日本共産党

2002年12月11日(水)「しんぶん赤旗」

無法なリストラや解雇から雇用と人権を守り、安心して働くことができるルールの確立を

2002年12月9日 日本共産党


 日本共産党の市田忠義書記局長が九日発表した雇用政策「無法なリストラや解雇から雇用と人権を守り、安心して働くことができるルールの確立を」(全文)は次の通りです。

 戦後最悪という深刻な雇用情勢にもかかわらず、小泉内閣は、不良債権処理の「加速」によって、新たな倒産と失業を大量につくり出そうとしています。アメリカのブッシュ大統領の要求を受け入れ、アメリカ流の資産査定を無理やり持ち込み、これまで正常債権とされていた企業でも不良債権としてしまうのです。こんなことをすれば、大不況の中で必死にがんばっている企業も次々と倒産に追い込まれたり、「利潤率が低い」と決めつけられた部門の切り捨てなどの大リストラがさらに横行することは必至です。今でも完全失業者は三百六十万人を超えているのに、新たに職を失う人は、厚生労働省の試算でも六十五万人、民間研究所では三百三十二万人にのぼるとされています。

 こんなときに政府は、雇用保険の保険料は値上げし、失業給付は削る、というのですから「セーフティーネット」どころではありません。しかも、小泉内閣は、「雇用対策」などといって、雇用の流動化をもっとすすめようとしています。賃金や労働条件を切り下げ、いつでも解雇できるようにすれば、企業は人を雇うようになるというのです。しかし、これまでも労働市場の「規制緩和」といって、雇用流動化をすすめてきましたが、雇用が増えるどころか、大企業のリストラに利用され、正社員を減らして、その一部をパートや派遣に切り替えるという不安定な雇用への置き換えをすすめただけです。

 安定した雇用の確保は、国民の暮らしの土台です。日本経済を深刻な不況から立ち直らせる上でも避けて通れません。いまこそ、雇用政策の抜本的転換が求められています。

一、不当な解雇・人員整理を社会的に規制し、労働者の雇用と人権を守るために

―労働者の「解雇規制・雇用人権法」の制定を提唱します

 日本では、労働者と雇用を守るルールがきちんと確立していないだけでなく、いまあるルールさえも乱暴に踏みにじった違法、脱法のリストラが横行しています。現行の労働法制に多くの「抜け穴」があること、不当解雇の禁止など多くのルールが判例や行政基準にとどまっていること、「終身雇用制」など明文化されていない「暗黙の了解」も崩壊してしまったことなどによって、世界でも例がない“ノン・ルール”の国になっています。

 このもとで「隔離部屋」に押し込む、遠隔地への転勤で脅す、執拗(しつよう)な呼び出しをかけ無能・無用よばわりするなど、労働者の人権を踏みにじった希望退職や転籍の強要で大量の人員整理、事実上の整理解雇が大規模に行われています。

 人間らしい社会は、人間らしい労働生活があってこそ実現します。だからこそ、この百年余の間、日本でも、世界でも、労働者の人権を擁護、発展させるための努力が積み重ねられてきました。二十一世紀は、もっと個人が尊重され、人間が大切にされる社会にすべきです。会社の中であれ、人権を踏みにじった無法が許されるはずがありません。陰湿で、人間としての最低限のモラルにも、社会正義にも反する行為は、労働意欲を減退させ、日本社会全体にも否定的影響を与えています。

 日本共産党は、不当な解雇を禁止するとともに、脱法的な大量人員整理をなくすためにも、労働者の人権を守り、人間としての生活を尊重した労働契約のルールを確立する「解雇規制・雇用人権法」を提案します。

(1)正当理由なき解雇の禁止、人員整理計画の事前協議制など、雇用を守るルールをつくる

 ■希望退職など雇用削減の計画や工場閉鎖などは、労働者代表、関係自治体との事前協議を義務づける 希望退職の募集や工場閉鎖が、ある日突然、新聞紙上で発表され、労働者や中間管理職はもとより、ひどい場合には工場長すら知らされていなかったという乱暴なリストラが横行しています。労働者には何にも知らせず、マスコミを使って大量人員整理を「既成事実化」するなどという無法は世界では通用しません。

 ヨーロッパでは、EUの「欧州労使協議会指令」で、人員整理や工場閉鎖など、企業が雇用に大きな影響を与える決定をする場合には、労働者・労働組合への情報提供や「合意を目的とした事前協議」を義務づけています。アメリカでも、「労働者調整・再訓練予告法(WARN法)」で、レイオフの情報公開、州・地方政府への通告などが義務づけられています。労働者と関係自治体への情報提供と事前協議は、企業としての最低限の責任です。

 ■整理解雇四要件を法制化する 正当な理由のない解雇を法律で禁止することは、解雇制限法(ドイツ)、雇用保護法(イギリス)などヨーロッパでは常識です。日本でも、裁判所の判例で、経営上の都合での整理解雇は、企業が存続できず、解雇回避の努力をつくし、人選が合理的で、労働側と協議をつくした場合に限定するという、四つの要件が必要ということが確定しています。この法制化は労働界も一致して要求しており、当然のことです。

 ■企業組織再編にあたって、本人の同意、労働契約の継承、労働条件の保護を原則にする 合併や営業譲渡、分割という企業組織の再編を理由とする解雇を禁止するとともに、再編前の企業に所属するか後の企業にするかは、労働者の同意がなければ決められないようにします。前の会社での労働条件や労働協約はそのまま引き継ぐことにします。また、労働組合との事前協議や一人ひとりの労働者へも情報公開を行わせます。

 破たんした企業やその一部を買い取る場合でも、雇用の継承、再就職のあっせん、職業訓練など、譲渡を受けた者にふさわしい雇用責任を果たす努力を義務づけます。

(2)希望退職や転籍など「退職」を強要するための人権侵害を許さない

 ■希望退職や転籍、出向などにあたっての「強要」行為を厳格に規制する 転籍や出向など労働契約の変更は本人の同意が原則です。ところが、形だけの「同意」をとりつけるために、いやがらせや脅迫まがいの強要行為がまかりとおっています。希望退職に達成目標をかかげ、退職に追い込むやり方も横行しています。最高裁の判例でも、希望退職をせまるために繰り返して呼び出すなどの行為は違法とされています。こうした強要行為を禁止し、立会人の同席や希望退職や転籍の同意は七日以内であれば撤回できる「クーリングオフ」制度などを確立します。

 ■転勤にあたって、家族的責任、家庭生活などへの配慮を義務化する 転勤は会社都合が優先され、世界でも例がないような単身赴任や長時間通勤が当たり前のようになっています。本人の生活と健康に大きな負担となるだけでなく、家庭が犠牲にされ、少子化などの社会問題の要因にもなっています。世界の流れは、仕事といえども、家族としての責任を犠牲にしてはならない、ということです。日本でも、やっと介護や育児の責任がある労働者の転勤を制限する動きが出ていますが、転勤にあたって、育児・介護はもとより、家族的責任、家庭生活を配慮するのは当然です。

 ■労働者一人ひとりの雇用と人権を迅速に救済する 希望退職や転籍の強要、職場でのいじめ・嫌がらせ、セクハラなどを受けた労働者の人権と雇用を迅速に救済することが求められています。昨年十月から厚生労働省が始めた個別労働紛争に関する相談は、九万件にものぼり、その半数がリストラに関するものでした。しかし、この制度は「紛争処理」のための「助言・指導」や「あっせん」にすぎず、雇用と人権の救済にはなっていません。また、裁判での救済は、長期の時間と多額の費用という重い負担があります。

 行政、司法あわせて、雇用と人権を迅速に救済する制度を確立していきます。当面、労働基準監督署などに、正規の相談員を配置するなど労働者の人権救済の機能をもたせ、必要な勧告を行えるようにします。公共職業安定所や労政事務所、地方労働委員会などとの相互協力体制を強化します。

 裁判費用への負担を軽減するために、労働裁判・法律扶助制度を創設し、雇用保険会計から必要な範囲で裁判費用を貸付・援助できるようにします。また、将来的には、労働問題を迅速に解決する労働裁判所の設置などを含めた検討もすすめます。

(3)派遣やパート、有期雇用など、不安定な雇用に置かれている労働者の雇用と権利を守る

 無法なリストラのなかで、正規雇用が大きく減少するとともに、パート、臨時、派遣など、賃金も労働条件も悪く、真っ先に解雇される、未権利で不安定な雇用が急速にひろがっています。とくに、青年は、完全失業率が10%にもなるうえに、安定した仕事につけないフリーターが二百万人にものぼっています。こうした事態は、雇用不安をいっそう深化させ、国民経済全体で大きなマイナスになるだけでなく、仕事や技術の伝承、職場のやる気など、企業や産業、日本のものづくりの将来にとっても、大きな障害になっています。

 ■雇用不安をひろげる危険がともなう「有期雇用」は育児休暇の代替、臨時の仕事など、合理的な理由がある場合に限定する 政府は、有期雇用の期限を原則一年から三年にするなど延長しようとしています。これでは“契約期限がきたら解雇自由”という不安定な労働者を大量につくり、雇用不安をさらにひろげてしまいます。採用にあたって、あらかじめ期限を限定することができるのは、育児休業の代替、災害復旧のように臨時に仕事が急増したなど、合理的な事由がある場合に限定します。

 ■パート労働者などへの賃金・労働条件への差別を禁止する 正社員と同じ仕事をしながら、パート、アルバイト、準社員などの「名前」の違いで、賃金や休暇、福利厚生など労働条件での不当な差別をなくします。とくに、賃金・諸手当などを労働時間に比例して決めること以外は、労働条件の違いをつくってはならないことを明確に定めるとともに、広がる一方の賃金格差を是正させるために、政府が目標をもって取り組むようにします。

 ■派遣労働者の雇用と権利を守る 「安上がりな労働力」のためだけに派遣社員を利用することや、悪質なピンはねを規制し、派遣は、特別な技能など業務上の必要に基づくという本来の姿にしていきます。中途解約でも、派遣元に契約期間中の賃金を保障する義務があることも明確にします。健康保険や厚生年金など社会保険に加入する権利を保障し、派遣会社を移動した場合や派遣以外の仕事に就いたときにも、加入期間を通算する制度を確立します。本人の希望にもとづいて派遣社員から正規雇用になれる道を開きます。

二、雇用を増やすためにも、サービス残業の根絶・長時間労働の是正を

 三百六十万人もの完全失業者が仕事をもとめている一方で、ただ働きのサービス残業がまん延し、過労死、過労自殺が増えるという異常な長時間労働がはびこっています。政府や財界は「ワークシェアリング」という言葉だけ持ち込んで、賃下げ・リストラに悪用していますが、労働時間を短縮して仕事を分かち合うというのなら、健康も、家庭も犠牲にするサービス残業・長時間残業や法律で定められた休暇も取れないという異常な事態こそ、真っ先に是正すべきです。

(1)サービス残業根絶と長時間残業を規制する実効ある措置をとる

 日本共産党は、サービス残業根絶法案((1)使用者に実際の労働時間を記帳する義務を負わせ、労働者がチェックできるようにする、(2)サービス残業が発覚したら、使用者は労働基準法で定められた割増賃金とは別に制裁金を労働者に支払わねばならないようにし、これによって、サービス残業は使用者にとって割に合わないものにする)を国会に提案し、犯罪行為であるサービス残業を根絶するよう追及し続けてきました。ようやく昨年になって、厚生労働省は、労働時間管理を徹底する通達を出し、サービス残業の摘発に乗り出しました。しかし、連合の調査でも「サービス残業をしている」が47・5%にのぼるなど、法律違反のただ働きをさせることが、リストラ人減らしの中ですすんでおり、その根絶のために実効ある措置をとることが必要です。

 さらに、残業時間の上限をルールとして定めることも必要です。厚生労働大臣は、労働基準法に基づく告示を出し、残業時間の上限を年間三百六十時間、月間四十五時間としましたが、政府の調査でも、男性の五人に一人が一カ月の残業時間が八十時間を超えています。日本共産党は、残業時間の上限を年間百五十時間とする労基法改正案を提案していますが、当面の緊急措置として、政府が、自ら決めた大臣告示を厳格に守る責任をはたすことを強く要求します。裁量労働制の拡大と導入の要件緩和は、長時間労働をさらにひどくするものであり、絶対にやるべきではありません。

(2)長時間労働是正のもうひとつのカギである有給休暇をとれるようにする

 ■取得率を最低でも80%以上とする目標をもち、有休取得率の労基署への報告を義務化する 昨年の有給休暇の取得は、48・8%と過去最低です。ヨーロッパでは八割、九割が当たり前であり、世界でも異例の低水準です。取得率の向上を政府の目標とし、当面、80%を目指し、とくに、取得率が50%を割る企業には改善を勧告し、特別の事由もなく改善されない場合には企業名を公表します。中小企業に対しては、時短促進法でとったような奨励金制度をつくるとともに、企業名の公表などは一定の猶予措置をとります。

 ■恒常的な長時間残業や有休を取れないことを前提にした生産計画・要員計画をなくす 企業の生産計画、要員計画が、恒常的な長時間残業がなければ達成不可能だったり、「出勤率96%」などと有休を「捨てさせる」ことが前提になっていることが、問題の根本にあります。有休の取得計画や労働時間にかかる生産計画、要員計画に関して、労働者代表と協議をし、その内容を労基署に届け出るとともに、労働者が閲覧できるようにします。

三、失業者に仕事と生活保障を――失業者対策臨時措置法の制定を

 わが国の雇用保険制度をはじめ失業者への対策の骨格は、完全失業率が1〜2%のころにつくられたもので、今日の深刻な事態にはまったく不十分です。政府の調査でも、完全失業者のうち、雇用保険の失業給付を受けている人は、二割にすぎず、半数がまったくの無収入です。失業給付が最長でも三百三十日の日本に対して、ドイツは九百六十日、フランスは千八百二十五日の給付があり、しかも、ヨーロッパでは、雇用保険が切れた後でも、資産がなく、生活に困窮する失業者には生活扶助制度があります。日本の失業者への支援は、世界でも最低クラスにもかかわらず、雇用・失業が大問題になっているときに、小泉内閣は、失業給付をさらに二千億円も削減しようとしています。職を失うという大きな痛手を受けている人にこそ、社会の支援が必要です。

 少なくとも、完全失業率が3%程度に下がるまでは、以下のような緊急措置をとるために、失業者対策臨時措置法を制定します。

 ■失業者への生活保障を拡充する 失業者とその家族への支援は、社会の連帯として当然のことです。次の措置を緊急にとります。

 (1)給付期間を最低でも一年間に延長するなど、雇用保険の失業給付を拡充する。(2)雇用保険が切れるなど対象からはずれ、生活に困窮している失業者には、「再就職支援手当」を支給できる制度をつくる。(3)失業者の家族への「セーフティーネット」として、子弟の学費の「緊急援助制度」、住宅ローン返済の一時的な繰り延べ制度、健康保険、厚生年金の継続加入と保険料の減免などの制度をつくる。

 ■失業者へのつなぎ就労の場を提供する臨時就労事業を創設する 学校や社会教育、福祉、環境、公園などの各分野で、臨時公的就労の場を自治体がつくり、国が財政に責任を負う「新しい失対事業」を起こします。そのために、現在の「緊急地域雇用創出特別交付金事業」を抜本的に改組し、予算も増やします。

 ■青年失業者・新卒未就職者に仕事や職業訓練を保障するなど、青年失業対策に本格的に取り組む 青年の雇用危機は、たいへん深刻にもかかわらず、新卒で就職できなかった人をはじめ、多くの青年が雇用保険からしめだされており、職業訓練など、雇用保険で実施されるさまざまな事業から除かれています。ヨーロッパ諸国で、新卒未就職者の生活保障も実施され、青年失業への特別の対策がとられているのとは、大きな違いです。

 雇用保険制度を改革し、新卒未就職者や雇用保険に加入していない青年でも、生活のための給付や職業訓練を受けられるようにします。多くの青年労働者が、権利があるのに社会保険未加入のまま放置されている状態をなくすために政府として特別の体制をとります。

 失業者への臨時就労事業でも、とくに青年に対しては、臨時でも、社会に役立つ仕事で技能をみがき、人間としても成長できるように配慮する必要があります。そのために福祉や環境、街づくりなどの活動をしているNPOでも働ける環境をつくります。失業青年がNPOで臨時の仕事についた場合、国と自治体が賃金助成などをおこなうようにします。賃金助成は各団体の要請を基本にし、自主性が損なわれないようにします。

【税金の使い方を変えて財源を確保する】

 雇用保険財政は、リストラをして大量の失業者をつくった大企業に応分の負担をもとめるとともに、国庫負担の割合を法律の原則に則して三分の一に引き上げるなどの措置をとります。

 国と地方の税金の使い方をあらためることも必要です。大不況のときこそ、雇用や社会保障を最優先にして、国民の暮らしを守ることが、国や自治体の税金の使い方として当然です。ところが小泉内閣は、不良債権処理の加速の結果、銀行が自己資本不足になれば公的資金を投入するとしています。失業と倒産を増やすために税金を使うなど、とんでもないことです。公共事業や軍事費などの浪費にも本格的なメスをいれるべきです。


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