2002年10月27日(日)「しんぶん赤旗」
二十五日の参院予算委員会で日本共産党の小池晃議員が行った質問(要旨)は次の通りです。
小池晃議員 九七年に九兆円の負担増をきっかけにして経済が悪化しました。それから五年間、暮らしと景気がどれだけ変化をしたか。
民間企業の平均給与は十三万円減少をしました。勤労者の可処分所得は一世帯当たり月三万二千円減少しました。従業員数は二百五十九万人減っています。
その一方で、失業者数、百三十一万人増えました。57%の増加。自己破産した人は年間十六万人を超えている。九万人も増えています。自殺者は七千人近く増加をした。三万人を超えています。そのうち、経済苦で自殺する人は年間三千人近く増えて二倍になっている。
このほかにも、企業倒産は二千件以上増えている。生活保護は厳しい締め付けがやられていますけれども、35%増加をしています。昨年の厚生労働省の国民生活基礎調査では、生活が苦しいとお答えになった世帯は51・4%、ついに半数を超えたわけです。
しかも、こうした傾向は小泉内閣になってからさらに加速をしています。
例えば、民間給与の減少は、昨年一年間だけで七万円減っている。失業者は小泉内閣になってから十七カ月連続して増えている。失業、倒産、自己破産、そして自ら命を絶つ、本当に胸の締め付けられるような話だと思うんです。
国民の暮らしは大変厳しい状況にある。総理はどういう認識か。
小泉純一郎首相 今の数字に表れておりますように、大変厳しい状況だと思います。
小池 まさに危機的な状況だと思うんです。こういうときに社会保障の負担を増やす。これは暮らしと景気に深刻な打撃になると思うんです。これは政府も分かっていると思うんです。
というのは、例えば政府は年金の物価スライドを凍結する法案を二〇〇〇年から毎年出しました。その提案理由は一体どういう趣旨だったでしょうか。
吉武民樹・厚生労働省年金局長 社会経済情勢全般を検討いたしまして、それぞれの年度で判断をしてきたということです。
小池 当時の国会答弁はもっと明快だった。当時の副大臣は今年三月、「もし、物価に合わせて年金を切り下げれば、消費者のマインドを一層冷やしてしまう。家計にもさらに苦しさをもたらしていく」「デフレスパイラル(デフレの悪循環)を避けるためにも、そうした事態をやむにやまれず今回も回避させていただいた」といっているんです。
それなのに、来年度の社会保障の負担増は一体どうなっているか。医療保険は、十月から既にお年寄りの負担は増えている。来年四月からは健保本人は三割負担、保険料も引き上げる方向だ。年金は物価スライド凍結が解除されて引き下げようということになっている。介護保険料は来年、引き上げようとしている。雇用保険料も引き上げの方向だという。これ四つ合わせると、合計でだいたい三兆円超える負担増になるんですね。
今年、厚労省が説明したのに照らしていっても、当然消費マインドを冷え込ませる、家計に打撃を与える、デフレスパイラルを引き起こすということになる。ましてや、景気悪化は去年より深刻なわけですから、こんなときに社会保障の負担を増やすべきだろうか。到底正しいとは思えない。
首相 いかなる国民に対する政府のサービスも国民の負担によって成り立っているわけであります。しかも、少子高齢化。黙っていても年金受給者も増えてまいります。高齢者だけ手厚くしましょうというと、若い人に負担してくれよということになります。それも嫌だとなると、じゃ増税だという。これも嫌だと。こういう難しい状況に合わせて、高齢者も若い世代もみんなで支え合って社会保障サービスを受けていこうという考えから成り立っていることもご理解いただきたいと思います。
小池 私は今日は、そういう社会保障の将来像のことを議論をしようと言っているんじゃないんです。この経済危機を打開するために何をなすべきか、本当に真剣に考えるべきじゃないか。これを言っているのは共産党だけじゃないんです。
例えばニッセイ基礎研究所の経済見通しを見ますと、四つの社会保険の負担増が相当な規模になり、「来年度の景気動向からすれば急速な負担の増加は景気悪化の引き金になりかねない」と指摘しております。そして、「経済全体を見て調整することが必要なんじゃないか」と提言しているんですね。
ぜひ、こうした声に耳傾けて私は真剣に検討すべきだと思う。
首相 さまざまな意見があるのは承知しております。いろいろ多面的に考えなきゃならないと思っております。
小池 総理にはこの今の負担増の深刻さというのがあまり分かっていないように思います。
今回の社会保障の負担増というのは、高齢者とか病気を持つ人に重くのしかかるだけじゃないんですね。今回の特徴というのは、現役世代の保険料が軒並み上がってくるというのが特徴です。来年から医療も年金も、保険料が総報酬制になる。
モデルケースで計算してみました。例えば四十歳でサラリーマン、四人家族、月給三十五万円、ボーナスが年間四カ月という場合(妻は年収七十万円未満、子どもは小学生と幼稚園児)です。
年間の保険料が来年は、医療は四万六千九百円増えます。年金で八千八百九十円増、雇用保険で八千四百円増える。介護保険で三千二百九十円増える。合計で六万七千四百八十円、大幅な引き上げになるわけですね。
保険料は企業も折半しておりますから、これは同じだけ企業にも負担になっていくわけです。例えば、仮に一人六万七千円として、百人規模の企業であれば六百七十万円。日本中の企業にそういう負担がかかってくるという仕組みになっている。
おまけに、これだけじゃないわけですね。増税の計画もある。配偶者特別控除、特定扶養控除(の廃止)。このケースで配偶者特別控除が廃止されれば三万六千九十五円の増税になる。合わせると十万三千五百七十五円の負担増ということになってくる。
お子さんが高校生、大学生だとすると、さらに特定扶養控除も廃止されてもっと負担増が大きくなるわけです。しかも、もし、病気があったり介護をしている人がいれば、ここに医療保険の窓口負担や介護費用がかかってくる。こうしたことを来年やれば、景気悪化にさらに拍車をかけるんじゃないか。総理、そのように考えませんか。
首相 低所得者にはそれなりの配慮はされておりますし、ボーナスの保険料の徴収におきましても、月給とボーナス別にするよりも、総合的にやった方が公平だという形で直したんですよ。
負担をなくした場合にどこでこの持続的な社会保障制度を維持するかという問題も出てくるんです。
坂口力厚生労働大臣 にわかにその数字信じ難いんですが、ボーナスは、普通四カ月はないんですね。それは四カ月ということにしたがためにできた数字であるということを申し上げたい。
小池 この四カ月というのは決して特殊なケースじゃないですよ。百人以上の企業であれば、年間でボーナスは今、四・六(カ月)ですよ。
今までの社会保障の負担増は、低所得者ねらい撃ちでやってきた。今回は、平均的なサラリーマンで大きな負担がかかってくる。今この時期に、こういう階層の人たちにこれだけの負担増をかぶせるというやり方が、現下の経済局面において私はとても妥当なやり方とは思えないんですよ。知恵を絞って回避すべきじゃないか。
首相 総合的に経済活性化策を考えているんであって、医療と年金と雇用と介護だけが経済活性化策じゃないんです。全体の税制改革、歳出改革、金融改革、規制改革、そういう中で経済活性化を図っていくことによって企業も元気が出てくる。元気が出てくれば人も雇う。成長軌道に乗れば給料もだんだん上がってくるだろう。そういうことによって、社会保障制度も持続可能な制度として発展できるだろうという観点から考えているのです。
小池 将来、将来というふうにおっしゃいますけれども、政府は来年のことだってまともに検討していないと思いますよ。だって、この負担増、理由は全部ばらばらなんですよ。医療と雇用保険は「保険財政が悪化しているから上げるんだ」、介護保険は「三年ごとに見直さなきゃいけないから上げるんだ」、年金は「物価が下がっているから給付を下げるんだ」と。もうばらばらの理由なんですよ。四つ合わせてどうなるかというのをまともに検討している節がないんですね。
例えば、私、九月九日の経済財政諮問会議の議事録を見て驚きましたけれども、民間議員の本間大阪大学大学院教授が、「介護保険料や失業保険料の引き上げなど考慮していなかったものもある」と言っているんです。総額三兆円を超える負担増を押し付けながら、四つ合わせてこれがどれだけ日本の経済に影響を与えるか考えていなかったというんですから、本当に無責任だと思う。
しかも、年金の問題に立ち戻りたいんですが、現役世代だけじゃありません。年金の問題はどうかというと、物価スライドを凍結解除すると実際はどれだけ年金が減額されるか。過去にまでさかのぼって物価スライドをすれば、国民年金で月額三千八十円、厚生年金で月額五千四百八十円です。
年金の金額を引き下げるということは、制度始まって以来のことなんです。三年間物価スライドを凍結してきた。その理由は景気が悪いから。もっと景気が悪くなった今になって、どうして凍結解除するのか。これ支離滅裂じゃないですか。
厚労相 今回は物価が下がっただけではなくて、いわゆる働く人の賃金も下がってきた。ですから、高齢者の皆さん方も、物価の減額分はひとつご辛抱をいただきたいと思っております。
小池 景気が悪化しているから現役賃金が下がっているわけですよ。それを理由に年金を下げれば、ますます景気が悪くなる。現役世代の賃金もさらに下がっていく。どう考えたって悪循環だと思うんです。
特に高齢者は、所得に対する消費支出を示す消費性向が高いわけです。総務省の家計調査では、勤労者世帯の約七割に対して高齢者世帯は100%を超えている。すなわち、年金が減ると即消費の減少に結び付くわけですよ。年金の物価スライドの凍結解除は、高齢者の生活をいじめるだけではなくて、私は地域経済にも打撃を与える。これでも断固やるとおっしゃるんでしょうか。
首相 若干影響はあるでしょう。(しかし)これがすべてではないと思っております。
小池 認識が甘い。年金の物価スライド凍結解除の影響というのは高齢者だけじゃないんですよ。例えば障害者の年金も下がるんです。それから母子家庭の児童扶養手当、原爆被爆者の手当にも連動するんです。影響を受ける人は三千万人ですよ。どうしてこれが小さい影響なんですか。これは深刻な打撃を与えると思いますよ。
今までの政府ですらやらなかった、坂道で後ろからけ落とすようなやり方じゃないですか。
経済財政諮問会議では九月になってようやくこの負担増の重大性に気がついている。民間議員が減税規模を拡大しようといってきた。ところが、中身は結局ごく一部の大企業向けなんですよ。そして、与党からはデフレ対策の大合唱です。
これは一方で冷房を入れながら、寒くなり過ぎたから慌てて暖房を入れようというようなものだと思うんですね。だったら、すぐに冷房を切るべきだ。真っ先にやるべきことは、三兆円の社会保障の負担増を撤回する、増税計画はしないと国民に宣言をする、それじゃないですか。
首相 もっとこのまま借金を増やせというのか。どこを歳出カットするのか。恐らく防衛費をカットしろと言うのかもしれないけれども。防衛費は五兆円弱、社会保障費は十七兆円を超えている。医療費だけでも七兆円を超えている。
小池 今、肝心なことを言わなかった。公共事業五十兆円あるじゃないですか、そこにどうしてメスを入れないんですか。国民の暮らし支えてこそ経済の再生だと、そのことを訴えて、私の質問を終わります。