2002年5月29日(水)「しんぶん赤旗」
政府・与党は、有事法案の公聴会日程を事実上白紙撤回しましたが、こんどは会期延長をいいだし、土俵を広げることで法案を無理やり通そうとしています。
法案の重大な問題点は国会審議でも次々に明らかになり、法案に反対する声は思想・信条、政党支持の違いをこえ急速に広がっています。
そこには、戦争のために自由を奪われるのはかなわないという共通した思いがあります。
法案は、「自衛隊が実施する武力の行使」とともに、「国民の自由と権利」に「制限が加えられる」と書いています。
どんな自由や権利を制限するかは明記せず、国民の自由や権利を奪うことを包括的に書いたこんな法案を国会に提出したのは、戦後歴代内閣でも小泉内閣が初めてです。
法案が物資保管命令に従わなければ刑事罰を科すとしていることについて、防衛庁長官は「戦争協力はいやだ」という良心的な拒否でも処罰されることを明らかにし、内心の自由を奪うことを当然としています。
官房長官は、報道、新聞、放送も規制の対象であると答弁しました。
そればかりか、戦争反対の集会や示威行動も「『公共の福祉』に反しない限りだ」とのべ、「公共の福祉」を口実に国民が「戦争反対」もいえなくなる事態も当然とする態度を示しています。小泉内閣にとっては、米軍の戦争への自衛隊の参戦も「公共の福祉」です。
自由と権利は、民主主義社会を支える普遍的な原理です。
日本国憲法は、基本的人権を「侵すことのできない永久の権利」と定め、不断の努力で保持するよう国民に求めています。戦前、明治憲法のもとで政府が自由を法律で奪うことにより戦争反対の声を圧殺し、国民を侵略戦争の惨禍に投げ込んだ痛苦の教訓があるからです。
「公共の福祉」を口実にして基本的人権を制限できないことは、憲法学界でも一致しています。
「思想・信条の自由」「表現の自由」を法律で奪おうという小泉内閣は、憲法のイロハもわきまえない、戦前の暗黒政治と同じ考えにたっているのです。
重視すべきは、この法案が通れば、将来自由や権利が制限されるかもしれないという抽象的なものではなく、それが奪われる現実的な危険があることです。
いま自衛隊はインド洋で米軍の戦争に参加しています。自衛隊が「周辺事態」で米軍の戦争を支援する法律もすでにつくられています。米軍を支援する自衛艦が攻撃され、首相が「武力攻撃事態だ」といえば、有事法制が発動される危険は十分にあるのです。
だから、いま、「緊急事態のルールをきめておくべきだ」という人も含め広範な人々が、この法案に反対する声をあげているのです。
法案は、「自衛隊のルールをつくる」と称して、日本が武力の行使をしないように定めたルールも、民主主義のルールも破壊するものです。人命救助が最優先の課題になる大規模災害が起きたら、国民が権利を譲り合い互いに助け合うのとは、根本的に違います。
こんな重大な法案は、国会が十分な時間をかけて審議をつくし、会期内に成立しないなら廃案にするのが、議会制民主主義のルールです。
有事法案にたいする国民的な批判を広げ、廃案へ、さらに政府・与党を追いつめましょう。