2002年6月15日(土)「しんぶん赤旗」
政府税制調査会(首相の諮問機関)は十四日、小泉純一郎首相に「税制改革」の基本方針を答申しました。「あるべき税制の構築に向けた基本方針」と題する答申は、「少子・高齢化」や世界規模での企業競争の激化などの構造変化と多額の財政赤字を理由に、「租税負担水準引き上げは不可避」と国民大増税の方向を明確にしました。
「方針」は、消費税について、「今後、税率を引き上げ、消費税の役割を高めていく必要がある」と明記しました。また、税率引き上げの準備として、中小事業者の事務負担を軽減する措置の縮小をあげました。
個人所得税では、「広く公平に負担を分かち合う」という口実で、課税最低限の引き下げにつながる各種控除の「簡素化」「集約化」を打ち出しました。基礎控除の拡充はいうものの、課税ベースの拡大がねらいのため大部分のサラリーマンは増税になります。
法人課税では、「税の空洞化」を是正するとして、赤字の中小企業にも課税する外形標準課税の早期導入を促す一方、研究開発分野などへの優遇税制集中を求めています。
政府税制調査会が十四日に決定した「税制改革」の基本方針は、消費税の税率引き上げを当然とするなど、自民党政治がすすめてきた税制改悪をいっそう推進させる内容です。
「広く薄く」を口実に、税金を払う能力にかかわりなく国民の負担を増やし、大金持ちと大企業の負担を減らす方向がきわだっています。
その最たるものが消費税の税率引き上げです。政府税調の議論の過程では、二ケタ税率も飛び出し、早ければ二〇〇四年度の年金制度「改正」の財源として浮上しかねないだけに重大です。
また、免税点引き下げや事務負担を軽減するための簡易課税制度の縮小は、消費税が事業者の手もとに残るという現実的な根拠のない「益税」を口実にしたものです。消費税への「信頼性」を確保するといいますが、問題は、所得の低い人ほど負担が重い消費税そのものが不公平ということにあります。
法人課税の外形標準課税は、赤字の中小企業にも税金を払わせ、一握りの大企業の負担を軽くするものです。すでに多くの中小企業団体が断固反対を打ち出しています。
個人所得課税の各種控除の「簡素化」は、課税最低限の引き下げがねらいです。低所得の人だけでなく、サラリーマンの大部分が増税です。
これらの大改悪を強行するなら、家計はますます冷え込み、景気はさらに悪化するだけです。景気の状況をみきわめながら、直接税中心、総合・累進制、生計費非課税という民主的税制の実現をめざすことこそ必要です。(石井光次郎記者)
政府税制調査会が十四日、小泉純一郎首相に提出した税制「改革」の「基本方針」(要旨)は次の通りです。
【はじめに】
一、二十一世紀前半も視野に入れた中長期の時間軸で、税制のあるべき姿を検討した。実施に当たり、徹底した歳出削減、行政改革の断行で国民の理解を得ることが不可欠だ。
【基本的考え方】
一、少子・高齢化など構造変化に対応した税制改革の全体像を示し、国家への国民の信頼を回復させ、経済社会の活性化を図る。
一、経済活動に中立でゆがみのないことが基本。納税者に分かりやすい簡素な税制を構築する。
一、国民の将来不安を払しょくするには、安定的な歳入構造の構築が必要だ。
一、市町村合併の推進、地方歳出に対する国の関与の廃止・縮減などで地方行財政を効率化する。
【個別税目の改革】
「個人所得課税」
一、税率構造は、これまでの累進緩和により大多数の納税者にとって極めて低い水準にある。
一、恒久減税は経済情勢を見極めつつ、廃止していく必要がある。
一、家族に関する控除は基礎控除、配偶者控除、扶養控除に簡素・集約化する。
一、配偶者特別控除は基本的に制度を廃止する。
「法人課税」
一、国の法人税率は既に先進国並みの水準で、これ以上の引き下げは適当でない。
一、外形標準課税は真の地方分権の実現に資するため、早急に導入すべきだ。
一、租税特別措置の整理・合理化を大胆に進め、真に有効な政策措置を集中・重点的に講じる。
「消費税」
一、社会保障支出の増大や財政構造改革を展望すれば、今後、税率を引き上げる必要がある。
一、国民の信頼性や制度の透明性向上の観点から、現行の免税点制度は大幅に縮小すべきで、簡易課税制度は廃止を含め抜本的に見直す。
「資産課税」
一、相続税・贈与税の累積課税化も含め、両者を一体化する方向で検討。
「その他」
一、酒税は酒類区分の簡素化を図り、酒類間の税負担格差を縮小する方向で見直す。
一、たばこ税は今後、税率引き上げの是非を検討する。