2002年10月19日(土)「しんぶん赤旗」
「小泉内閣の路線を確固たる軌道に乗せてまいります」。小泉純一郎首相は十八日の所信表明演説でこう切りだしました。過去三番目の短い演説の中に、「改革」の言葉を二十三回も連発しました。首相の演説を担当記者はどう聞いたか。
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政治とカネ |
首相は所信表明で「政治とカネ」の問題にまったく言及しませんでした。「国民の政治への信頼なくして改革の実現は望めない」と前置きして「閣僚みずからが襟を正し、指導力を発揮して…」とふれただけ。「襟を正すとはどういうことだ」などのヤジにかき消されました。
加藤紘一元自民党幹事長、辻元清美前社民党政審会長、井上裕前参院議長、田中真紀子前外相…。先の通常国会では、鈴木宗男衆院議員があっせん収賄罪で逮捕されたほか、公共事業をめぐる口利き疑惑や秘書給与問題が噴出し、四人の国会議員が辞職。二十七日投票の国政七補選のうち四つが「政治とカネ」をめぐる辞職によるものです。
「政治への信頼」を失わせてきたのは、疑惑が起きるたびに真相解明と再発防止をあいまいにしてきた自民党自身です。「襟を正す」程度の個人のモラルの問題ではありません。
しかも臨時国会を前に発覚した大島理森農水相秘書官の公共事業口利き疑惑は、政権与党として問題解決に着手してこなかったことを象徴的に示していないでしょうか。
わいろ政治がなくならない原因は、企業・団体献金の温存にあります。日本共産党はじめ野党四党は通常国会で、公共事業を受注する企業からの献金を禁止する法案を共同提案していましたが、自民党は「すべての企業献金禁止につながる」などとして拒否しています。
企業・団体献金を禁止し、公共事業をめぐる政官業の癒着構造を正さなければ、国民の政治不信は払しょくされないでしょう。
(古荘智子記者)
経済問題 |
“ライオンの雄たけび”もなく、原稿を棒読みする小泉首相。所信表明演説から浮かび上がるのは、いてつく日本経済、国民の暮らしの現実にたいする認識のなさでした。政治に携わるものにとって原点の欠落です。
この一年半、記者は、「小泉不況」が荒れ狂う日本経済の現場を取材してきました。妊娠した妻に「事業の見通しがたたない。おろしてくれ」と懇願した若い業者。借金を自分の保険金で返済しようと首をつった社長。この社長の遺志で工場を引き継いだものの、仕事がなく「おれも同じ運命になる」と涙を流した働き盛りの業者――。
この窮状は、小泉首相の目と耳には入らないのでしょう。
小泉首相は「二〇〇四年度には不良債権問題を終結させます」と宣言。失業者を増やし中小企業の倒産を激発させることは実証済みです。しかも、「経済情勢に応じては、大胆かつ柔軟な措置をとる」と、大銀行への公的資金投入も示唆しました。今度は、税金を使って夜逃げ、自殺者をいっそう増やそうとでもいうのでしょうか。
「経済の再生」の名で掲げた政策は産業再編や企業の早期再生。大企業むけの一兆円を超える先行減税です。
「構造改革特区」で内外企業にうまみのある地域づくりへ自治体を競争に駆りたて、「都市再生」では大手ゼネコンのために規制緩和を推進しています。
「強者のための改革」。ある財界人は、小泉「改革」をこう評しました。「再生」するのは一部大企業だけ。労働者、中小業者は切り捨ての対象でしかありません。
一日たりとも小泉「構造改革」路線を続けさせるわけにはいかない。記者席でメモをとる手に力が入りました。
(金子豊弘記者)
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「構造改革」 |
「構造改革は着実に進んでいます」――首相のこの発言に強い違和感を感じたのは私だけではなかったでしょう。
その例として小泉首相は、先の国会で成立した医療「改革」関連法などをあげました。
しかし、これは国民にとって改悪でしかありません。ことし十月からお年寄りの医療費負担を増やし、来春からは労働者の窓口負担を二割から三割に引き上げるものです。国民に耐え難い痛みを押しつける悪法を「改革」といって胸を張る感覚は異常というほかありません。
郵便事業への民間参入と郵政公社化や道路関係四公団の民営化も、「改革」どころか自民党政治の浪費と利権構造を温存・拡大するものです。
例えば、道路公団民営化では、借金は国民に押しつけてムダな高速道路建設は続ける方向です。
「聖域なき構造改革」の看板がすっかりはげ落ちた現実を前に、首相発言にはむなしさを感じます。それでも小泉首相は「官から民へ」「国から地方へ」と称して年金、農業、教育、公共事業など「改革」をすすめていくことを表明しました。
これも「改革」の名で打ち出されているのは、年金額の引き下げ、雇用保険料の引き上げなど国民負担増を強いる一方、公共事業については事業量全体は減らさずに関空二期工事などムダな公共事業を続けるものです。
「より一層強力に推進する」とのべた市町村合併も、国庫補助負担金や地方交付税の削減がねらいです。
小泉政治の底が割れ、正体が見えたいま、破たんした「構造改革」路線を突き進もうという本性だけがむきだしです。それは国民との矛盾を拡大させ、自民党政治の行き詰まりをいっそう深刻にせざるをえません。
(深山直人記者)
安保・外交 |
「有事法制に優先的に取り組み、今国会で成立を期す」。先の通常国会で国民からノーを突きつけられた有事法制成立に、首相はあらためて強い執念をしめしました。
首相は「法案審議を通じて、国民の理解と協力を得られるよう取り組みます」と表明しましたが、有事法制の本質は、米国が仕掛ける戦争に自衛隊が武力行使をもって参戦し、国民を強制動員するための法律です。
首相が「国民の理解と協力」を得るために言及した「国民保護のための法制」も、政府が先に発表した同法制の素案で、地方公共交通機関まで有事の動員対象に組みこむことを想定。戦争への国民動員の具体化という本質がすでに明らかになっています。
米国がイラクへの軍事攻撃態勢を強めていることも、国連憲章を踏みにじる無法に乗り出そうというもので、世界の平和にとって重大な問題です。昨年のアフガン報復戦争で米国に協力した中東諸国やドイツなど欧州各国、そして米国内でも軍事攻撃への反対・懸念の声が強まっています。
もちろん首相が強調しているように、イラクは大量破壊兵器の問題で国際査察を即時・無条件に受け入れるべきです。
同時に、憲法九条を持つ国の首相として、イラクへの軍事攻撃は絶対にさせないと、米国に強い姿勢で表明すべきです。ところが所信表明では「国際社会との協調」と一般的な表明にとどまりました。米連邦議会が武力行使容認決議を採択するなど、イラク攻撃に向け具体的な準備を進めており、小泉首相も深刻な事態をもっと直視すべきです。
(竹下岳記者)