2002年11月15日(金)「しんぶん赤旗」
教育基本法の見直しを検討してきた中央教育審議会(鳥居泰彦会長)は十四日、遠山敦子文科相に中間報告を提出しました。見直しによって、国家戦略にそった教育の推進を押し付けようとしています。
基本法見直しは、“学力低下”や四月からの学校五日制実施など、国民のなかで教育のあり方がするどく問われるなかで議論がすすめられました。しかし一年間にわたる論議が、いまの教育の危機の打開方向を示すものとして世論に注目されることはほとんどないまま、中間報告として区切りをつけることになりました。
中間報告は、いじめ、校内暴力、不登校などにふれ、教育が「深刻な危機に直面している」という認識が一応盛られています。しかし危機を招いたものは何かとなると、子どもの実態にそくして現状把握を深めた形跡は見当たりません。
教育基本法は、侵略戦争のために命を投げ出す非人間的な子どもたちをつくることに最大の価値を見いだした戦前の教育を根本的に転換しました。子ども一人一人の能力を伸ばし、人間としての成長・発達や、真理と平和を愛することに普遍的価値を与えたことで、国民に歓迎され、より良い教育への力となったのです。
中間報告も、憲法にそったこの基本法の理念について、新しい時代の教育理念として「大切にしていく」とし、引き継がざるをえませんでした。このため、子どもたちの成長をゆがめる教育の危機を、基本法の理念の不十分さに求めることはできず、見直しの根拠にできませんでした。
ところが中間報告は、「経済を中心とする世界規模の競争激化」の中で、このままでは「国が立ち行かなくなるという危機」を打ち出し、この打開に頼むべき力として「教育」を位置付けました。これに必要な理念が欠けていることを見直しの根拠として提示。国際競争力を確保し、日本が大国として存在していくための教育の目的、子どもの資質を基本法に押し付けるねらいです。それを一言で言いあらわしたのが「たくましい日本人」、“愛国心”の育成です。
この目的のために、基本法に盛り込まれるのが、教育振興基本計画(基本計画)の策定です。
基本計画に盛り込まれる教育政策の中には、「国を愛する心」や「我が国の歴史、伝統、文化などに関する理解と愛情」など、個人の思想・信条にかかわり、心の内面に踏み込むようなものまで含まれます。日本の伝統・文化の尊重、「郷土や国を愛する心」は、日本人としての「アイデンティティ」(自覚を示すもの)として特別視されています。
こうした重大問題を含む、国による教育内容への全面介入を、振興計画によって基本法に持ちこむことになります。
教育の危機を反映して、振興計画の目標例には、“校内暴力の五年間で半減”“授業がわからない子どもの半減”などが示されています。しかし教育荒廃への対処策は規範教育、つまりルールを守る心がけを説くことが強調されているだけです。振興計画の中心は、厳しい財政のなかで「国家戦略としての人材教育」への投資効果を高めることに置いています。
教育基本法見直しをテコにして競争力強化に役立つ教育の推進、特定の人材づくりを新たな教育目的として教育現場に押し付けることになれば、いっそうの混乱、困難をもたらし、教育の危機を深めるだけです。(西沢亨子記者)