2002年7月31日(水)「しんぶん赤旗」
道路、空港、港湾など十五ある政府の公共事業長期計画のうち九つが今年度、三つが来年度が最終年度。その見直しは、八月二日に経済財政諮問会議が全体像をまとめる来年度予算編成にも大きく影響します。「予算の無駄遣いの元凶」といわれる長期計画を、政府が凍結・中止できるのか、大きな焦点です。(山沢猛記者)
小泉純一郎首相は十九日の閣議で、小泉「改革」の再浮揚を図るために、「制度・政策改革案」の取りまとめを七人の閣僚に指示。扇千景国交相には「公共事業関係計画のあり方の見直し」「大規模プロジェクトの見直し」を指示しました。しかし、その閣議後の記者会見で、予算策定をにぎる塩川正十郎財務相はこんな発言をしました。
「私の方針として事業量はできるだけ削らないようにしたい。しかし、事業にかかる経費はきびしく見積もりたい。その面で予算の公共事業総額の費用を大幅に節減したい。節減やで、縮減ちゃうで」
公共事業の見直しについて、事業そのものは減らさないで、それぞれのコストを節減するんだ、事業の縮減ではないと、くどいほど強調したのです。しかし事業の存続・中止を含めて見直さなければ道路、ダム、空港、港湾などどの分野でも無駄な事業が継続されることになります。
同じ日の記者会見で、こんどは扇国交相が同省所管の道路整備五カ年計画など九本の公共事業長期計画(別項)について「五つ以下に統合するよう国交省幹部に指示した」とのべました。長期計画のうち「治水」「下水道整備」「急傾斜地対策」を防災として一つにまとめるなどの内容です。これにたいして「無駄な事業の削減を進めないと、単なる数合わせで終わる危険性があり、公共事業改革の趣旨は骨抜きになりかねない」(「日経」二十日付)との疑問が起こっています。
長期計画のなかで先行して国交省の審議会の中間報告が出されたのが「第十二次道路整備五カ年計画」(十九日)です。国・地方の公共投資のうち道路建設は約三割を占め最大です。
しかし、この中間報告では長期計画をつくるさいの根幹となる自動車交通量の将来予測については、「2006年をピークとして人口は減少するものの、…乗用車の交通量は2030年頃まで増加し、その後減少に転じる」と明記しました。
この予測を「初の減少予測」などと報じたマスコミもありました。しかし、この予測は、人口減でも景気後退でもあと三十年間は車の交通量だけは右肩上がりで増え続けるというとんでもないものです。五カ年計画なら六回も策定でき、現行計画の七十八兆円の規模なら四百六十兆円もの資金が投入できます。
この自動車交通量の予測が、実は、国交省が公益法人に「丸投げ」してつくらせ、そのまま使っていたことが明らかになりました(二十六日の道路関係四公団民営化推進委員会)。
長期計画の中身では、巨額の建設費をかけながら都市部で公害をまきちらす環状道路の「欠落区間」の完成など、都市重点の公共投資を徹底させようとしています。
それぞれの各長期計画と各年度ごと予算は、対応する特別会計(道路特別会計、空港整備特別会計など)によって保障され、担当省庁と自民党族議員、関連の業界を結ぶ既得権益となってきました。
たとえば空港整備では、需要が低迷している地方空港は新設はしないが、すでに政府が承認し着工したところは採算の見通しがないのにそのまま建設をつづけようとしています。過大な需要予測を元に、現空港でさえ赤字つづきの関西国際空港は二本目の滑走路をつくる二期工事をすすめています。地方空港も国交省の承認のもと、首都圏・名古屋圏に程近い静岡空港、関西圏に三つめの空港をつくる神戸空港などが住民の声を無視してすすめられています。
長期計画は「統合」などで形を変えて存続させるのでなく廃止を含め抜本的見直しが必要です。
とくに港湾、道路、空港などは経済情勢によって需要が左右され、それを五年や七年の長期計画でしばること自体に無理があります。そうした分野では日本経済の低成長、人口減少化などをふまえた正確な需要予測にもとづき、情報公開を徹底し地方のニーズ(要求)を積み上げて、どうしても必要なものを精査し、必要のないものは大胆に削ることが必要です。
同じ公共事業でも中身が問題です。危険な踏切の解消、道路に歩道をつけたり段差をなくしバリアフリー化する、学校の耐震補強・改築、特別養護老人ホームの建設など、安全や福祉の分野こそ計画をたて確実にすすめるべき課題が多くあります。
既得権化した長期計画による公共事業は政・官・業の癒着と利権の温床となってきました。企業団体献金の禁止とともに、汚職・腐敗の根源をたちきるためにも長期計画の根本的な見直しができるかどうか、重要な機会を迎えています。
旧運輸省事務次官、JR東日本会長だった住田正二氏は著書『お役人の無駄遣い』のなかで「無駄遣いの元凶は長期計画」とのべています。
「長期計画は、閣議決定されると予算要求の基礎となる。予算要求は、長期計画に基づいてなされる。…長期計画が決まれば、その七割か八割かは予算として既得権化される。長期計画は予算を縛り、拘束化し、弾力性を失わせる。各省庁の予算担当者は、長期計画が決定されればその大半が既得権化されるのであるから、長期計画の作成には最大のエネルギーを集中する。長期計画は需要が伸びることが前提であるから、何としても需要が伸びるようにしなければならない」