日本共産党

2002年5月29日(水)「しんぶん赤旗」

やっぱり米国発

有事法制


 有事三法案は、米軍の干渉戦争に自衛隊だけでなく、日本国民も動員する仕組みをつくろうとするものです。政府・与党は「日本を守るためだ」と言いますが、有事法制の背景に浮かぶのは、自国の世界戦略実現のため、日本に対し軍事協力を一貫して要求してきた米国の思惑です。まさに、“米国発”の有事法制です。

湾岸戦争(91年)、朝鮮危機(94年)の日本支援に「疑問」

国防副次官補

 日米両政府は一九九七年九月、日米軍事協力の指針(ガイドライン)を改定し、アジア太平洋全域で米国が引きおこす介入・干渉戦争に、日本が、自衛隊だけでなく自治体や国民を動員して協力・参加することを取り決めました。

 「湾岸戦争の際にも、朝鮮半島の核危機の際にも、危機にどう対処し、米国をどう支援しうるのかという点で、日本ができることに重大な疑問があった」――ガイドライン改定の米側の実務担当者・キャンベル国防副次官補は、湾岸戦争や北朝鮮「核疑惑」の際、有事法制がないために、日本が米軍にとって十分な支援ができなかったことが、改定の直接のきっかけだったと解説しました。(九七年九月十九日の記者会見)

 改定直後には「ガイドラインを実効あるものにするため、ひきつづき両国は努力し続けなければならない。向こう六〜八カ月間の法整備に向けた計画を日本側から聞きたい」(同九月二十三日の記者会見)とのべ、日本側がガイドライン具体化のための有事法制整備に早期に着手するよう“期待”を表明したのです。

新ガイドライン(97年)−自衛隊活用のための「制約撤廃せよ」

元国防総省日本部長

 日米政府間でガイドライン改定作業が進む中、米政府に影響力をもつ軍事・外交研究者から、有事法制整備を迫る見解が表明されていました。

 日米の民間研究者による「日米同盟プロジェクト」(九五〜九七年)ではあからさまな要求が米側から提起されています。いずれも米国がアジア太平洋地域で軍事行動をおこなった場合に日本がどう協力するのかというものでした。そして、そのために有事法制の必要性を強調しています。

 たとえばジェームズ・アワー元国防総省日本部長は、朝鮮半島と中国をめぐる四つの危機のシナリオと日本の役割(別項)を示したうえで、「自衛隊の能力を平和と安定の維持のために活用することを禁じている制約を撤廃する」ことなどを求めました。

 シナリオからは、「制約の撤廃」の意味するものが、米国と共同で武力行使する「集団的自衛権の行使」の容認と、そのための有事法制整備であることが十分に読み取れます。

 ラルフ・コッサ・パシフィックフォーラム事務局長は、「もし米国が朝鮮半島ないしその他アジアのどこかで戦闘に従事するようになり、日本がその行為を適切に支援するよう振る舞わないとすれば、米国民は、日米同盟をすぐに解消するよう支持し、同盟が存続することは難しくなるだろう」とさえ言い切っています。米国が有事法制に“期待”しているのが、米軍への支援・協力であることは明らかです。

「周辺事態法」制定(99年)はほんの「第一歩」

現安保会議日本・韓国部長

 こうした要求にそう形で日本政府が着手したのは、新ガイドラインの具体化としての「周辺事態法」制定でした。

 しかし同法は、米軍支援のさなかに武力攻撃が起これば、自衛隊は活動を中止して撤退し、自治体や民間への協力も「要請」にとどまるとされました。

 そのため、マイケル・グリーン氏(現米国家安全保障会議日本・韓国部長)は同法について、「我々が描く長期目標に向かってのほんの『第一歩』に過ぎない」と不十分さを強調。「(今後取り組まなければならないポイントの一つは)今回、実質的な作業を後回しにした日本有事における法整備への本格的とりくみだ。これは新ガイドラインの目的の一つである日本の後方支援体制の信頼性確保という観点から見て、不可避である」と主張しました。(「THIS IS 読売」九八年六月号)

 つまり、「周辺事態法」だけでは日本の米軍支援の体制は不十分であり、それが「信頼性」をもつには、有事法制が必要だと強調したのです。

「集団的自衛権否定は同盟協力を束縛」

アーミテージ報告(2000年)

 二〇〇〇年十月に、アーミテージ元米国防次官補(当時、現国務副長官)ら、米国の対日政策に影響力をもつ専門家グループがまとめ、ブッシュ政権の基本政策ともなった政策提言、いわゆる「アーミテージ報告」はこう記しています。

 「『日米防衛協力のためのガイドライン』改訂版(新ガイドライン)は、日米共同防衛計画の基礎となるものである。しかし、太平洋全域に広がった日本の役割の下限を定めたものとみなすべきで、上限を示すものではない」

 そのうえで、「日本が集団的自衛権を否定していることが、(日米の)同盟協力を束縛するものとなっている」と集団的自衛権の容認を迫るとともに、「危機管理法の立法措置を含む改定米日防衛協力指針の着実な実施」、すなわち有事法制の「整備」を日本に要求。

 同報告の策定にもかかわったグリーン氏は、二〇〇一年四月の共同論文(「冷戦後の日米同盟」)で、「協力に消極的な民間機関や地方公共団体に対し、必要な協力を行うよう強制できる権限を総理大臣に与えるよう、さらに立法措置が必要である」と主張しています。

 首相の権限で戦争協力ができる仕組みづくりとしての有事法制の必要性が強調されています。


別項

アワー氏が描く朝鮮半島と中国をめぐる
「4つのシナリオ」と日本の「役割」

 1、朝鮮半島の危機=北朝鮮が韓国に侵略
 ◎自衛隊の航空戦力と対潜哨戒機を日本海に展開。
 ◎海兵隊部隊を沖縄から海上輸送するために日本の商船を用意。
 ◎インド洋から展開する台湾南方の空母インディペンデンスと共同で、海上自衛隊の駆逐艦と航空自衛隊のF15戦闘機が日本海まで米軍の艦艇を援護。
 ◎台湾海峡で日米の駆逐艦と戦闘航空機が共同で警戒活動を実施。

 2、台湾=中国が台湾海峡でミサイル訓練
 ◎海上自衛隊の対潜哨戒機部隊を西台湾沖に展開。
 ◎海上自衛隊の駆逐艦と航空自衛隊のF15戦闘機がフィリピン海で米空母インディペンデンスを援護。

 3、尖閣諸島=中国が占領
 ◎陸上自衛隊の部隊が米空母インディペンデンスに搭乗し、現地に。
 ◎航空自衛隊のF15戦闘機と米軍のF18戦闘機が戦闘行動。

 4、香港=大規模なデモが自然発生的に勃発
 ◎在香港の日米両国民を救出するため、日米の作戦用艦艇を香港に派遣。
 ◎日米の特殊ゲリラ部隊を海上自衛隊のイージス艦「こんごう」搭載のヘリで現地に空輸。

 


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