2002年12月18日(水)「しんぶん赤旗」
厚生労働省が十七日に公表した「医療制度改革」試案。今年の通常国会で強行された医療改悪(健保本人の三割負担導入など)に続く「抜本改革」の柱となるものです。その中身は国民に新たな負担増を押しつけるとともに、医療のあり方を大きく変えるものとなっています。 秋野幸子記者 斉藤亜津柴記者
試案では、新しい高齢者医療制度について、「リスク構造調整方式」と「独立保険方式」の二つの案を併記しました。
医療保険は現在、国民健康保険(国保)や組合健康保険(組合健保)、共済などの制度にわかれています。リスク構造調整方式は、各制度の加入者の年齢構成や所得の違いによって生じる負担の不均衡を是正するというものです。
退職したサラリーマンは被用者保険(健保、共済など)から国保に移るため、国保は加入者の高齢化がすすみ、医療費はほかの保険に比べて増えざるをえません。また、中小企業が加入している政府管掌健康保険(政管健保)は、大企業の組合健保と比べると加入者の所得水準が低くなっています。
こうした医療費増や保険料収入のマイナス要因をリスク(危険)ととらえ、その結果として生まれる格差を調整しようというもので、坂口力厚労相が私案として打ち出しました。厚労省はこの方式を軸に検討をすすめています。
リスク調整によって、若年世代や高所得者が比較的多い組合健保や共済が、政管健保や国保を支援する形になり、負担が大きく増えます。このため大企業などは強く反対しています。厚労省の試算では、二〇〇七年度の組合健保と共済を合わせた保険料は、いまより年七千億円の負担増となります。
もう一つの独立保険方式は、七十五歳以上のお年寄りを対象とする新しい保険制度をつくるというもの。その財源はお年寄りの保険料、患者負担、公費などでまかないます。自民党などが提案しています。
この方式では、介護保険と同じように、すべてのお年寄りが保険料を負担することになります。その額は、一人あたり平均で月七千二百五十円(年間八万七千円。厚労省試算、二〇〇七年度)にものぼります。七十五歳以上の全体では、三千億円もの負担増です。
一方、公費負担を給付費の50%とした場合、国庫負担はいまより年四千億円の減少となります。
医療保険は、雇用されている人たちが加入する被用者保険と、市町村が運営する国保に大別されます。厚労省試案は、この「再編・統合」の具体的方向を示しています。
国保は各市町村の運営を都道府県ごとに統合。被用者保険のうち政管健保は社会保険庁の一括運営から都道府県単位への分割を提案しています。政管健保は全国一律の保険料率から都道府県ごとに格差をつけることになります。
統合・再編の目的は、「財政基盤の安定」をかかげ、市町村国保の場合は加入規模が大きくなるメリットを強調します。しかし、市町村国保の財政危機は、この間の国庫負担の削減に原因があり、失業者の加入増(被用者保険からの移入)がこれに拍車をかけています。試案は、こうした根本原因への対応を回避しています。
このため改革の内容としては「保険者機能の発揮」を強調しているのが特徴です。医療費を抑制するための管理強化を「保険者機能」として発揮してもらうというもの。医療費をほかより使っている地域にたいし「適正化」の努力を促す仕組みの導入、医療費請求書(レセプト)の「点検」強化などを提起。医療費抑制によって「財政安定」をはかる内容です。
診療報酬については、新たな価格評価の導入を求めています。改革の中心は、医療費抑制のための「効率化」と、保険で支払わなくてもいい保険外負担制度の拡大です。
基本方向としては、医師などの医療技術への評価と、施設など医療機関の運営コストにたいする評価を区別した報酬体系を提起しています。
運営コストに関連した見直しとして、病気の種類や症状の度合いによってグループ(診断群)に分け、各グループごとに医療費を一括して定額で支払う包括評価の仕組みを導入。これを病気が長引かない急性期の入院患者に適用し、入院期間の短縮化を促進するねらいです。
高齢者など入院が長期化する慢性医療については、病態や看護度に応じた包括評価を導入。包括評価は医療費の抑制策として財務省が強く求めているものです。
医療技術については、治療や手術の「難易度」「時間」単位による報酬単価の設定を提起。これを受けて、「患者ニーズの多様化や医療技術の高度化」を踏まえた保険外負担(特定療養費制度)の拡大を打ち出しています。特定療養費制度は差額ベッドなどで患者に大きな負担を強いていますが、これを技術の高い医師や施設の整った病院にかかる場合にも広げるのがねらいです。
患者の「選択」を名目に保険外の料金徴収をすすめ、公的保険の医療費抑制にもつなげようとしています。