています。
厚労省は、複合型を廃止して「身体介護」と「生活支援」の二つに区分する見直し案を示しました。今の三区分を維持する案や、報酬を一本化する案も出されましたが、二つに区分する案が有力です。
報酬額は、「生活支援」をいまの家事援助の報酬よりも引き上げる方針です。その一方で、身体介護の報酬はいまよりも引き下げ、両者の格差を縮小するとしています。
利用者の要望に沿って在宅介護の利用計画をつくるのがケアマネジャー(居宅介護支援)です。仕事の内容にくらべて介護報酬が低すぎることが問題になっています。報酬額は利用者の要介護度によって異なり、一件あたり「要支援」が六千五百円、「要介護一」、「二」が七千二百円、「要介護三〜五」が八千四百円です。
三段階に分かれた報酬額の設定について、関係者からは「計画の作成作業や求められる専門性には、要介護度による違いはない」との批判が出ています。見直し案は、要介護度に関係なく一律の報酬に一本化することを打ち出しました。
利用計画の作成は介護保険の要ともいえる仕事ですが、ケアマネジャーが一人あたり月平均で五十件のプランづくりを担当しつつ、他の業務もおこなうことを想定した報酬額となっています。
関係者からは「他の業務と兼務の状態で五十人のケアマネジメントを専門的に実施するのは困難」(日本在宅サービス事業者協会)、「介護報酬が低く、一人五十件担当しても人件費がカバーできない」(全日本民主医療機関連合会)などの声が上がっています。厚労省の調査でも、事業者は大幅な赤字です。
見直し案を検討している厚生労働省の社会保障審議会介護給付費分科会では「責務をまっとうするためにも、常勤・専従で仕事ができるように報酬単価を大幅に引き上げる必要がある」との意見が出ました。
介護保険では、介護報酬の一割が利用者の自己負担となります。このため、報酬単価の上げ下げは、利用者負担にはねかえることになります。
訪問介護については、介護保険実施前から利用者を対象にした利用料の軽減措置(3%負担)が実施されていますが、これが今後段階的に引き上げられることもあります。利用者負担の軽減の検討は避けて通れません。
ケアプランの作成にかかる費用は全額が保険から支払われるため、利用者負担はありません。しかし、介護報酬の引き上げは介護保険料の値上げにもつながるため、介護保険を運営する市町村からは「ケアマネジャーの報酬は引き上げるべきだが、新たな財源を必要としないこと」などの意見が出ています。
厚労省は、医療保険への国庫負担削減のため診療報酬の大幅引き下げを実施しましたが、介護報酬についても抑制する考えです。在宅介護重視の方針のため、介護施設の報酬抑制に力点を置こうとしています。
必要な介護を確保するためには、国の財政支出と、保険料や利用料を減額・免除する措置が必要です。地方自治体の独自の減免措置を封じようとする厚労省の指導方針は、制度見直し前でもただちに改めるべきです。
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