2002年7月22日(月)「しんぶん赤旗」
政府・与党は、海外での武力行使に道を開く有事法案の今国会成立を断念せざるをえなくなりました。国民のたたかいに包囲され、追いこまれたものです。しかし、小泉首相と与党幹部は秋の臨時国会で成立をめざすことで合意、継続審議にするなど火種を残すことに躍起となっています。
「法案の取り扱いをどうするのかは決まっていないが、継続審議になるとしても、どういう形にするのか、三つのやり方がある」
衆院有事法制特別委員会の自民党理事は、こういいます。
同じく筆頭理事の久間章生・元防衛庁長官は、「2年間かけて国民保護法制をやるという条文だけを生かして、あとの条文を全部凍結してしまうことだってあっていい」(「朝日」十二日付)といい切り、“秘策”を表に出しました。
政府は、国民の権利・自由の制限を具体的に定めた「国民保護法制」について、武力攻撃事態法案など提出中の三法案の成立を待たずに、検討作業に入る方針ともいわれています。
与党は、二十三日にも緊急事態法制協議会を開く予定。法案の取り扱いについて、二十九日の与党三党首会談で最終決定すると報じられています。
しかし、有事三法案は、法案自体のボロボロぶりからも、国民世論からも明らかなように、継続審議などではなく、廃案にすべきです。
衆院の「武力攻撃事態への対処に関する特別調査室」がまとめた有事特別委向けの「参考資料」は、法案の問題点を列挙しています。
「武力攻撃事態と周辺事態をどう線引きするのか、現段階では非常にあいまいである。…1つの事態に2つの措置ということになると、混乱状態を招きかねない」
「政府の説明にもかかわらず、『武力攻撃のおそれのある場合』と『武力攻撃が予測されるに至った事態』との相違は理解しづらく、今一つ理解されていない」
「政府が有事を名目に巨大な権限を手中にすることになる本法律案は、権力乱用のおそれのある、非常に危険なものであるとも考えられる」
ここにあげられた問題点は、審議の中で焦点になったものばかりで、法案のボロボロぶりがここにも示されました。
与党議員からも「(法案は)議論を詰めないままに急拵(ごしら)えで提出されたもの」と、法案の欠陥ぶりを認める声も出始めています。
この間の国会論戦と反対運動の高まりのなかで、国民世論にも大きな変化が生まれました。
法案の慎重審議を求める地方議会の意見書は、三百五十をこえ、十八日には、全国知事会が改めて慎重審議を求める立場を確認しました。日本民間放送連盟(氏家斉一郎会長)は、「放送が首相の権限の下に置かれ、国民の『知る権利』に奉仕する報道機関が、政府に奉仕するものに変質しかねない」と、有事法案にある「指定公共機関」化を拒否しました。
新聞の世論調査でも、有事法案反対が賛成を上回るようになり、「今国会成立」はどの調査でも、わずかです。
防衛庁による情報公開請求者の個人情報リスト作成問題や、福田康夫官房長官による非核三原則見直し発言など、法案提出者の資格にかかわる問題も決着したとはとてもいえません。どの点からいっても、有事法案は、廃案以外にありません。(田中一郎記者)