2002年8月26日(月)「しんぶん赤旗」
小泉内閣は、母子家庭に支給している児童扶養手当を八月から大幅に削減したうえ、次の国会では児童扶養手当法そのものを改悪し、来年度からさらなる手当削減に踏み込もうとしています。
児童扶養手当の改悪法案は、先の通常国会で、自民、公明、保守の与党三党が母子寡婦福祉法「改正」案と合わせて提出しました。通常国会で審議に入れず、次の臨時国会での成立がねらわれています。
改悪法案は、「離婚の急増」を理由に、手当の支給開始から五年後に減額することを打ち出しました。例外措置として、三歳未満の子どもがいる場合は、三歳になった翌月から五年を期間としています。
減額幅は、「二分の一に相当する額を超えることができない」とのべ、最大半分まで削減できる道を開いています。
「正当な理由がなくて、求職活動をしなかったとき」は支給を制限するとして、手当の趣旨(第二条)に「自ら進んで自立を図り、家庭の生活の安定と向上に努めなければならない」の文言を加えました。母子家庭の“自立”を支給制限の口実にするねらいです。
現在の児童扶養手当は、子どもが十八歳まで支払われています。「せめて高校卒業まで支給してほしい」という母子家庭の強い要求で、十八歳の誕生月で打ち切られていたものを、九五年度からは誕生月をすぎても、年度末(三月末)まで支給するようになりました。
今回盛り込まれた「支給開始から五年後に減額する」という内容は、母子家庭の願いにまったく逆らうものです。
母子家庭からは、「五年後は子どもが小学校入学です。そんなときに減額は、あまりにむごい」「母子家庭の子どもは高校に進学するなというのに等しい」「手当はわが家で唯一の安定収入なのに、減額なんて言葉がでません」(「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」のアンケート)などの悲鳴があがっています。
厚生労働省は、三月にまとめた「母子家庭等自立支援対策大綱」で、児童扶養手当を「離婚後等の激変期に集中的に対応するものとして見直し、増大する離婚の中でもその機能が維持できるよう」にするとしました。手当支給を離婚直後の“一時的”な対応として、これまでの長期支給のあり方を否定し、「母子家庭の母に対する『自立の支援』に主眼を置いた改革」に転換しました。
これを具体化した母子寡婦福祉法「改正」案は、保育所の優先入所、就職情報の提供の推進、養育費支払い義務の明確化などの施策を並べる一方、実際の子育て・就労支援で大きな役割を果たしている児童扶養手当を削減するという仕打ちを押しつけようとしています。
児童扶養手当はこれまでにも、小泉首相が厚相だった九八年の大改悪で、所得制限を一気に百万円以上も引き下げ、六万四千人が支給を打ち切られました。
その小泉首相のもとで、この八月からは、月四万二千三百七十円(満額支給)を受給できる対象を、年収二百四万八千円未満から百三十万円未満に引き下げ、対象者を大幅に減らすなどの削減を実施。受給者の約半数にあたる三十三万人が減額(ことし十二月支給分から)になりました。
さらに来年度は、改悪法案とは別に、消費者物価や賃金下落を反映させたスライド減額の方針を固めています。
全国生活と健康を守る会連合会事務局次長の前田美津恵さんは「政府のいう母子家庭の自立支援は、児童扶養手当の予算を減らすことが出発点で許せません。子育ては五年では終わらず、年齢が上がればますますお金がかかります。就労支援も、母子家庭の九割はなんらかの仕事をしていますが、問題は、安定した賃金、雇用の確保です。手当削減でなく、まず実効性ある支援を示してほしい」と話します。
東京都東久留米市議会は、日本共産党市議団の提案で、国にたいし「児童扶養手当の削減に反対する意見書」を賛成多数で採択(自民、公明が反対、三月)。意見書は、「母子家庭の児童の福祉増進をはかるという児童扶養手当の目的とすべての児童は平等であることを謳(うた)った児童福祉法の精神に立って、現行制度の内容が後退することのないよう強く求める」とのべています。
大阪府和泉市、福島県福島市、同保原町などでも同様の趣旨の意見書が採択されています。(江刺尚子記者)