2002年6月1日(土)「しんぶん赤旗」
小泉内閣が6月に「税制改革」の基本方針をまとめるのに先立ち、政府税調は5月24日に発表した「議論の整理」で庶民直撃の大増税を打ち出しました。「広く薄く」とか「公平」「努力が報われる税制」というと、聞こえはよいのですが、金持ちはもっと金持ちに、貧しいものはもっと貧しくというのが内容です。これが21世紀の税制の「あるべき姿」ではたまりません。(石井光次郎記者)
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政府税調は「将来税率を引き上げ、消費税の役割を高める」と現行5%の税率引き上げを露骨に打ち出しました。
福田康夫官房長官は「将来の問題ということだ」とあわてて記者会見しましたが、石弘光税調会長は、二〇〇四年に基礎年金の国庫負担分が三分の一から二分の一に増える場合などをあげ、「数年先」といっています。一年程度かけて税率引き上げを検討するなら、来年にも増税議論が始まることになります。
税率引き上げの理由は、相変わらず社会保障費の増加です。社会保障や医療、福祉を改悪したうえに、所得が少ない人ほど負担が重くなる消費税を増税することは、“福祉のため”どころか、いっそうの福祉破壊です。
増税するために消費税の“信頼性”を高めなければいけないともいっています。消費税を払わないでポケットに入れる事業者がいるという「益税」攻撃です。
消費税を免除する免税点(現行、売り上げ三千万円以下)の引き下げや簡易課税制度(同、二億円以下)の縮小をいっています。
「益税」というのは、免税事業者が消費税を上乗せした値段で売ったり、記帳事務を軽減するための簡易課税制度のみなし仕入れ率が高すぎる場合など、理屈の上では生まれる可能性(財務省担当者)があります。
実際には、中小小売店は大型量販店の小売価格が自分の店の仕入れ値より安いような過酷な価格競争を強いられています。下請け業者も際限なく単価の切り下げを要求され続けています。「益税」どころか、仕入れにかかった消費税を消費者や親企業に転嫁できずに業者が身銭を切る「損税」すらでています。「益税」攻撃のねらいは、中小事業者への課税強化そのものです。
個人所得への課税では「国民皆が広く公平に負担を分かち合う」と「公平」を強調し、各種控除の縮小をねらっています。
いまの制度は、夫婦と子ども二人の四人家族の場合、各種控除の合計三百八十四万円が課税最低限で、これより収入が低い人には税金がかかりません。年収七百万円なら、課税所得は二百二十五万円です。これに税率10%をかけ、定率減税分(税額の20%)を引いた十八万円が税額です。
各種控除があるのは、生活に必要な所得には課税しない(生計費非課税)というのが税制の原則だからです。政府税調は、これをねらい撃ちにして、ぎりぎりの生活の国民から税金をむしりとろうというのです。納税義務のない低所得の人が払わなければならなくなるだけではありません。たとえば配偶者特別控除(三十八万円)がゼロになれば、税率10%として三万八千円の増税です。
消費税の「益税」宣伝も所得課税の「四人に一人が払ってない」宣伝も実態をねじ曲げた宣伝です。どちらも自民党政治が進める大企業・大金持ち優遇の税制「改革」のねらいを隠し、さらに改悪するためのものです。
政府税調は、このほかにも赤字の中小企業が法人所得課税を払っていないことを敵視して、赤字でも売り上げや従業員があれば課税する外形標準課税の導入までいっています。税調の議論でも、税制の持つ所得再分配機能とそれを保障する累進税制の改悪がぎりぎりのところまできていることははっきりしています。小泉内閣がすすめる強者のための「構造改革」で貧富の格差はますますひどくなるばかり。「公平」をいうなら、弱められた累進性をあらためて強化し、逆進性の強い消費税を引き下げ、廃止することこそ必要です。
財界は、政府が進める税制論議に合わせ、企業の所得にかかる法人課税の引き下げを求めています。
経団連と日経連が統合した日本経団連の奥田碩会長は5月28日の記者会見で「個人的には5%程度の引き下げが必要」とのべました。経済同友会は、「経済活性化に向けた税制抜本改革のあり方について」(5月24日発表)で「35%程度まで引き下げる」ことを求めています。
国税と地方税を合わせた法人課税の実効税率は現在40.87%。このうち国税(基本税率)は、1998年度、99年度と二度にわたり引き下げられ30%になりました。財界が法人課税引き下げの理由に掲げているのが国際競争の激化。とくにアジア諸国と比較した日本の法人課税が高くなっていることを強調しています。
日本商工会議所は、「税制抜本改革に関する意見」(4月18日発表)で、「基本税率の更なる引き下げをおこなうべきである」としています。