2002年6月12日(水)「しんぶん赤旗」
医療改悪法案についての参考人質疑を傍聴する人たち(手前)=11日、衆院厚生労働委員会 |
医療改悪法案を審議している衆院厚生労働委員会で十一日におこなわれた参考人招致。陳述のあとの質疑でも問題点を指摘する声が続きました。「絶対賛成する人は」と問われた六人の参考人、だれ一人として手をあげませんでした。
瀬古由起子議員(日本共産党)「先生は、ぎんさんの主治医でした。高齢者への負担をどう思われますか」
室生昇保団連会長「窓口負担はこれまで一回八百五十円で千円札持っていけばなんとかなった。一割負担になれば、いくらになるか見当もつかなくなる」
名古屋で蟹江ぎんさんの長寿を支えてきた医師の室生氏も、法案にもりこまれた高齢者の負担増に反対しました。現行は多くの診療所で窓口負担が一回八百五十円の定額払いとなっており、通院の場合は一割負担でも月三千二百円が負担の上限で、それを超える負担は免除されます。法案は定額払いを廃止し、すべて一割定率負担となり、負担上限も一気に四倍近い一万二千円(通院)に引き上げます。定額払いと違って一割負担がいくらになるか、金額がわかるのは診察が終わって会計窓口にいってからです。室生氏は「患者は不安にかられている」とのべました。
法案成立を支持する立場を表明した日本医師会の青柳俊副会長も、寝たきりで週二回の訪問診療、訪問看護を受けているお年よりの場合、三・五倍の負担増になると陳述しました。
福島豊議員(公明党)「保険料をとるのか三割負担をとるのか、しかし窓口負担を増やせば受診にブレーキがかかる。一方、賃金水準が下がっているからあまり保険料もふやせない。どちらも正しい」
村上忠行連合副事務局長「一割に及ぶ保険料アップというのは初めての大幅。ここまで上げて、あまり上げてはいけないというのは、どう考えたらいいのかわからない」
三割負担導入のためある程度保険料の値上げはやむをえなかったとでもいいたい公明党議員の質問にたいし、反発した村上氏。中小企業の労働者が入る政府管掌健康保険の保険料は年収ベースで現行7・5%を8・2%に引き上げます。上げ幅は一割になり、額にして一人平均年間一万五千円になる値上げです。村上氏は「ここ四年賃金が減りつづけるなか、これだけ増やすことが本当にいいのか。苦しんでいる中小企業は多く、所得の低いところに負担がかかってくる」と批判。保険料と患者負担の引き上げによる負担増の総額は、連合試算で年平均二兆円にも及ぶと指摘しました。
竹下亘議員(自民党)「税の負担を高めろというのか。財政の在り方をうかがいたい」
室生保団連会長「税金というものは安全で、安心な生活ができるために納めていただいて、還元するもの。国民の健康保持に必要な国庫負担はどんどん減らされてきている。国の大変な赤字も社会保障を過剰にしたからではない」
保険財政の赤字で医療費にたいする国庫負担の削減が問題にされました。自民党議員の質問にたいし室生氏は老人医療費、国民健康保険、政管健保のどれも国庫負担率が減っていると紹介。「国の赤字も社会保障を過剰にしたからではない」と指摘し、公共事業のムダを削り「社会保障への予算配分をもっと大きくするなかで解決するという認識だ」とのべました。連合の村上氏も政管健保の給付費への国庫負担をいまの13%から16・4%に戻す必要を政府の責任として強調しました。
十一日の衆議院厚生労働委員会で医療改悪法案審議の参考人として出席した全国保険医団体連合会の室生昇会長の陳述(要旨)は次のとおりです。
政府与党の医療改革案は国民の命と健康をより深刻なものに導くと考えます。それは労働者の健康悪化の現実をふまえていないからです。
厚労省の労働者健康調査(九七年)は五年間で、「非常に健康である」が11・2%から10・6%に減少、「非常に不調」は1・7%から2・1%に増加しています。
二〇〇〇年「定期健康診断調査」では、異常があった人は44・5%、十年間の伸びは約倍増。労働者・国民の健康悪化は憂慮すべき状態です。
つぎに健保三割負担による受診への影響です。
日本能率協会総合研究所が昨年実施した高血圧患者対象の調査では、医療費負担の増加で「通院回数を減らす」が33%、「通院をやめる」と回答した人も3%います。自己負担の増加は、慢性病患者を治療から遠ざける大きな要因になります。
九七年の健保二割負担によって、厚労省の患者調査でも三十五歳から六十四歳は、九六年に比べて12・4%、三十五万人の減少でした。
いま、早期発見・早期治療、日本の医療制度のよさを維持、発展させる必要があります。
わが国の国民一人当たりの年間平均受診回数は二十一回。主要国と比べて四倍ですが、一回の医療費は主要国よりかなり低い。一人当たりの年間医療費は、日本が十四万七千円に対しアメリカは三十二万八千六百円です。日本の医療費が高くはありません。
医療費に占める入院医療費の割合は九七年時点で日本は29・8%。フランス44・6%等と比べてかなり低い割合です。
これらの状況は、早期発見・早期治療を促し入院医療費を節減しているといえます。
今でも重い患者負担をさらに重くし、外来受診のハードルを上げることは疾病の重症化を招き、総医療費をかえって増加させる恐れがあり、負担増はやめるべきです。
国民の財布を豊かにしてこそ、国も栄えます。
長引く不況のもとで一兆五千億円もの医療費負担の引き上げは、日本経済にも悪影響を及ぼします。患者の実効負担率は九八年ですでに15・4%と国際比較でも高く、法案が実施されれば平均で18・3%、サラリーマンなど一般では24・3%にまで上昇します。
本当の「負担と給付の公平」を論じるには、支払った租税と社会保険料の総額のうち、社会保障給付としてどれだけ国民に還元されるかが問題です。主な国と比べると日本の「還元率」は41・6%で低い。
国民全体への還元を増やし、将来不安を解消することが、消費不況で深刻な日本経済の再生にも貢献する道です。
国民の健康権、生存権、受療権を保障する立場から、良い点を伸ばし、問題点は改善する姿勢と実践がいまこそ必要と考えます。一律に高齢者に過酷な負担を強いることや、給与が下がっているサラリーマンの保険料引き上げと三割負担に反対します。