2002年11月10日(日)「しんぶん赤旗」
自民、公明、保守の与党三党は、十月二十九日に実務者レベルで合意した武力攻撃事態法案など有事三法案の「修正」案を、野党に提示し、成立に向けた機運を盛り上げようとねらっています。十一日には衆院有事特別委が再開します。「修正」案によって、有事三法案のどこが変わるのか、変わらないのか、その内容を見てみました。
与党「修正」案の最大のポイントは、武力攻撃事態法案が発動される規定である「武力攻撃事態」の定義変更です。
従来の政府案は、(1)武力攻撃が発生した事態、(2)武力攻撃の「おそれ」がある事態、(3)武力攻撃が「予測」される事態の三つをひとくくりにして「武力攻撃事態」と定義していました。
修正案は、この三つのケースを、「武力攻撃事態」と、新設した「武力攻撃予測事態」の二つの事態に、整理し直しました。
新たに「武力攻撃事態」は、武力攻撃の「発生」と、従来「おそれ」と呼んでいた事態の二つを指すとし、「武力攻撃予測事態」は「予測」の事態を指すとしたのです。
与党は、変更の理由について、「武力攻撃の『おそれ』と『予測』との違いが分かりにくい」からだとしています。
自民党の久間章生・衆院有事法制特別委員会理事も今になって「三つに分類するのは、少し無理がある」(十月二十九日)といい始めています。
しかし、「修正」によって、違いは明確になったのでしょうか。
政府は、これまで「おそれ」とは、「武力攻撃が発生する明白な危険が切迫していると認められることが客観的に認められる事態」と説明。「予測」は、「事態が緊迫し、武力攻撃が予測されるに至った事態」としていました。
今度の修正案は、「おそれ」の定義を「武力攻撃事態」のなかに、「予測」の定義を「武力攻撃予測事態」のなかに、ほとんどそのまま入れただけ。違いは、なんら明確になっていません。
だいたい法案の正式名称は、「武力攻撃事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律案」。法案が対処する事態そのものの定義を変更するというのですから、みずから法案の欠陥を認めたようなもの。これだけでも政府・与党は、法案を撤回すべきです。
与党は、「修正」案で、「事態の緊迫度に応じた対処措置」の違いが際立ったかのように説明します。
自衛隊法と比べると、自衛隊法は、武力攻撃発生と「おそれ」の事態の際には、武力行使可能な防衛出動を命じることができますが、「予測」の事態では防衛出動待機命令が出せるだけ。“対処措置”は区別されています。
ところが、武力攻撃事態法案の修正案は、対処措置について、「武力攻撃事態」で実施するとしていた規定を、「武力攻撃予測事態」を含む「武力攻撃事態等」で実施すると変更しただけ。結局、二つの事態で緊迫度にどんな違いがあろうと、実施する対処措置は一つという仕組みなのです。
武力攻撃が「予測」されるだけの事態でも法案発動が可能な仕組みはそのままです。
「武力攻撃事態等」が起きたときに政府、自治体などがおこなう対処措置には、(1)自衛隊による武力行使、(2)米軍と自衛隊への物品、施設、役務の提供などの軍事支援、(3)外交上の措置などがあります。
修正案はこれらの措置を「推移に応じて」実施することにしました。
しかし、どの事態に、どの措置をおこなうのかの明確な基準は、条文のどこにもありません。「武力攻撃予測事態」と「武力攻撃事態」が連続した一連の事態なので、対処措置に明確な区別をつけることができないのです。
結局、「推移に応じて」どの対処措置を実施するのかは、首相が本部長を務める対策本部の判断にまかされることになります。政府の恣意(しい)的な判断で、自衛隊による海外での武力行使に道を開く政府案の危険は、修正案でも変わらないのです。
(「国民保護法制」については続報します)
有事三法案とは 継続審議となっている有事法案は、武力攻撃事態法案、安全保障会議設置法改悪案、自衛隊法改悪案の三案です。
「修正」案で、不審船やテロ対処を新たに明示したことも、与党は目玉にしようとしています。
しかし、もともと政府案も修正案も、不審船やテロといった事態を「武力攻撃事態以外の緊急事態」と呼んでいるように、テロ・不審船問題に対し、武力攻撃事態法案で対処することを想定していません。
政府も、テロなどへの対処について、「第一義的には警察機関の任務」(福田康夫官房長官、五月二十一日)などと答弁していました。
政府・与党のねらいは、テロや不審船をあげて国民の不安をあおることで、本来関係のない有事法案の成立に向けて有利な世論をつくりあげようというものです。