2007年2月5日(月)「しんぶん赤旗」
「安心の年金」どうなる
政府・与党の社会保険庁「廃止・解体=民営化」法案
政府と自民・公明の与党は、厚生年金や国民年金の業務を行う社会保険庁の「廃止・解体=民営化」をねらい、今国会に関連法案の提出を予定しています。与党は「最重要法案」と位置付けていますが、「安心した年金制度」を求める国民の願いにこたえるものでしょうか。(小林拓也)
安倍晋三首相は、施政方針演説で「社会保険庁については、規律の回復と事業の効率化を図るため、非公務員型の新法人の設置など、『廃止・解体六分割』を断行します」(一月二十六日)と表明しました。
民間に委託
社保庁は公的年金や政府管掌健康保険(中小企業の労働者が加入)の運営と業務を行う国の機関(厚生労働省の外局)です。社保庁をめぐっては昨年、国民年金保険料の不正免除問題などが発覚。与党側は、年金行政への国民の不信・不安に応えることを「廃止・解体」の理由にあげています。
政府・与党は昨年十二月十四日、法案の基本方針を決定。そこでは、国民保険料の徴収や年金給付など業務は「非公務員型の公法人」が担うということを柱にしています。また、「民間へのアウトソーシングを積極的に進める」として、保険料徴収や給付の業務を民間企業にまかせる方向を打ち出しています。保険料滞納者への「強制徴収」は、国税庁に委託することにしています。
民間企業に保険料徴収業務などをまかせることは、大量の個人情報を民間に委ねることになります。営利目的の民間企業が個人のプライバシー情報をにぎることは、データの管理や「目的外使用」の面で大きな不安があります。
社保庁「改革」をめぐって、政府・与党は昨年の通常国会に「ねんきん事業機構」法案を提出しました(臨時国会で審議未了・廃案)。同法案でも、民間企業に業務を委ねることが盛り込まれましたが、年金業務を行うのは国の「特別の機関」として国の責任が明確にされていました。しかし今回の政府・与党案は、年金の業務部分を完全に国から切り離すとしています。
しかし、年金事業を国から切り離すことは問題あり、としていたのは厚生労働省自身です。社会保険庁の在り方に関する有識者会議は、最終とりまとめで、公的年金制度は「国の責任の下に、確実な保険料の収納と給付を確保し、安定的な運営を図ることが必要」(二〇〇五年五月三十一日)と述べています。政府・与党案はこの会議の結論と矛盾したものです。
年金部門が公法人の運営になれば、いまは国が負担している年金業務の人件費が加入者の保険料で負担される可能性があります。昨年の医療改悪で、政管健保の公法人を社保庁から切り離して設立することが決まりました。政管健保の公法人の人件費は加入者の保険料でまかなうことが決まっています。同じことが年金部門にも起こると考えられます。
雇用脅かす
新法人の発足にあたり、社保庁職員はいったん退職し、厳格な審査を行い、人員削減をしようとしています。非常勤も含めて二万九千人の雇用が脅かされます。
国民年金の最大の問題は四割が未納・未加入という「空洞化」です。これを解決するには、高すぎる年金保険料の改善など年金制度そのものの抜本的な改革が必要です。政府・与党の社保庁「改革」案は、年金不安を広げるだけで、問題の解決にはなりません。
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社会保険庁六分割 社会保険庁がになう公的年金部分の業務は、(1)非公務員型の年金公法人(2)民間企業(3)国税庁(4)厚生労働省―の四分割に。政管健保の業務は、公法人「全国健康保険協会」と、厚生労働省の「地方厚生局」の二つに分割します。政管健保の業務については昨年の通常国会で成立した医療改悪法ですでに決まっています。