2002年12月18日(水)「しんぶん赤旗」
政府は十日、文化審議会が答申した「文化芸術の振興」の「基本方針」を閣議決定しました。約五年にわたる政府の文化行政の基本となるものです。
「基本方針」は、昨年十二月に制定された文化芸術振興基本法にもとづいて、文化行政の「基本的方向」と「基本的施策」を述べたものです。重視すべき方向として「文化芸術に関する教育」などをかかげ、「留意すべき事項」として「芸術家等の地位向上のための条件整備」などをもりこみました。「基本的施策」は、文化芸術振興基本法の各条文にしたがって施策を述べています。
今回の「基本方針」づくりにあたっては、文化芸術振興基本法がうたった「国民の文化的権利」や「専門家の地位向上」といった理念が「方針」にどう具体化されるか、芸術・文化活動の現場での困難の解決のためにどういう施策が打ち出されるのかが注目されていました。
審議の過程では、芸術・文化団体から多くの意見が出されました。映画、演劇などの現場からは、労働災害の補償すら受けられない実態など、実際に障害となっている課題の解決を求める声が多くよせられました。
また、公的支援にあたって、専門家からなる第三者機関をつくって審査してほしいという意見や、芸術・文化活動を支える税制支援や文化予算のさらなる拡充を求める積極的な提案もありました。
しかし、これらの提案・要望をきちんと受けとめ、「基本方針」に反映したかというと、きわめて不十分でした。とくに、要望の強かった労災補償や人材養成などについて、踏み込んだ記述がなされなかったことはたいへん残念なことです。新たな税制支援や文化予算の拡充も記されませんでした。この点では、一般紙の社説も「資金面の提言が迫力に乏しい」(「東京」十一日付)と批判しました。
昨年来、「基本方針」をめぐって、どうしたら日本の芸術・文化活動を豊かに発展させることができるかと、関係者が大いに議論し、各団体が要望として国に求めるようになってきたことは、今後の文化行政のゆくえを考えると大きな財産といえます。
文化庁も、答申案発表後のパブリックコメント(意見募集)で出された意見の多くにたいして、「基本方針を踏まえ、具体的な取組が進められることと考えます」と回答しました。出されている要望をその言葉通り具体的な施策として着実にすすめることが政府に求められています。
そのさい、振興基本法の審議でも確認された、芸術・文化活動の自由・自律を尊重し、政府の役割は「基本方針」に記されたように、「諸条件を整えることを基本とする」ことに徹して「介入」とならないようにすることが大事です。また、芸術・文化活動への公的支援を、主役である現場に寄り添ったものにするためにも、芸術家・団体や国民の意見を反映する体制づくりが急がれます。
「基本方針」は「おおむね五年間」とされていますが、同時に、「諸情勢の変化」など、「柔軟かつ適切に見直しを行う」としています。芸術・文化活動への公的支援に関心が高まり、そのあり方の議論がすすんでいるだけに、活動や議論の進展に応じて、見直すことも必要です。(辻 慎一)