2002年12月21日(土)「しんぶん赤旗」
お年寄りの年金はカットして、イージス艦は一隻購入します―。ひきつづき「改革断行予算」だと小泉内閣がぶち上げた来年度予算財務省原案は、年金、医療、福祉など社会保障費の伸びをきびしく削り、ムダな公共投資や軍事費はそのまま。行き詰まりがはっきりした小泉流「構造改革」を強行する「痛み押しつけ予算」第二弾です。
2003年度予算の骨格(財務省原案) | ||
一般会計81兆7891億円(0.7) | ||
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◇一般歳出 | 47兆5922億円 | (0.1) |
社会保障 | 18兆9796億円 | (3.8) |
文教・科学 | 6兆4309億円 | (▲4.1) |
軍事費 | 4兆9529億円 | (▲0.1) |
公共事業 | 8兆0971億円 | (▲3.9) |
経済協力 | 8161億円 | (▲4.7) |
エネルギー | 5567億円 | (▲2.2) |
中小企業 | 1715億円 | (▲7.8) |
◇国債費 | 16兆7981億円 | (0.8) |
◇地方交付税交付金等 | ||
17兆3988億円 | (2.3) | |
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◇歳入のうち | ||
税収 | 41兆7860億円 | (▲10.7) |
国債 | 36兆4450億円 | (21.5) |
(国債依存度44.6%、2003年度末発行 | ||
残高450兆円程度) | ||
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財政投融資計画 | 23兆4115億円 | (▲12.6) |
( )内は2002年度当初比伸び率%、▲は減 |
軍事費 | 「聖域」扱い5兆円 |
イージス艦、空中給油機も |
二〇〇三年度予算原案は「メリハリの効いた予算配分」「無駄を徹底して排除」とうたいながら、軍事費(防衛関係費)に四兆九千五百二十九億円を配分しました。前年度比でわずか0・1%の減(三十一億円減)にとどまり、引き続き五兆円に迫る高水準です。”第二の軍事費”といわれる情報収集衛星(軍事偵察衛星)予算を加えると、今年度予算に引き続き五兆円を超え、五兆百七十三億円にも達します。「聖域」扱いは依然変わりません。
「海外派兵」型の装備調達が引き続き目立ち、米国のイラク攻撃をにらみ、インド洋への派遣が強行された「こんごう」級イージス護衛艦の次世代新鋭艦(一隻)の調達に、千三百六十五億円を計上。これが完成すれば、日本の保有するイージス艦は六隻となります。
また、戦闘機の航続距離を飛躍的に伸ばし、海外遠征を可能にするボーイング767空中給油・輸送機は、今年度の一機に続いて二機目(二百四十七億円)を計上しました。
一方、大規模な上陸部隊による日本侵攻を想定した九〇式戦車を防衛庁の要求から一両削減しただけの十七両(百三十六億円)も調達するなど、無駄遣いぶりも目立ちます。
米軍基地の維持・強化を優先。沖縄の米軍基地をたらい回し・強化するための予算である「沖縄に関する特別行動委員会」(SACO)関係経費は、防衛施設庁の要求を昨年に引き続き百パーセント認め、今年度予算より百億円増の二百六十五億円。このなかには、日米両政府が名護市沖に建設を予定する最新鋭基地のための環境影響評価経費(約十四億円)が初めて盛りこまれています。
年金、生活保護 | 軒並みカット |
暮らしと経済危機に拍車 |
財務省原案は、社会保障の分野でかつてない給付の削減が盛り込まれました。
年金では、来年度の国民年金や厚生年金の給付額を、今年の物価下落分に応じて0・9〜1%引き下げることにしました。すでに年金を受け取っているお年寄りへの給付額を削減するのは初めてです。厚生年金の平均モデル額(一人月十七万七千円)でみると、一カ月に千七百七十円、一年で約二万一千円もの給付が削られることになります。医療費の患者負担引き上げなどに苦しむお年寄りの暮らしを、いっそう締めつけることになります。
物価スライドによる年金の引き下げは、母子家庭の児童扶養手当や、被爆者などを対象とした各種手当の削減にも連動します。児童扶養手当については、制度改悪によって八月分から大幅な減額がおこなわれたばかり。これに追い打ちをかける給付減になるため、実施時期を半年遅れの来年十月とします。
不況による生活苦などによって受給者が増えている生活保護費についても、支給額算定の基準を制度開始以来初めて引き下げます。引き下げ幅は0・9%。東京二十三区など大都市(三人世帯)の場合、生活扶助の基準は月十六万三千九百七十円から十六万二千四百九十円に、千四百八十円の引き下げとなります。
これらの給付削減は、長引く不況のもとで暮らしと経済の危機をいっそう深刻にするものです。
高速道路 | 国直轄は3兆円 |
道路特定財源使い建設 |
財務省原案で、来年度の高速道路建設費について「道路関係四公団民営化推進委員会で言及がなかった」(財務省)として、今年度と同額の九千百六十億円を計上しました。〇五年の日本道路公団の民営化前に、建設中の路線は重点整備する方向です。
民営化会社が造らない高速道路について、〇三年度から国と都道府県が共同で整備する新たな直轄方式も導入します。
新直轄方式は、新会社が料金収入で管理費も出ない不採算路線を建設しないことを見越し、十五年間で約三兆円を投じます。平均すると、年間二千億円(地方負担分五百億円)で、〇三年度の事業費は約千三百億円(同三百億円)となります。
本州四国連絡橋公団の巨額債務(約三兆八千億円)のうち一・三兆円強を切り離して道路特定財源で五年間かけて処理し、初年度は二千二百四十五億円を措置します。
小泉首相が公約していた道路特定財源(〇三年度税収見通し約二兆七千億円)の見直しでは、地下鉄整備やディーゼル車から出る粒子状物質(PM)の除去装置への補助創設などにわずかに使い道を広げました。ただこれも、国土交通省の枠内での使途拡大にとどまり、社会保障などにも使う一般財源化ではなく、改革にはほど遠いものです。
揮発油税(ガソリン税)が八割近くを占める道路特定財源は、本来の税率に上乗せしている暫定税率が今年度で期限切れとなりますが、自民党税制調査会も予定通り暫定税率の五年延長を決めました。
痛みは限度 | |
大企業優遇は不変 |
世相をあらわしているのかなぁ―。
〇三年度の社会保障関係費の伸びをみた財務省幹部のつぶやきです。来年度の社会保障関係予算案で、生活保護費と失業対策費が二ケタの”伸び”になっているのです。
社会保障関係費は、もともと高齢化などで約九千億円が自然に増えるはずでした。それを原案では自然増分を約20%も減らしているのです。それでも生活保護費などが大幅に増えるのは小泉内閣の経済失政で、受給者が増えているからです。
自然増部分の伸びを抑えれば、つけは国民に回ります。制度が始まって以来初めて給付が減る年金のほか、生活保護、児童扶養手当も切り下げです。不良債権最終処理の加速でこれからさらに増えそうな失業への対応も”セーフティーネット”(安全網)の拡充どころか雇用保険の給付カットです。
小泉首相の経済失政の「痛み」はもう限度を超えています。ぎりぎりの国民の生活にこれでもかと「痛み」を押しつける予算原案では、景気はもっと冷え込み、財政悪化の悪循環は底無しになってしまいます。
国民に「痛み」を押しつける一方で、大企業や大手銀行優遇は、来年度も相変わらずです。
”メリハリをつけた”という公共投資関係では、関西国際空港、中部国際空港など大都市圏拠点空港や環状道路が「伸率大の例」として堂々と並びます。一隻でも中小企業予算に迫るイージス艦の購入など、ムダな軍事費は五兆円に迫る横ばいです。
大銀行のための公的資金投入枠は七十兆円を超し、三兆六千五百億円の増額です。さらに「産業再生」の名で、企業・産業の整理・淘汰(とうた)をすすめるために、十兆円の新規枠までつくる気前の良さです。
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今後も痛み | |
消費税率2ケタも |
政府は、景気対策に二兆円の「先行減税」をしたといっています。その中身は、黒字の大企業には研究開発・投資減税、大資産家には証券、土地、相続税の税率引き下げ。国民には恩恵がありません。
国民にとってはここでも「痛み」が待っています。来年度は所得税の配偶者特別控除が廃止され、発泡酒などの庶民増税が強行されます。所得税の各種控除は縮小の方向で議論が進んでいます。
消費税の税率引き上げも当然のことのように議論されています。年金制度を維持するためには二ケタ税率をがまんしろという議論です。〇四年度に実施される中小企業のための免税点制度の縮小などは、税率引き上げのための「条件整備」といって狙いを隠しません。
小泉首相の社会保障改悪スケジュールも続きます。原案で積み残した分だけでも、年金給付の過去三年間の物価下落分カット、雇用保険制度の改悪があります。際限なしの「痛み」の押しつけでは、国民の暮らしも日本経済も悪くなるばかりです。
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財政破たん | ||
借金1人あたり537万円 |
空前の財政破たんが国民を襲っています。国と地方を合わせた借金(長期債務残高)は二〇〇三年度末には六百八十五兆円という天文学的数字を記録しそうです。生まれたばかりの赤ちゃんから、お年寄りまで国民一人ひとりでみると五百三十七万円にも達します。四人家族では二千百四十八万円です。
借金地獄は先進国の中でも突出しています。〇三年(暦年)の国と地方の借金を国内総生産(GDP)比でみると日本は151%。イギリスの三倍です。日本の次に比率が高いイタリアと比べても43ポイントも高くなっています。(OECD調べ)
アメリカの圧力のもと、歴代自民党政権による大型公共事業の拡大や巨額の軍事費の無駄づかいの一方で、大企業のために相次ぐ法人税減税や大金持ち減税による税収の空洞化が構造的な要因です。さらに、大企業のリストラが不況に追い打ちをかけ、来年度の税収は今年度より五兆円も落ち込む見込みです。
小泉内閣は、財政破たんを引き起こした原因にまったく反省することなく、研究・投資減税などの大企業減税をおこなう一方、「都市再生」を名目にした大型公共事業を推進、亡国路線を突き進んでいます。
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泥沼の景気。師走の商店街には人の姿がめっきり少なくなりましたが、宝くじ売り場には行列ができています。いつリストラにあうかもしれぬ不安な面持ちで並ぶサラリーマンの姿もありました。
日本共産党は、経済危機から国民の生活を守るために「四つの緊急要求」にもとづく共同のたたかいを進めています。
(1)小泉内閣がすすめる社会保障での負担増を中止すること、(2)国民や中小企業への増税に反対、(3)「不良債権処理」の名による中小企業つぶし政策の転換、(4)職場で荒れ狂う退職強要や「サービス残業」など無法を一掃し、失業者への生活保障――。
日本経済の活力の源泉は一人ひとりの国民です。みぞうの大不況から国民経済を救うため、家計応援政治への転換は待ったなしの課題です。この路線への転換でこそ厳しい状況から抜け出せる道も開けてきます。