2002年7月14日(日)「しんぶん赤旗」
医療改悪法案の参院審議で、働く人々を連続的な保険料値上げという負担増のアリ地獄に引き込むしかけが明らかになってきました(別項)。不況、リストラのなか収入が減る人々が増えているのに毎年賃金が1%上昇するという架空の計算で保険料収入を試算して、不足すれば国会の審議を経ずに大臣が保険料率を上げられるというのです。「こんなデタラメな法案は廃案しかない」と怒りの声が広がっています。
「政府は何にも分かっていない」。千葉県白井市で建設業を経営する田中恵美子さん(41)はいいます。「この五年間で社長を始め役員全員の給料が半分以下にダウンしています。従業員の給料も下げざるを得ず、そのうえ遅配です」
「この不況で倒産させないで企業を維持させるのに四苦八苦です。資金繰りのために百円単位でやりくりしているのが実態です。従業員には1%の賃金アップしてあげたいができません。上げたら倒産です」と田中さん。
長引く不況で作業単価の一割切り下げ、九七年の消費税5%への増税で値引きを迫る取引業者と経営環境は悪化するばかり。田中さんは、会社の役職は監査役ですが、電話番、総務、経理、資金繰りを担当しています。
「従業員と一緒に働きづめで私の給料は十万円。取締役の夫は十五万円。従業員より安い給料です。子どもを学童保育に行かせたいのですが保育料が出せずに行っていません。夫が体調を崩して病院にいったら、二千円かかりました。ばかになりません。保険料をさらに値上げしようなんて、中小零細企業はつぶれてもいいというものです。許せません」と怒っています。
「賃金が上がる予測なんてとんでもない。下ることはあっても、上がることなんてないよ!」。タクシー運転手で、リッチネット東京労働組合委員長の広岡英昭さん(60)は、政府の国会答弁に怒ります。
前身の山王交通は九七年、不良債権処理のはしりともいえる東海銀行の強引な債権回収で営業所の土地が競売に。銀行を相手取った数年の争議の末、今年五月新会社に組合として移行、政管健保になりました。
不況でお客が激減。以前は一日五万円の水揚げは当たり前でしたが、いまは「駅で一時間客待ちして乗せた客が一メータ・六百六十円ということもある」。一日三万円の最低ノルマをこなすのがやっとのときもあります。最盛期には五百五十万円あった年収は三百万円台に激減。手取りは月二十万円に届きません。
「不良債権処理や、リストラで賃金を下げる政治をやっておきながら、賃上げ1%なんて数字を出して、三割負担を押し通す。それで足らなくなったら保険料をまた値上げするなんてばかにしている」と広岡さん。
「小泉内閣は悲惨な庶民の暮らしがまったく見えていない。いいかげんな数字で国民をごまかす改悪案は出し直すべきだ」と怒ります。
アリ地獄のような保険料値上げの仕組みは、日本共産党の大門実紀史議員の質問(九日)で浮き彫りになりました。
厚労省は、政管健保の財政見通しで、収支の前提となる賃金の上昇を年1%と見込んでいます。しかし、過去五年間の実績は0・54%。不況のなかで、賃金が下がる人が増えているほどです。仮に0・54%の上昇があったとしても収入は五年間で約四千六百億円も不足します。こうした大門議員の指摘に厚労省は「歳入不足があれば、まず保険料というのが選択肢」と、収入不足分は保険料の再引き上げで補う方針を示しました。
法案では保険料を現在の7・5%(年収ベース)から8・2%に上げることを明記。その上で、保険料収入が不足したときは、国会にかけなくても厚生大臣が社会保障審議会の議をへただけで9・1%までの範囲で保険料率を上げることができるようになっています(法案百六十条7項)。