2007年1月28日(日)「しんぶん赤旗」
主張
原爆症認定集団訴訟
国民的な支援、連帯の輪を
原爆症認定集団訴訟のたたかいが、大きなヤマ場を迎えています。昨年は大阪地裁、広島地裁で、原告全員勝利の判決が出され、続いて今年一月末には名古屋、三月には東京、仙台の地裁判決が予定されています。また政府・厚生労働省の控訴により、大阪高裁についで、広島高裁でも二月から審議が開始されます。
あくまで切り捨てに固執
集団訴訟以前の裁判を含めれば、国はこの十年余の九回の判決すべてで、原爆症認定拒否は不当との司法の判断をつきつけられました。しかし基準見直しを迫られた国がやったことは、切り捨てを強めることでした。今また集団訴訟での連続敗訴をうけ、巻き返しの姿勢をあらわにしています。
昨秋から始まった大阪高裁での控訴審で国側は、原告らは“原爆放射線による被曝(ひばく)はほとんどしていない。だから疾病に放射線起因性を認める余地はない。被爆直後の下痢、脱毛なども原爆による急性症状であるわけがない”と言い放ちました。
また十二月には厚労省のもとで、“C型肝炎と原爆は無縁”という研究報告書がまとめられました。集団訴訟以前に同疾病で訴えた被爆者が、東京地裁、東京高裁で勝訴、認定されたことから、肝機能障害についての認定基準の見直しが求められていたのです。しかし厚労省は、裁判で国側証人となった研究者を再検討の責任者とし、被曝がC型肝炎ウイルスによる肝炎の進行を促進した可能性を示唆している論文を引用しながら、強引に影響はないと結論づけさせました。
このように国は、機械的で被爆の実態を直視していないと厳しく批判された基準にあくまでも固執し、切り捨てを合理化しています。
現在、集団訴訟は二百二十九人の原告、十七の地裁、二つの高裁にひろがっています(十五日現在)。亡くなった人はすでに二十九人。裁判の解決、認定行政の抜本改善はまさに緊急の課題です。
しかもこれは、被爆者だけの問題ではありません。反核・平和、国民の生命と権利を守る政治の実現につながる課題です。
最近、キッシンジャー元米国務長官らが、核兵器拡散の危険が強まっているもとで、アメリカこそ核兵器のない世界への本格的な取り組みを開始すべきだと提起しました。これにたいし日本では、北朝鮮問題を口実にした核保有論議やアメリカの核抑止力への固執など、被爆国政府の高官にあるまじき発言が続いています。原爆被害の矮小(わいしょう)化は、核兵器廃絶の課題を棚上げし、その使用・脅迫政策の是認につながるものです。
認定拒否の根底には、国民に原爆被害をふくめ戦争被害の「受忍」を強いる政策もあります。憲法改悪を軸に「戦争する国づくり」が進められるもとで、このたたかいはいっそう今日的なものとなっています。
また、じん肺や水俣病などの問題でも、国の責任と救済を認めた司法の判断を次々と拒否しているもとで、国民犠牲の政治のあり方を問うたたかいの一翼でもあります。
初の被爆者・市民大集会
三十一日、原爆症認定集団訴訟の解決を求める、初の被爆者と市民の大集会が開催されます(東京・日比谷公会堂、午後六時半から)。被爆者、弁護士、医師、研究者、平和運動家、そして青年などが支援の輪を広げています。被爆者のねがいを国民的な課題として、大きな世論、運動をひろげ、頑強な抵抗を打ち破る重要な契機になるでしょう。