日本共産党

2002年5月30日(木)「しんぶん赤旗」

防衛庁の体質示したリスト問題

「平時」でさえ人権侵害の身元・思想調査

国民監視・統制の有事法制の危険まざまざ


 海上自衛隊の情報公開室に所属していた自衛官(三佐)が、情報公開請求した個人について、思想調査まがいのリストをつくっていた問題は、中谷元・防衛庁長官が「本当に個人的だけか疑いをもっている」とのべたように、防衛庁・自衛隊の組織ぐるみの疑いが濃厚となりました。「平時」でさえ国民の人権をないがしろにする防衛庁・自衛隊が、有事法制で国民を強制動員できるようになればどうなるのか―今回の事件は、国民を監視・統制する有事法制の危険をまざまざと示しました。(藤田健記者)


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衆院有事法制特別委で、資料に見入る中谷元・防衛庁長官=29日

組織的関与解明が必要

 事件は、海上自衛隊幕僚監部の情報公開室(同準備室)に勤務していた自衛官が、情報公開法にもとづいて資料開示請求した百四十一人分(千百四十件分)の個人リストを作成・配布していたもの。会社名・役職、所属グループ名などのほか、「市民オンブズマン」「反戦自衛官」など身元調査で得たとみられる情報まで記載していたとされます。

 リスト作成は、「業務遂行上、必要な範囲を逸脱している」(防衛庁)だけではありません。憲法が保障している思想・信条の自由、内心の自由など基本的人権の侵害行為です。

 防衛庁は、「業務上あると便利だという意識で、個人の資料として作成した」として、「個人の問題」にしようとしています。しかし、作成された個人リストは、海上自衛隊だけでなく、陸上自衛隊、航空自衛隊、防衛庁本庁など全体に対する請求分にわたっています。そのうえ、防衛庁の調べでも陸海空の自衛隊担当者七人に渡されていました。

 防衛庁の調べでは、担当者が情報公開請求に関し、「どんな人物か」と質問されていたといわれます。この発言は、請求者の背景を調査せよとの指示と受け取られても仕方ありません。上司の指示や幹部の閲覧など、防衛庁が組織としてどのようにかかわっていたかなどの解明が必要です。

 「市民オンブズマン」や「反戦自衛官」だけを識別するような記載事項からは、防衛庁・自衛隊を批判する者への敵視がうかがえます。人権尊重意識を根本的に欠落させた防衛庁・自衛隊の組織体質に根ざしたものでなかったのかを含めて、徹底した解明が求められています。

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防衛庁(写真)の組織的関与のもとに情報公開請求者リストを作成していた疑いが濃厚になっています

罰則つきの機密保護法

 同時に、現在衆院有事特別委員会で審議されている有事法制との関係も重大です。

 有事法制では、「国民の自由と権利」を「制限する」ことを明記しています。対象となる自由と権利には何の歯止めもなく、「二年以内」に整備するとされる個別法で制限できる仕組みです。いわば人権制限を政府に白紙委任する規定になっています。

 しかも、政府は「この法律を万全なものにするという意味においては、やはり必要最小限度の国家的なもの(情報)については秘匿を考えていかなければならない」(福田官房長官)として機密保護法の制定まで示唆。その際、「罰則についても総合的に考えていかなければならない」としています。また、「社会秩序の維持」として外出禁止や交通制限など、国民を監視・統制する体制を当然視しています。

 法案には、こうした国民監視・統制の主体が明記されておらず、防衛庁・自衛隊が主体となる危険さえあります。さらに、自衛隊法改悪では防衛庁長官の要請で国民に業務従事命令や物資保管命令まで出せる仕組みで、保管命令違反者には罰則まで科されます。いわば自衛隊が現場で戦争遂行の全権を振るうことができる体制になるのです。

 有事法制には、戦争遂行を最優先にして、国民の監視・統制を当然視する思想が流れています。それは、防衛庁・自衛隊を批判する者を敵視し、そのためには人権侵害も平然とおこなう今回の個人リスト作成事件と共通した思想です。

 今回の事件は、いわば「平時」の国民監視・統制の問題ですが、米軍の戦争に参戦するという軍事目的を最優先させ、国民を統制し強制動員する有事法制の危険をも実感させるものといえます。

 


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