2002年7月25日(木)「しんぶん赤旗」
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「そんなに上がるのぉ。もう十月から、医者にかかれないですよ…」。東京・北区の都営アパートで一人暮らしの芹沢くに子さん(79)。医療改悪による値上げ額を聞くと、顔を伏せて涙ぐんでしまいました。
重い心臓病で、酸素濃縮器が手放せない芹沢さん。外出時は携帯用の酸素ボンベを引っ張って歩きます。二十年来の糖尿病もあり、毎朝のインスリン自己注射も欠かせません。
月二回診療所に通い、いまは月千七百円です。ところが医療改悪法案が強行されれば、十月から窓口で月一万五千円以上払わなければならなくなります。老人医療の定額制が廃止され、一割負担になるからです。
年金は月七万円程度しかありません。坂口厚生労働相は国会で「所得が少なくても子どもからの仕送りで暮らす高齢者もいる」と居直りました。芹沢さんは、「子どもはマンションのローンを抱えていたりみんな自分のくらしで精いっぱい。仕送りなんか、とてもじゃない」といいます。
猛暑でもクーラーをできるだけ入れないように節約。でも電気をくう酸素濃縮器のおかげで電気代は月一万円以上かかります。家賃が月七千四百円。「郵便局から毎月五万円下ろして、食費や病院代をなんとかやってるんですよ」。その医療費が一万五千円以上かかったら…。文字通り死活問題です。
非課税世帯の芹沢さん。改悪案では月八千円を超える自己負担分が償還払いであとから戻ってくるといいます。坂口厚労相はこれをもって「低所得者に配慮した法案」と言い張ります。ところがそれには区役所まで領収書を持って毎月手続きにいかなければなりません。
「そんなあ…。とてもじゃないですよ。診療所も具合が悪いときは送り迎えしてもらってやっと。買い物だってお隣の人に頼んでいるくらいなのに」。家のなかでも動くと息が切れて電話にさえ出られないときもあるという芹沢さんはいいます。
「お年寄りは金持ちというけど、なかには私のような生活している人もいるんですよ。オペラだサッカーだと浮かれている小泉さんに、こういう生活をみてもらいたい」。芹沢さんは、怒りと息切れで苦しそうに顔をしかめ胸を押さえて訴えました。
芹沢さんが通う桐ケ丘団地診療所の稲辺光弘事務長(43)はいいます。
「団地には月数万円の年金で暮らすお年寄りが大勢います。政府はこうした現実がまったく見えていません。いまでも毎月孤独死する人が出ているのに、これで一割負担になると、いよいよ医療にかかれなくなり、とんでもないことになる」。稲辺さんは二十四日、医療改悪法案を強行採決するなと国会行動で訴えました。